素朴でない彼と、田舎貴族の私の結末
小さな町の中心にある集会所は、週2回だけ児童向けの学問所になる。
学問所は性別を問わないが、月謝が支払える程度には豊かな家の子供を対象としていたので、おのずと顔ぶれは限られた。
教師はベネットと言い、元は王都で官僚をしていた老人で、引退後にこの地に越してきて子供達を教えている。
王都にある難関の王立アカデミー出身の高官だったらしいが、今の風貌からはその栄達は伺えない。
「先生、できました」
よく通る声にリディアは顔をあげた。
今は算数の授業。
出された課題の半分も彼女が解き切らないうちに、立ち上がった少年を見やる。
エドワード・マーサーだ。
彼は商家の子で、毎回、誰よりも早く課題を解いてしまう。
ベネットは少年を軽く手招きして寄せると、彼が手にしている小さな黒板に目を落とし、「よろしい」と頷いた。正解という意味だ。
「エドワード、別の問題を解いてみるか?」
ベネットに問われると、エドワードは「はい」と小さく頷いた。
エドワードが席に戻ると、ベネットは黒板に別の計算式を記し始めた。エドワードはその数字の列を目で追う。
リディアはその横顔を眺めて、小さく息をついた。
彼女はこの地域の小貴族、アシュベリー家の娘だが、家庭教師をまだつけてはいない。そのため、この学問所に基礎学を習いに訪れていた。
エドワードとは年が1つしか違わないのに、彼の学びの速度はここに通う子供の比ではなかった。
かといって、己の学力を鼻にかけることもなく、ただ淡々と出された課題をこなすのだ。
素朴な田舎の子供達の中にあって、エドワードだけが素朴ではなかった。
算数の授業終えて、わずかな休憩時間。
リディアは窓辺に立つエドワードを見る。エドワードは物静かで、ひとりでいることが多い。学問所でも休憩時間にはいつも窓辺にいて、外を眺めている。
エドワードに近づくと、彼は丘に建つ王家の夏の離宮を見上げていた。
リディアはそれに気付かぬふりをして声をかける。
「エド」
リディアに呼ばれてエドワードは丘の離宮から意識を彼女に移す。
「どうしたの。リディ」
互いに気安く呼び合う。
エドワードの実家、マーサー商会はリディアの家の出入り業者で、ふたりは幼馴染だった。
まだ男女や身分という垣根が曖昧だからこその気安さでもある。
「先生があなたに出した問題、私には全然わからなかったわ。でもエドったらあっさり解いちゃって。いつものことだけど、びっくりしちゃった」
「答えがある問題は簡単だよ」
「そういうもの?エドはお勉強が好きなの?」
「……好きかどうかはわからない。ただ、できるからやってるだけだ。むしろ、答えのない問題の方こそ難しいよ」
静かに答えるエドワードの口調は大人びている。
エドワードはどこをどう切り取っても、素朴ではない。知性も容貌も、声も。そして、彼は家族の誰とも似ていない。彼は私生児なのだ。
けれど、彼の出自を表立ってあげつらう者はいない。なぜならば、実のところこの町では私生児が珍しくはないからだ。
この町があるグレイフォード地方は、王家や大貴族の夏の避暑地であり、城館が建ち並んでいる。
初夏から夏の終わりにかけて、王侯貴族はこの地に大所帯でやってくる。一時、片田舎は祭りのような賑わいを見せ、町はおおいに潤う。
町の役人や商家の娘は行儀見習いという形で、彼らの館に召し出される。出会いが結婚に結びつくこともある反面、遊び相手のまま終わることもあるのだ。そして貴族たちは何事もなかった顔で王都へ戻っていく……。
エドワードの母、ビクトリアも出仕した先で孕ったが、口を閉ざして相手のことは家族にも打ち明けなかった。
ビクトリアはエドワードを出産すると、すぐに祖父の手配のもと、遠くの商家へと嫁いだ。彼女自身の醜聞を避けるための親心だった。
そうしてエドワードは母親を知らず、祖父と叔父夫婦によって養育されることになった。
大人の事情がどのようにして解決されているかまでは把握していないが(認知される子供は極端に少ないことを鑑みると、金銭の授受によって解決をはかることになるのだろう)、この地方の子供はこうして耳年増になっていく。
