014 山での捜し物
第14話 山での捜し物
ゴバックさんのスープを堪能した俺たちは食休みの後、さっそくとばかりに果実の回収を始めた・・・
クリ・クルミ・リンゴ・山葡萄・・・山の恵みも豊かだったが、山葡萄を見たゴバックさんは、重点的に山葡萄を集めようとして数名の大人に止められていた。
(ゴバックさん・・・葡萄酒とか絶対酒がらみでしょ!みんなにばれてますよ・・・)
俺たちは保存の簡単なクルミやリンゴを中心に集め瞬く間にかなりの量が収穫できた。
湖の外周を三分の一ほど進んだとき「ド!ドドドド!!」と、かすかな音が聞こえてきた・・・ゴバックさんが言っていた滝の音だった・・・
湖から流れ出る小川沿いを進んでいくとぽっかりと開けた空間が出現し、俺を始め子供達全員が息をのんだ・・・
絶景!俺たちが居るのはちょうど滝の真上で、山の反対側が一望できる・・・木が生い茂る山・・・境無く続く森・・・そしてその向こうに見える海!
俺は意外な海の近さに驚きつつもっと地形やこの世界のことを覚えなければ!っと心に誓った。普通に考えてこの山から海が見えるなら俺たちの村を囲んでいる山を越えれば同じように海が見えるはずだ・・・
アレンが今まで聞いている話を総合してもこの国は内陸国家だし、海があるのはちょうど王都を挟んで反対方向に近い位置になるはずなのだから・・・
(今年は無理かもしれないが・・・来年には海に行き刺身が喰えるかも・・・)
「しかし、湖からの滝の流れが反対方向だったなら・・・」
『どうしたアレン?』
「いや・・・これが俺たちの登ってきた方角に流れていれば、川も大きくなって休憩拠点で風呂に入れたかな~って・・・」
『言われてみればそうだが、無いものを望むより今あるモノを工夫し大切にすることも大事だって事を覚えておきなさい』
諭すように答えるゴバックさんの言葉に、俺はまだこっちの常識や情報をほとんど持っていないガキだって事に改めて気が付かされた。
「そうですね・・・無い物ねだりしても良いことなさそうですし・・・」
『お!判ったようだな・・・それが判るなら充分だ!』
『んじゃあ、いつまでも眺めてるわけにはいかんから・・・そろそろ拠点に向かって戻りつつキノコなんかをさらに探すぞ!』
「「「はい!」」」 「「「了解!」」」 「「そうだな」」
来たときとは別ルートで山を下り始め見つけたキノコを収穫していると、岩場から水が湧き小さな流れを作っている場所を通りがかる・・・
「ゴバックさん!ちょっとそこを探索しても良いですか?」
『ん?まあ、ルートからはずれる訳じゃないから良いけど何かあるのか?』
「えっと・・・ひょっとしてワサビがあるかと思いまして・・・」
『ワサビってアレか?緑色して鼻につんと来るヤツか?』
「ゴバックさん知ってるんですか?」
『あぁ・・・昔な・・・王都にいたとき罰ゲームで喰わされてひどい目にあった・・・』
『アレン・・・誰かに喰わせていたずらする気ならゆるさんぞ!』
いきなり雰囲気が変わったゴバックさんは、俺をにらみつけると語気を強め詰め寄ってきた・・・
(ゴバックさん・・・そんな目に遭わせたのは俺じゃないのに・・・)
「ち、違います! 調味料に使う予定なんです。」
『あんな物が調味料にね・・・元がどんな物か知らないし生息場所とか気にしたこと無いから調べても居なかったな・・・』
『アレンは知ってるのか?』
「たぶんですが・・・山奥の清流に生えてるはずなので有るかな~って」
『まあ、大体でも判るなら後は「鑑定」を使えば判るだろうな・・・』
「鑑定?・・・想念法ですか?」
『あぁ・・・本来は「光と契約」の属性だが初級の鑑定は2~3威階でほとんどの者が使えるからな・・・』
『詳しい内容や利用法は中級以上の鑑定じゃないと無理だけど、初級鑑定ならほとんど誰でも覚えられるからな・・・』
(へ~この世界の魔法って0か1かの先天的属性縛りじゃなく、得意属性と半減属性で一応全員全属性持ちだから便利だよな・・・)
「じゃあ、ちょっと探してみます!」
『了解した!あまり離れるんじゃないぞ・・・』
しばらく小川の流れを探していると、なんだか何かで見たことのあるような葉が群生しているのを見つけたので掘り出してみると、何となくワサビっぽい物を見つけた。
「ゴバックさん!鑑定ってどうやるんですか?」
『お!見つけたのか?どれ・・・俺に貸してみろ!』
『光と契約の神よ、御身のお力で、この物の本質をお教えたまえ・・・』
・・・
・・・
『ふむ・・・アレンが言うようにこれは「ワサビ」で間違いないようだ・・・』
『アレンは確か「闇と時空」の6威階だったな?系統は違うが「初級鑑定」は2~3威階だし、たぶん出来るはずだから試してみろ!』
『他の子も出来るかもしれないから試してみなさい、出来るなら便利だからな~』
ゴバックさんに促され俺を始め4人の子供全員が「初級鑑定」を試してみる・・・
「あ!出来た」・・・
(「ワサビ」・・・山奥の清流に自生する刺激性植物、食用可)
俺は自分の目の前に突然二重写しのように文字が現れ、説明文が見えるので驚いたが・・・みんなも同じように見えているのかな?
