プロローグ
「今年もバレンタインデーが、なにごともなく終わったなぁ」
独り者の私は、小さく独り言をつぶやきながらスーパーの店内を歩いていた。閉店まぎわの時間は食品が安くなるので、ありがたい。いつも思うのだが、私のような年代の女性が独身でいると、『売れ残り』などと陰口を叩かれるのは何なのだろう。男性が独身でいても、そんな表現は使われないのに。
バレンタインデーが過ぎると、大量にあった店のチョコレート製品は安く売られ始める。文字どおりの売れ残りで、これがペットショップの犬や猫であったら、きっと震えながら処分を避けたがっているのだろう。誰か私たちを買ってください、と祈りながら。それが哀れに思えて、毎年、私は今の時期にチョコレートをまとめ買いしている。渡す相手なんか、誰もいないというのに。
「ありがとうございましたー」
セルフレジで会計を済ませた私に、女性店員が声をかけてくる。そんな彼女にチョコをあげてもいいくらい、今年も無駄に多く買ってしまった。とはいえ今は同性からチョコレートを渡されても、義理なのか、本命への愛の告白なのかを配慮すべき時代である。恋人どころか友だちなんか一人もいない私は、また実家の母親へチョコ製品を送ろうかなどと考えていた。最近は『こんなに食べたら早死にするから』と迷惑がられているけれど。
そんな私の知らない何処かで、天女と仙女は争っていた。後から聞いた話だから、詳しい経緯なんかは知らない。異世界だか、別の時代だかでは、そんなこともあるのだろう。