エドワードがひとりで王家の離宮を見上げる眼差しには、孤独の色がある。
その孤独に、リディアは共鳴していた。
彼女もまた実の母親は他界しており、父は再婚。父と継母との間には腹違いの弟がいる。継母との仲は悪くはないが女同士であるためか、どことなくぎくしゃくしていて、家は居心地のよい空間ではなかった。
「ねぇ、エドはマーサー商会を継ぐの?」
彼が家業を継げば、マーサー家は安泰だろうが……。
しかしエドワードは「いや」と首を横に振った。
「家も家業も叔父さんが継ぐ。……僕はいずれ、遠くの商家に奉公に出されるよ」
含みのあるエドワードの物言いを、リディアは敏感に感じ取った。
「ふぅん、それって厄介払い?しょうがないわ、エドは素朴じゃないから」
あけすけなリディアの言葉にエドワードは微苦笑する。
祖父や叔父はともかく、その妻の小母がエドワードの存在を快く思っていなかった。言葉にこそしないが、エドワードの出生への嫌悪が視線や態度にあらわれていた。また、自分の子らとエドワードの出来の違いを比較されることにも、我慢がならないようだ。
「おばさまがあなたを遠ざけたいなら好都合じゃない」
「?」
「エド、あなた奉公より王都へ行きなさいよ」
「え?王都に?」
思わぬ提案にエドワードは軽く目を見開く。
「そうよ。ベネット先生やお父様に、王都にある王立アカデミーについて聞いてみたの。出自を問わず広く優秀な学徒集めているって。ベネット先生もあなたに期待してるのがわかるわ。それってエドが素朴じゃないからよ。だとしたら、もったいないわ。こんな片田舎の商家の子で終わるなんて」
以前から考えていたことだった。エドワードは、素朴なまま終わる人間ではないと。
「それに……王都でアカデミーで学んで出世すれば、わかるかもしれないじゃない」
「何が?」
「……その……あなたの、お父様のこと」
「……っ」
エドワードはハッとした顔でリディアを見る。
これまではなるべく踏み込まないようにしていた分、リディアは少し気まずさを覚えながら続ける。
「あなた、いつも離宮を見てるじゃない。あそこが、あなたのお父様が関係しているかもしれないって感じてるからでしょう?王都に出れば、お父様を探せるかもしれないわ」
リディアの言葉にエドワードは戸惑う。
リディアに提案されるまで、アカデミーを目指すということを考えたことがなかった。将来は商家の子として、奉公に出るか、自分の商会を持つかという選択肢以外にないと思っていたからだ。
「エドがアカデミーを受験するっていうなら、ベネット先生と、私のお父様に推薦状を書いて貰えばいいわ。私からもお願いするから。そうしなさいよ」
「……」
第三の選択肢をリディアが差し示したことで、エドワードの中で抱えていた鬱屈が緩やかに解けていくのがわかる。その感覚に戸惑いながら、彼は改めてリディアを見返す。
「どうして?」
「え?」
「どうして、リディはそこまでしてくれようとするの」
不思議そうに尋ねられて、リディアは素直に答える。
「それは、あなたが素朴じゃないからよ」
「答えになってないよ」
「なってるわ。少なくとも、エドはこの町の子供たちとは違う。それだけははっきりわかる。ここにいたらいけない。そんな気がするからよ。それに、」
「?」
「私が男だったら、アカデミーを受験するからよ。跡取り息子だったらね」
リディアは寂しく笑う。
「私は女よ。家も財産も継げない。全部弟が継いで、私はどこかに嫁ぐ以外に身を立てる術はない。だけど、田舎の小貴族の娘にある可能性はとても少ないわ。なんとなくもう先が見えてる」
だから、とエドワードをまっすぐに見る。
「だから、私はあなたに夢を見てるの。可能性を無駄にしてほしくない。エド、びっくりするくらいに出世しそうだから、大人になったらみんなに自慢できそうでしょ?」
リディアは最後でおどける。
「……リディ……」
エドワードの内側には、いつも出自の疑問が転がっていた。
解決できない問いかけが。
