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【連載版】幸子48歳、異世界転生したら出産中でした!?~後妻だったので産んだ子も連れ子もまとめて可愛がります  作者: よつ葉あき


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32.幸子、少しずつ一緒に


マドカさんは、にじんだ涙を慌てて拭おうとした。

けれど拭いきれず、一粒の涙がぽたりと頬を伝って落ちた。


「……ごめんなさい。こんなところで、泣くなんて」


「謝らなくていいの。泣きたいときは、泣いていいのよ」


そう声をかけると、マドカさんは少しだけ肩の力を抜いたように見えた。


「……今まで、“ちゃんとしなきゃ”って、そればかりで……

サチコのことも、自分のことも、見えなくなっていた気がします」


「うん。でも、いまはちゃんと見ようとしてる。

それって、とても立派なことよ」


私の言葉に、迷いはなかった。

マドカさんは、確かに自分を見つめようとしている。

その歩みがどんなにゆっくりでも、それは前へと続く一歩だ。


「……もう少し、頑張ってみます。

サチコのためにも、自分のためにも……ほんの少しずつでも、変わっていけたら」


「焦らなくて大丈夫。変わるって、“少しずつ”の積み重ねだから」


そう伝えると、マドカさんは小さく頷いた。

その顔には、さっきよりもわずかに、穏やかな光が差していた。


その様子に、私もほっと胸をなでおろしながら、そっと言葉を続けた。


「子育ても、出産も、本当に大変なことよね。

頑張らなきゃって、つい思ってしまう……私も、そうだったわ」


「……はい」


「でもね、すべてをひとりで頑張る必要はないのよ」


「──え?」


マドカさんが驚いたように目を丸くする。

私は、少しだけ言葉を探してから、微笑みながら続けた。


「ここにはヤヨイさんもいるし、マドカさんと同じような悩みを抱えているお母さんも、きっといる。

──それに、私もいる。つらいときは、私もマドカさんと一緒に歩いていくから」


マドカさんは、目を伏せたまま、しばらく黙っていた。

やがて沈黙の奥から、ぽつりとこぼれた言葉──


「……そんなふうに言ってもらえたの、初めてです」


声には、戸惑いと、どこか安心したような響きが混じっていた。


「いつも、“頑張って当たり前”って思われてて……

弱音を吐いたら、“母親なんだから”って言われて。

誰かに頼っていいなんて、思えなかった……」


「……よく頑張ってきたね」


私の言葉に、マドカさんは小さく笑った。


「……はい。ちょっとだけ、苦しかったです」


その笑みは、涙の跡を残しながらも、どこか柔らかく、前よりずっと自然に見えた。


「母親だからって、弱音を吐いちゃいけないなんてことはないわ。

困ったことがあったら、ぜひ相談して。

どうしたらいいか、一緒に考えましょう」


そう伝えると、マドカさんは一瞬、目を見開いたあと、ふっと優しく笑った。


「ありがとう、ミレイさん。今日、お話できて、本当によかったです」


「こちらこそ。話してくれて、ありがとう」


しんとした空気の中で、ふと、小さな声が聞こえてきた。

お昼寝スペースの方から、子どもたちのにぎやかな声が戻ってきている。


マドカさんがそっと顔を上げる。


「……サチコ、起きたのかもしれません」


「そうね。お母さんを探してるかも?」


私が微笑んでそう言うと、マドカさんも静かに頷いた。


「……行ってきます」


立ち上がったマドカさんの背中は、まだ少し頼りなく揺れていたけれど、

その足取りには、確かに前へ進もうとする意思があった。


私は、その背中をそっと見送った。



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