30.幸子、眠れぬ夜に寄り添う
「マドカさんは……ひとりで頑張ってたのね」
“寝不足”と言っていたけど、それは胎動のせいだけじゃなく、体調の不調や、これからの生活への不安もあって、夜もゆっくり眠れなかったのかもしれない……。
「支援物資や施設でできることには、限りがあります。
でも、本当は……もう少し誰かに頼れたら、って思っているのかもしれません」
ヤヨイさんは、静かだけれど確かな思いを込めて、まっすぐに私を見つめてきた。
私はその視線を正面から受け止め、ゆっくりと頷いた。
「話してくれてありがとう。
マドカさんの力になれるように、私もできることを考えてみる」
そう返した瞬間、ふと視線の先でマドカさんが小さく身じろぎした。
「……ん……」
まぶたがゆっくりと開き、眠そうな目がこちらを見た。
「おはようございます、マドカさん。少し、眠れましたか?」
ヤヨイさんが優しく声をかけると、マドカさんはぼんやりと頷いた。
「……うん。すみません、ちょっと、寝ちゃってて……」
「少しでも休めてよかったです。無理せず、まだ寝ていてもいいんですよ?」
けれどマドカさんは、ゆっくりと首を振った。
「……いえ、もっと寝たい気もするんですけど……仰向けだと苦しくて、横向きだとお腹が引っ張られて痛いんです」
「……あ」
胎児、羊水、胎盤……臨月には合わせて4キロほどになるお腹。
今はまだ8ヶ月とはいえ、双子を宿しているマドカさんのお腹は、すでに臨月のように大きく重いのだろう。
幸子だった頃の妊娠も、思い出した。
妊娠後期になると、お腹の重みと大きさが辛くなって、寝るときの姿勢にも苦労した。激しい胎動以上に、重力との戦いだった。
だから、寝るときは──
「ちょっと待ってて」
そう言って席を立ち、荷物の中からあるものを取り出す。それをマドカさんに手渡した。
「……授乳クッション!?」
「授乳?」
ヤヨイさんが驚いた声を上げ、マドカさんは不思議そうに首をかしげる。
私は微笑んで説明した。
「これは、授乳クッションっていって、赤ちゃんに授乳するときに使うものなんです」
「へえー……」
まじまじとクッションを見つめるマドカさんに、私はさらに続けた。
「でもね、授乳以外にもいろいろ使えるんですよ」
にっこりと笑って言う。
「横になって、このクッションをお腹の下に入れたり、脚に挟んだりしてみてください」
言われたとおり、マドカさんはそっと横になり、ふくらんだお腹と床の間にクッションを入れた。
「……あっ、すごい……! これを使っただけで、すごく楽です!」
明るくなった表情に、私も心からほっとした。
「よかった! まだ大変だと思うけど……いろいろ工夫しながら、少しでも楽に休んでね」
「ありがとうございます……っ!」