母の顔を知らず、父の存在も希薄なまま。彼らがどう出会い、結ばれ、自分が生まれたのか。
寄る辺なく自分という自我を問いかけ続けていた。
そしてリディアもまた、家族の中でどこか疎外を感じながら、寄る辺なく過ごしていることをエドワードも知っている。似た孤独を抱いているからこそ、リディアはエドワードを気にかけ、エドワードもまたリディアと交流を持った。寄る辺のなさがふたりを結びつけていた。
エドワードは小さく息をつく。
「ありがとう、リディ。でも少し考えたい。爺ちゃんや叔父さんにも相談が必要だし」
「もちろんよ。でも忘れないで。幸運の女神様は前髪しかないんだから」
「そうだね」
ふたりは笑い合った。
かくして、物事は急速に動いていった。
初めこそエドワードの祖父、サミュエルは渋ったものの、ベネットやリディアの父、ヘンリーの説得もあって最後は折れてエドワードのアカデミー受験を認めた。
彼が王都に旅立つにあたって、エドワードはリディアの屋敷を尋ねてきた。表向きはヘンリーへの感謝と出発の報告をするためだったが。
マーサー商会が用意した王都へと向かう馬車に乗り込む前、御用聞用の裏口あたりでふたりは落ち合った。
「いよいよ王都に行っちゃうのね」
「うん。リディアには感謝してるよ。僕に機会を与えてくれた」
「いいのよ。そのかわり、うーーーんと出世してくれないと。私が孫に自慢できるくらいにね」
「リディがそれを望むなら、頑張るよ」
エドワードはすっきりとした表情で、柔らかく微笑んだ。
なぜだかその笑みに居心地を悪くして、リディアはそっと目を逸らして言う。
「あと!お父様のことがわかったら、私にも教えてちょうだいね。私にも聞く権利くらいは、あると思うから!」
ぎこちなく告げると、彼は頷く。
「うん。……そこはどうなるかわからないけど、縁に期待してみるさ」
「大丈夫よ。あなた、素朴じゃないんだもの」
エドワードに対するリディアの信頼は、大概この『素朴じゃない』で片付けられてしまう。その屈託と理屈のなさが、かえってエドワードの救いになっていた。
「リディ」
「何?」
「僕は君にお返しができるとしたら、何があるかな。……ああ、もちろん僕の出世自慢以外で」
出世自慢以外となると、リディアは少し困った。
そして、そっと屋敷を見上げて呟く。
「……そうね。叶うなら、家が欲しいわ」
「家?」
「誰にも気兼ねすることなく、落ち着ける家」
我が家であって我が家ではない。この感覚を持たずに、安心できる我が家が欲しかった。
リディアの寂しげな横顔を胸におさめ、エドワードは頷いた。
「……わかった」
「え?」
冗談よ、と伝える前にエドワードは口をひらく。
「じゃあ、行ってくるよ。またね、リディ」
「ええ……ええ。またね、エド!元気でね……!」
リディアは馬車が見えなくなるまで手を振って見送った。
またね、と声を掛け合ったが、もう二度と会うことはないだろうと思った。
寂しさを覚えながらも、彼の背中を押したのは自分。だからこの別れは必然なのだと受け入れる。
エドワードは必ずアカデミーに入る。失敗はない。そこからは栄誉栄達は思いのまま、栄光は彼の頭上に輝く。
疑わないわ。だって、エドワードは……素朴じゃないんだから。
寄る辺のない片田舎での暮らしは今、彼にとって過去のものとなったのだ。
※
それからおよそ10年の時を経て、屋敷のエントランスでリディアはたじろぐ。
片田舎に全くと言っていいほど相応しくない、煌めく貴公子が目の前に立っていたからだ。
「ごきげんよう、リディア嬢。……君が元気そうでよかった」
エドワードだ。
リディアが二度と会うことはないだろうと見送った、エドワードがいる。
外套を纏い、騎士のいでたちをしているが、ところどころに貴族の礼装スタイルが含まれているところを見ると、騎士の称号も持つ上級官僚のそれであることがわかる。
かつて素朴ではないと評していた彼の容姿は、尋常でない美形のそれであったことに今ならば気づける。
王都暮らしで洗練された青年の帰還に、リディアはただただ震えた。
