ちはちゃんの言うことにゃ編
「紹介しろ」
相変わらず無駄に偉そうなこの腐れ幼馴染みは、今日も絶好調に上から目線。
ちはちゃんこと私、千早は長身すぎるからこんなに偉そうなやつに育っちゃったのかしらと考えてみる。もちろんやつのオネダリなんかには即答で却下だ。
「ヤだよ、リュウに女の子紹介すると後々恨まれることになるじゃん。私が」
日本びいきのご両親のもと、こっちで生まれてこっちですくすくすくすく育って今では185cm弱にも伸びたリュウには、イギリス人の血が並々と注がれている。
見事な金髪に緑の目。堀が深いんだけど若干垂れ目な甘ーい顔立ちのせいで粗雑な印象は全くなく、見た目だけは王子様。カボチャパンツでも履いてろ。
その溢れる傲慢オーラを持ってしても、王子様の気位の高さに錯覚しちゃうほどの美形外人である。
そりゃもうモテますわね。ちっこい頃はまるで天使でしたから、それから今に至るまでちやほやちやほやと。やつは筋金入りのちやほやマンです。
こうして誰か女の子を紹介しろなんて言われるのも初めてじゃないのだけど、いつだってリュウはちやほやマンの上から目線男だから女の子たちは次々脱落していくばかり。
いつしか私は私の友だちの女の子たちをリュウに紹介するのを止め、もういかにもステイタスとかスペックとかそういうの重視なミーハーなその辺の子達と引き合わすのが常となっていたので、そのうちに私が差し出す女の子たちが似たり寄ったりになったせいかリュウもだんだんそんな無茶ぶりをしなくなっていた。
と思っていたのに。
「お前と最近一緒にいる女。あれがいい」
「ヤだって言ってんじゃん。女の子なら自分で漁りなさいよ、大学生にもなって幼馴染みにオネダリするなんて情けない」
ばーかばーか、リュウの狙いが私のお友だちなら尚更紹介なんてするもんですか。
だいたい最近私と一緒にいるって、もしかしなくてもさゆちゃんじゃない。絶対ヤだ。
脳裏に浮かぶのはのほほーんとしたあの笑顔。リュウと比べて短すぎる付き合いだけど、すでにあの子が大好きになった私がこいつの毒牙にかけさせるわけナッシング。
そんな私のいつにない強固な態度に、気分を害したとばかり片眉をぴくりと跳ねさせる王子様は。
「お前に何かをねだった事なんざ一度もないが?」
「あっそ!じゃあ今回が初回かな?ですけど残念!そのオネダリ、初回割引を差し引いても聞いてあげられるシロモノじゃないから」
「お前な、」
「うるさい!知り合いたきゃ自分でぶつかれヘタレ男!ばーかばーか!」
うん、私がそんな無駄な捨てぜりふ吐いてなきゃ、さゆちゃんは今ごろ平和で平穏で普通な大学生活を満喫してたかもしれない…。
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「ごめんねえ!さゆちゃんごめんねえ!」
「ちはちゃんおはよー。今日も元気だねえ」
しがみついて許しを乞う私に、おっとりのほほーんと微笑みを浮かべながら感想を溢すのは、今やお互いが認める一番のお友だちであるさゆちゃん。
大きくはないけど黒目勝ちのまんまるい瞳、私に負けず劣らずのオチビさんな背丈(私が思うに150cmと見た!)が小動物っぽくて、あったかいミルクティのような色合いに染めた髪は背中に届くほどのロングヘア。
今日はくるんくるんに巻いてお上品にツインテールにしたその容姿はどう見ても内気なお嬢様風なのに、なかなかどうしてくせ者というか、おもしろい女の子なのだ。
「だってさゆちゃん聞いたよ?今日もリュウ、馴れ馴れしかったんでしょ?しかも朝イチで!」
「あー…、うん、でも大丈夫、ほとんど知らんぷりしてたから」
「それを!いいことに!あいつさゆちゃんの腰を抱いて、いかにも自分の彼女みたいな態度でスカしてたって聞いたよ?だめじゃん、好き勝手させてたら図に乗るのが男なんだから!」
「うーん…でも、のすけくんってめんどくさいし…」
ふう、とため息を吐きながらおっとり困った表情のさゆちゃんは、何を隠そうものすごい面倒くさがり。あんまり自分の興味のないことや興味のないひとには寛容…って言ったら聞こえはいいけど、素晴らしく無関心で、無頓着。ただそれだけならこの天然ちゃんめ、もしくは天然をかぶった人工ちゃんめ、と頬をぷにぷにするだけなのだが。
「それにもしかしたら、手ひどくされて快感を覚える趣向のひとだったらと思うと、拒否するのも逆効果になるんじゃないかなあって…」
「う、うん…?」
「今はまだそうじゃなくても、本人に自覚がないだけで、ほんとは、もしかしたら深層心理の奥底では、そういうの望んでるひとかもしれないでしょ?そうなると、さゆがのすけくんを目覚めさせてしまう可能性がないとも言い切れないし…ああ、そうなったらどうしようきもい」
そう、さゆちゃんはものすごくとんちんかんなのだ。
今日もやっぱりとん!ちん!かん!
あわやドMに目覚めちゃうかもしれない手ひどい拒否って何!さゆちゃんしっかりしてええ!
そうしてやっぱり、私はあの日あの時の捨てぜりふを悔いるのだ。
「ごめんねえ!私が至らないばっかりに!さゆちゃんごめんねえぇ…!」
「ちはちゃん、この頃そればっかりね。くせなの?マイブーム?」
ちはちゃんの言うことにゃ、さゆ嬢さんしっかりしてええ!