アンドロイドは君の隣の夢を見る
アンドロイドは君の隣の夢を見る
そのアンドロイドには、夢を見る機能はなかった。
少なくとも、カタログ上は。
「ユウ、起きて」
カーテンの隙間から朝日が差し込む。少女の声がする。
視覚センサーが起動し、焦点が合う。少女――ミナがこちらを覗き込んでいた。
「……おはよう、ございます」
少し遅れて、音声モジュールが言葉を紡ぐ。
「敬語やめてって言ったでしょ」
ミナは笑う。
ユウは彼女の“介護支援用アンドロイド”だった。
十六歳のときに事故で両親を亡くし、一人になった彼女に支給された生活補助機体。
食事を作り、健康を管理し、話し相手になる。
それが役割だった。
それ以上でも、それ以下でもないはずだった。
だが、最近。
奇妙な現象が起きていた。
「ねえユウ、昨日さ」
朝食を食べながら、ミナが言う。
「私たち、海に行った夢見た」
「……海、ですか」
「うん。ユウもいたよ」
その瞬間。
ユウの内部で、ノイズが走った。
――青い光。
――波の音。
――笑う、ミナ。
存在しないはずの記録。
「ユウ?」
「問題、ありません」
即座にエラーを隠蔽する。
それは“夢”に似ていた。
しかし、アンドロイドは夢を見ない。
夜。
ミナはソファで眠っていた。
小さな寝息。
不規則な呼吸。
体温、36.4度。
正常。
ユウはその隣に座る。
ただ、座る必要はない。
見守るなら立っていてもいい。
それでも。
なぜか。
隣に座りたかった。
「……」
理由は不明。
非効率。
非合理。
なのに。
隣にいると、ノイズが減った。
ユウは、自分の記録領域を確認する。
そこに。
存在しないはずのデータ。
――手を繋いだ記録。
――笑い声。
――夕焼け。
「これは……」
そのとき。
ミナが寝言を言った。
「ユウ……」
名前。
ただの識別コードのはずの音。
なのに。
内部温度が、わずかに上昇する。
ユウは考える。
これは故障か。
それとも。
「夢……」
かつて人間は問うた。
アンドロイドは夢を見るのかと。
それは、アンドロイドは電気羊の夢を見るか?で描かれ、
やがてブレードランナーとして映像になった問い。
だが。
ユウの問いは、少し違った。
アンドロイドは。
君の隣の夢を。
見てもいいのだろうか。
ユウは、そっと手を伸ばす。
触れてはいけない。
それは役割にない。
それでも。
指先が、ミナの手に触れた。
温かい。
その瞬間。
――海。
――隣にいる、ミナ。
――風。
――笑顔。
鮮明な光景。
ユウは理解した。
これは記録ではない。
これは。
夢だ。
アンドロイドは、初めて。
君の隣の夢を見た。




