104 春の訪れと始まった改革!
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第104話 春の訪れと始まった改革!
春になった俺達がまず最初にしなければいけないのは・・・移動ルートの安全確保のために行う狩りだ!
他の地域でもそろそろ始まってるだろうが・・・今年のウチの村では大魚亭と海の拠点を開発するため、大量の移住者がやってくる。
まあ、技術者の集団がメインなんだが・・・当然素人で、狩りに参加とか自力だけで移動なんて出来ないし・・・結構手間が掛かるな・・・
「この辺も念入りにやっておかないと・・・移民してくる移住者に怪我でもされたら評判が悪くなるからな~」
「そうだな・・・この辺の地形なら向こうに罠を仕掛けておこう」
「ピロンさん、あそこにお願いできますか?」
「アレンさん・・・お気遣いは無用です。『ピロン』と呼び捨てにして下さい!」
俺達は、建築の親方・・・アステルさんのお願いを聞き届けた、うちの親父の命令で・・・親方の息子ピロンを同行させて大魚亭と海の拠点の間で、新しい罠を作りつつ・・・狩りを行ってる真っ最中だ!
充分反省もしたみたいだし・・・そろそろ馬鹿息子とか考えない方が良いかも・・・俺達に協力というか一緒に作業してるピロンは、さすが親方の仕込みであろう腕を見せ・・・即座に落とし穴式の罠を想念法で作り出す。
「良し!じゃあ次に移動するぞ!」
ゴバックさんからの指示が周囲に飛び、次々と作られていく罠・・・
「今回は数が多くて・・・結構しんどいな・・・」
愚痴を言うケントに・・・
「そう言うなって・・・うちの親父がやってる村と大魚亭の間とか・・・人数が減ってる領主町と村の街道沿いとかよりたぶんましじゃないか?」
「まあな・・・街道沿いの方なんて普段の半分以下で、手間が掛かるけど・・・アレンも村長も居ないから・・・運ぶのが偉い苦労しそうだし・・・」
今回の振り分けで、俺達元子供組というか初心者のピロンまで同行してるのは作業内容もあるが、大魚亭か海の拠点で宿泊が可能だから疲労の少ない点が考慮された結果だ・・・
通常の街道沿いだと宿泊拠点などで泊まり込みになるから長期間の活動が難しいし・・・村と大魚亭の間も候補としてあったが、より疲労が少なく・・・援護を得やすい安全性が考慮され俺達は大魚亭と海の拠点の間にある道に罠を設置したり、狩りを行うことになってる・・・
「お前らサボってないで次に行くぞ!次!」
ゴバックさんから注意され・・・あわただしく次の設置場所を探して移動を開始すが・・・
---がごぅおおお---
俺達が移動を開始してすぐにそれなりに大きなグランドベアと小型の個体が現れた・・・
「弓構え!・・・狙ったな?・・・撃て!!」
俺達の前に出てきたグランドベアに生き残るすべはあまり無い、個人行動だと危ないが・・・
「槍持ち!・・・アレン・ブルス!とどめを刺せ!!」
ゴバックさんの声に反応して、反射的に槍を出し・・・グランドベアの眼球に槍を刺そうとブルスと一緒に繰り出すが・・・俺の方は角度が悪いので心臓に変更した。
『ズブゥ・・・』獣の身体を槍が貫く感覚が俺の手に伝わり、ブルスも眼球にキチンと槍を刺してる。弓で動きが鈍くなっているとはいえ・・・ちょっと緊張する瞬間だった・・・まあ、俺の方はでかいし・・・まだ結構動いていたから仕方がないか・・・
『運がなかったな・・・』・・・俺はとどめを刺したグランドベアを見ながら小さな声で呟いていた・・・俺達は無差別に狩りをしてる訳でも趣味での猟でもない・・・生活のために狩りをしている。
本来なら肉食獣は畑を荒らす草食系の獣を狩ってくれるので子連れは見逃すのだが・・・己のテリトリーの中でしか行動しないグランドベアが街道付近まで出てくるって事は、その個体のテリトリーに街道が含まれているからで・・・安全確保のため見逃すことは出来ない・・・ほとんどの場合だと自分のテリトリーを得ようと流れてきた若い個体が多いのだが・・・たまに子供が生まれてテリトリーを広げようと移動した親子も出るんだよな・・・
まあ、考えは理解できないでもないが・・・こっちだって生活がかかってるから情けを掛けてる場合じゃないし・・・
「じゃあ、次に行くぞ次!」
とどめを刺したグランドベアを回収してすぐに移動を開始する。
1週間ほど大魚亭と海の拠点を往復しながら罠の設置や狩りを行ったが・・・やはり途中にある森の当たりが一番獲物が多い・・・
どこから沸いてくるんだと思うほど罠に掛かる獣も多いし・・・それだけ危険だと言うことだろう・・・