「お!」 「え!」 「なんだこれ・・・」
残りの3人も出来たようだ・・・
『判るようになったか?今見えている鑑定の結果は、本人の知識量に比例して情報量が増える。たぶんアレン以外は名前しか見えていないか生息場所の情報ぐらいだと思うが・・・』
『まあ、おいおい覚えていけば情報量も増えるから問題ないので、よく勉強して情報量を増やしなさい』
『あまり使いすぎると念量の無駄遣いで倒れるから使いすぎるなよ!』
「「「はい!」」」
俺は鑑定したワサビを近くにあった比較的平たい石をよく洗ったものに擦ると、できあがったワサビをちょっと指に付けてなめてみた・・・
(おおお!!この刺激!・・・鼻につ~~んと来る感覚!まさしくワサビだな・・・)
懐かしさも有りワサビの刺激を堪能していると、ゴバックさんが俺近づいてきて・・・
『ほう・・・そうやって使えるようにするのか・・・喰ってたようだが大丈夫なのか?』
「はい!ぴりっとした刺激があってつーんと鼻に抜けてきますが、少量なら僕でも平気ですよ!」
『そうか・・・』
迷っているような困ったような顔をしていたゴバックさんだったが・・・
『少し俺にもくれ・・・試してみる』
と言いだし、俺から少量のワサビを受け取ると一気に口に含んだ!
『むほ!・・・ん・・・これは・・・』
・・・
『これは確かに・・・結構刺激があるが少量なら大丈夫そうだな・・・しかし、どう使うんだ・・・』
『ちょっと全員集まってくれ!』
『アレンが見つけた「ワサビ」だが・・・一応、全員で名前・生息場所を覚えて少量の味見をしておいてくれ、何かの役に立つかもしれないし知識量を増やすのは良いことだからな!』
『ただし・・・かなりの刺激物だからごく少量にしておくことを進めるぞ!』
「「うぐ」」 「「「む・・・」」」 「「ぐおぉ・・・」」
俺やゴバックさん以外の人達も次々と「ワサビ」を試すが・・・
(大人は大丈夫そうだけど・・・子供は俺以外涙目になっているぞ・・・あ!ゴバックさんがニヤッと笑ってる・・・ ・・・)
まあいいか・・・俺はワサビの群生地から大小色々なサイズのワサビを収穫して自分の空間に入れたが、子供の様子を見ていた大人以外はワサビに興味がないようだった・・・
(まさか・・・ひょっとして・・・罰用?・・・まさかね・・・)
ワサビの収穫が終わると、順調に山を下っていき日が暮れる前拠点に到着した。
薪を集めて夕食を作っていると親父達も戻ってきてお互いに成果を確認してから豪華な夕食が始まった。
ぐつぐつと煮える鍋!・・・そう、それはスープと言うより俺の感覚的には鍋だった・・・
またもや、どこからともなく酒が出てきたと思ったら大人達は酒盛りを始め・・・
食事を終えた子供達が寝るまでの間の見張りに立ってしばらくすると・・・「ぐえぇ~~」とか「えっふげっふ」とか・・・変な声が聞こえてきたが、決して俺のせいではない!
俺たちは赤い目や涙目の大人と見張りを交代すると、酒を飲んでまだ騒いでいる親父達を横目に部屋の隅で毛布にくるまりとっとと眠りについたが・・・親父達がうるさくなかなか寝付けないので本日の反省をしてみた。
今回の収穫は、少し地形が判ったことと「ワサビ」を手に入れたこと、それと「初級鑑定」が使えるようになったことだな・・・
後は醤油が手に入れば良いんだけどな~やっぱり今度親父達に相談だな・・・
なんて、考えているうちに宴会も終わったのか暗く静かになったのですぐに眠ってしまった。




