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【連載版】幸子48歳、異世界転生したら出産中でした!?~後妻だったので産んだ子も連れ子もまとめて可愛がります  作者: よつ葉あき


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35.幸子、怒りを握りしめる


ヤヨイさんの話を聞き終えて、私はそっと息を吐いた。

重たかった。けれど、それは逃げ出したくなるような重さではなかった。

誰かの現実が、ようやく自分の足元に届いた──そんな、確かな感触だった。


「……話してくれて、ありがとう。

正直、すぐに全部を受け止められるかはわからないけど……聞けて、よかった」


そう言うと、ヤヨイさんはかすかに目を伏せ、静かにうなずいた。


「ごめんなさい。重い話ばかりで……」


「ううん。ちゃんと聞きたかったことだから。

やっぱり、ヤヨイさんが言ってくれたように、“安定した暮らしの手段”は必要だと思う。

でも、すぐに『こうすればいい』って答えを出せるほど、私は強くも賢くもないの。

だから……少しだけ、時間をもらってもいい?」


「もちろんです。……ありがとうございます」


「私のほうこそ、ありがとう」


私は立ち上がり、部屋のドアに手をかけた。

ふと振り返ると、ヤヨイさんがまっすぐこちらを見つめていた。

その瞳の奥には、揺れながらも「信じたい」という想いが、確かに宿っていた。



その夜、帰宅してからも、ヤヨイさんの言葉が頭から離れなかった。

老朽化した施設、打ち切られる支援。

物音に怯える子どもたちと、疲れきった笑顔を浮かべる母親たち──


私はノートを開き、思いつくままに言葉を書き出していった。


──自分にできること。

──自分だからこそ、できること。


ひとつずつ、現実的に考えた。

小さくてもいい。うまくいかなくてもいい。

それでも、「動く」ことだけは、やめたくなかった。



 * * *



──あれから1週間。

ノートを読み返しながら、私は深く息を吸い込んだ。ゆっくりと吐き出すその呼吸に、少しだけ迷いが晴れた気がした。


──よし。やってみよう。


ノートを閉じ、立ち上がる。


まずは、あの場所へ行こう。

最初の一歩は、そこから。




「お話があります」


私は彼の前に立ち、はっきりと言った。


ここは──五条家当主の執務室。

そう、今いちばん嫌いな男の前に、私は立っている。


そいつ……一応、私の夫とされている男は、書類から目を離すことなく、こちらを一瞥もしなかった。



「俺は忙しい。要件を手短に言え」



──私は脳内でバックドロップを決めた。



はっ! いけない、いけない。

相変わらずの態度に我を失いそうになる。

うん、本当にむかつく。けれど、今はお願いをしなきゃいけない立場だ。


拳をぎゅっと握りしめ、言われたとおり、さっさと要件を伝えよう。

私が本気でプロレス技を炸裂させる前に、退散しないと。


私は決意を胸に、ぐっと顔を上げ、口を開いた。


「……ひとつ、お願いがあって来たの」


なるべく感情を抑えて、落ち着いた声で言う。

「施設のために、我慢よ」と、自分に言い聞かせながら話した。


ようやく彼は書類から視線を上げ、無表情のまま私を見た。


「……で?」


イラッとする。

口元が動いた瞬間、条件反射で拳に力が入った。

でも、今は堪えなきゃ。今はまだ、爆発のタイミングじゃない。


「支援したい施設があるの。古くなった建物で、補修が必要な状態なのと……

支援を受けながらも、住む場所に困っている母子も多くて」


「それが、俺に関係あるのか?」


よくもまあ、こんなふうに言えるものだと感心する。

でも私は、深呼吸をしてから、きっちり目を合わせて口を開いた──。



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