エドワードは、栄達を遂げたのだ。
「え、ええ……あなたこそ。まあ……すっかり立派になって……エド……いえ、エドワード卿とお呼びした方がいいのかしら?」
リディアはとにかく狼狽えた。
彼女は彼の帰郷を知らされていなかった。
あれから。エドワードは王立アカデミーに入り、彼女の見たて通りに出戻ってくることはなかった。
エドワードとは季節ごとに手紙のやり取りはあったし、いつも小さな贈り物が添えられてはいたものの、それは義理と友情の延長であり、単なる心遣いで深い意味はなかったと思う。
「君にそう呼ばれると面映いよ。昔のように呼んで欲しい」
「そ、そう……?じゃあ、エドで……」
面映いのはこちらである。
帰ってくると、尋ねてきてくれると知っていたら、着古ししたドレスではなく、もっときちんと令嬢らしく正装したものを。
「ひどいわね。戻ってくることを教えてくれていたら、ちゃんと着飾って待っていたのに。髪型だって……」
子供の頃ならばいざ知らず。今のリディアには異性に対する羞恥心や自意識はある。
「ごめんよ。君を驚かせたかったから。でも君は昔と変わらず、可愛いよ」
さらりと吐かれた言葉にリディアは身震いする。
「……っ……」
これが、あのエドワードなの?物静かだったあの?!昔の彼ならそんなこと言わなかったわ!
王都暮らし、恐るべし。
口をぱくぱくさせていると、エドワードは礼装から飾られている勲章を全て取り、リディアに差し出す。
「これを君に」
「この勲章は、何?」
「アカデミーの基礎課程、騎士課程、官吏課程の全過程を主席で終えた証だよ。君に受け取って欲しい」
「主席の証?!そ、そんな大事なもの、受け取れないわ」
「君が機会がくれなければ、今の僕はなかったよ」
エドワードはリディアに勲章を持たせると、微笑む。
「だから、君に持っていて欲しい」
「……エド……」
複数の勲章でリディアの両手は埋まり、ずっしりとした重みに思わず無言になる。
彼が素朴ではないことは確信していたが、まさかここまでとは思わない。
アカデミーは基礎課程を1年、その他はそれぞれ3年を要する。累すること7年。彼は主席を守ったということだ。この重みはその年数と努力の重み。
それでいて、栄誉の勲章に執着をしない人間性に、リディアは恐れ入った。
「あなたがそう言うなら、私が預かるわ。返して欲しかったら、そう言ってね」
「君がずっと持っていて。それだけじゃない、これから僕が得る栄達は、全て君のものになるのだから」
「?」
「アカデミーを経て、今は騎士兼官僚として、国軍の兵站機関に属している。そこでの功が認められて、王政の中枢に推挙された」
「……つまり?」
「出世の道筋がたった。ようやく君にお返しができる」
「……?」
何を言っているのかさっぱりわからなかった。
「お返しって……何のこと?」
「僕が王都に出る前、君がなんて言ったか覚えてる?」
「…………」
10年も前のことだ。正直、よく覚えていない。
首をひねるリディアに、エドワードは微苦笑しながら告げる。
「家が欲しいと言ったんだよ。落ち着ける家が欲しいって」
「……あ!……そういえば、そんなことを言ったかも……しれないわね」
「そう。言ったんだ」
エドワードはリディアが忘れていたことに気分を害することなく続ける。
「君の願いに沿うように、王都に屋敷を買った。君の家だよ」
「なっ、なんですって……?!」
家?!
家を、用意してくれたというの?!あんな、子供時代のたわいないやり取りを本気にして?!
ぎょっとするリディアにエドワードは少し肩をすくめた。
「とはいえ、10年もかかってしまってごめんよ。もっと早く迎えに来られたらよかったのだけれど」
「む、迎え……?」
きょとんとするリディアに、エドワードは「ああ……」と合点がいったように頷く。
「君の父上、アシュベリー子爵は君が僕を将来、夫にするつもりでアカデミーへの推薦を願ったと思っていたらしい。僕はとくにその勘違いを正すこともなかったけれど……ね」
「……なっ……?!」
お、夫ですって?!