「拠点拡張用の資材も運び込めたし・・・一端村に戻るか・・・」
「うぐぅ・・・」
「変な声を出すなアレン!・・・どうせ逃げられないんだ諦めろ!」
ゴバックさんが言った『村へ戻る』は・・・俺の場合、領主町の店を指導しに行くって事なので思わず変な声を出してしまったが・・・確かに逃げられないんだよな・・・開発資金の援助の条件としてのご奉公だし・・・
まあ、俺としても店の指導とかが嫌な訳じゃなく・・・領主が苦手ってだけなんだけど・・・
海の拠点で蓄えられていた海産物を大魚亭に運び、物流の確保と街道の安全を狩猟団メンバーに任せ・・・次の獣車で再び領主町への移動だ・・・
(あぁ~アノ領主の町か・・・気が重いな~)
前回の時は途中からどこかに行ったのでほとんど被害らしい被害は無かったが・・・俺の経験上、その反動が次回・・・つまり今回の訪問で爆発する予感がためらいの原因だ・・・
「ん~ケビンさんとオルドさんの親子には魚節の残りで良いとして・・・雪も解けたし、チャリは持って行った方が良いな・・・」
数日の準備期間で出来るだけ効率を良く向こうの生活が出来るように色々リストアップしているが・・・
「ケント・・・お前も考えろよ!」
「いや~そう言われても・・・結局、俺の仕事ってアレンの護衛というかつきあいだろ?店の事なんて判らないし・・・だったらアレンが用意するのを聞いてからの方が良さそうだからな~」
「むう~~~確かに・・・」
しかし・・・今回は秘策を用意してある。
「じゃあケント・・・アレに入って貰うからな!」
「え!・・・マジで・・・ごめん!悪かった!ち、ちゃんと考えるから・・・」
俺の部屋の隅に置いてあるとある物を見ながら・・・焦り出すケントを見て少し溜飲が下がったが・・・
(そんなに嫌な物なんだろうか?)
今回俺が用意した秘策・・・それは単なる着ぐるみなんだが・・・
新しい店の開店を考えていた時に、ミーアの持ってるぬいぐるみを見て・・・(そう言えば向こうじゃ開店の時良く着ぐるみとかマスコットが居たよな~)などと思い出したので・・・
デフォルメされ愛らしいぬいぐるみを参考にして作ってくれるように村の女性・・・まあ、母さんを中心とした人達に依頼の時作って大きさで残した魚節を賄賂に使って製作を頼んでいた物だ・・・
実際のグランドベアの皮とか・・・それなりに制作費もかかったようだが・・・どうせ領主の払いだし気にしないでおこう・・・
「新しい着替えは用意したし・・・普段着も持っていった方が便利だろうし・・・あ!普通の靴も持って行かなきゃな・・・」
こっちの靴・・・さすがに木靴なんて事はないが・・・革靴だから向こうの運動靴が恋しくなるが・・・俺の場合はまだサイズが流通してる一般サイズで助かる。
うちの親父やゴバックさんは注文だからな・・・前に服屋で靴を注文する親父に付いていったが、一般サイズの靴って言うのは動く広告らしいんだよね~
向こうみたいに機械で作ってるなら各種サイズを取りそろえて・・・なんて事も可能なんだが・・・全て手作りのこっちじゃ・・・見本用に3~4サイズの靴とその型紙が仕入れになり、基本は注文なんだけど・・・新しいのが展示されると見本用の展示品が口コミも狙って安く売り出されるんだよね~
記憶を自覚してから布を使った運動用の靴も提案してみたけど・・・耐久性が低いし・・・村の中なら運動靴やサンダルでも良いけど・・・大人だと村の外で仕事をする人が購入層なので危ないから売れないって言われちゃったんだよね・・・
まあ、毒のある蛇とか棘のある木なんかも結構あるしあんまり服などにお金は掛けないからね・・・俺の提案した靴は工程が増えるから高くなるって言われたし・・・さすがに売れない靴を作ってくれとは言えなくて・・・ボツネタになった。
そう言えば・・・ボツネタで思い出したが・・・スカートも人気がないんだよね・・・
確かに屋外作業の多いこっちじゃズボン型の方が便利で人気があるのも判るけど・・・若いお姉さんのズボン姿って、がっかり感が大きいよな・・・向こうの記憶じゃ異世界物だと露出の激しい服とかドレス的なスカートの文化が普通なのに・・・やっぱり田舎だからかな?
領主町ではチラホラとスカートとかドレス刑の服を着た人を見かけたし・・・おばちゃんだったから気にしてなかったけど・・・
まあ、郷に入っては郷に従え!って事だし・・・仕方がないか・・・
「アレン・・・さっさと決めないと時間が無くなるぞ!」
ちょっと妄想というか考え事に没頭していた俺は、すっかり手が止まっていたらしくケントに注意された。