絶句である。
確かに、父のヘンリーも継母も年頃になったリディアに舞い込む縁談をなぜかのらりくらいとかわしている気配を感じてはいたが、そのような勘違いの構想が水面下に広がっていたとは。
「……道理で。お父様はあなたへの推薦状を書く時、躊躇わなかったわ。それどころか、周囲の説得までした理由がやっとわかった……」
ヘンリーにとっても、エドワードのアカデミー入りは悪くない話だった。アカデミーに在籍し、卒業することで、私生児という出自は透明になる。出世には響かない。娘婿が王都で高官となれば、鼻も高く、息子の将来にも期待ができるというものだ。
……エドワードの後ろ盾になることは損じゃないと踏んだのね。お父様、ちゃっかりしてるわ。
すっかり腑に落ちた。
「お父様の思惑や勘違いはともかく、あなたもあなたよ。どうして否定しなかったの。私はただ、あなたに夢を乗せていただけなのに」
「離れるほどに、君を思い出した。アカデミー……そして今も、寄る辺のない僕にとって、君がくれた言葉が支えとなった」
「エド……」
「リディア嬢……いや、リディ。どれほど高く上り詰めても、分かち合ってくれる人がいなければ、虚しいだけだよ」
「…………。王都には、あなたに似合いの美しいご令嬢なんてたくさんいるでしょうに。私でなくても、あなたと分かち合ってくれる人はいるわ」
「令嬢は数多いても、素朴でない僕にあけすけにものを言ってくれるのは君だけだ、リディ。寄る辺のない僕の、帰る場所になってほしい」
勲章を持つリディアの手に自らのそれを重ねて、エドワードは言う。
「他の男との孫に僕の栄達を自慢するより、僕たちの孫に自慢して欲しいんだ。……ダメかい?」
「……っ、エド……」
これは、求婚だ。
その手のことにまったく縁がなかったとはいえ、そこまで察しは悪くない。
甘く微笑まれ、駄目とは言えそうになかった。
陥落しそうになるリディアは、それでも必死の抵抗を試みる。
「そ、それはともかく、あなた、お父様のことは何かわかったの?!まだ何も聞いてないわよ?!」
あえて話題を逸らしてみたが、これは逆効果になった。
「知りたい?……だったら尚更、僕と結婚してくれないと」
「?!」
「内情が複雑なんだ」
「ふ、複雑……?!」
「秘密の共有は、おざなりにはできない。……夫婦でなくては」
眩い貴公子は、口が達者になったばかりか、押しの強さまで身につけたようだ。
「交換条件にするなんて、ずるいわ」
「ふふ」
エドワードの上品な微笑みにねめつける。
完全に追い込まれてる。
エドワードのお父様にどんな秘密があるっていうの……?!
うう、悔しい。これじゃ、結婚するしかないじゃないの!
王都暮らしである種のしたたかさを身につけたエドワード相手に、片田舎の小貴族の娘が太刀打ちできる言葉はない。だから、目一杯に虚勢を張る。
「す、少し考えさせてちょうだい。お父様やお母様にも、相談しないと」
「もちろん。……でも忘れないで。幸運の女神様は、」
「わかってるわ。前髪しかないってこと。……まったく、あなた本当に素朴じゃないわね」
リディアは肩の力を抜いて微笑むと、エドワードもそれに応える。
「ああ、君のその言葉が聞きたかった」
リディアに導かれるようにして、エドワードは家族の居間に迎えられる。
道が分かれたと思われたふたりの結末の糸は、今ひとつとなり、未来へと紡がれようとしていた。
了
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
結末は始まりに向かう物語の短編でした。物語の第一話的な。
エドワードのお父様が何者なのか……はてさて(苦笑)。
続きがあっても面白そうだなと思いながらの展開です。
ふたりの年齢についてはあえて設定しておりませんので、ご想像にお任せします。
短編は、どちらかといえばわたしという作家、そして作風の温度感、空気感を知ってもらうための名刺と考えています。
他作品もご覧いただけれは嬉しいです。




