表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続 失踪の岬  作者: すみっこのラスカル
第3章 血脈が鼓動を呼んだ
7/29

 港の一角に設けられた仮設テントでは、地質調査班の班長山内直樹がモニターを見つめていた。スクリーンには海底の断面データが幾重もの波紋を描いている。

「これが地殻の断面?まるで生体波形じゃないか」

隣で見ている若い研究員が呟く。

「隆起じゃなく拍動ですね。周期は約七分。地盤そのものが呼吸しているようにも見えます」

山内は画面を指先でなぞった。波形の山がひとつ、岬の下で大きく脈打っていた。

「これはただの変動じゃないな。中心にエネルギー源があるように見える」

「マグマですか?」

「違う。熱源反応はない。まるで何かが意志を持って動いているようだ」

山内は後ろでモニターを見ている賢祐に気付いた。

「あ、中澤さん。あなたは大原徳治さんのご親族でしたよね?」

「はい、徳治は妻の父です」

「なら聞いておきたいんだけど、この島では古来から、海底の鼓動という言葉を使うと聞きましたが、何かご存知ですか?」

賢祐は即座に答えられなかった。言葉にしようとした瞬間、耳の奥で何かが鳴った。

「まだ終わっていない…」

低い声が潮騒に混じって聞こえる。

「いま、何か?」

研究員の一人が顔を上げて賢祐を見た。

「ノイズが…。えっ?これ?いや…、まさか?でも、これ人の声だ。海底マイクが集音しています」

テントの中に解析スピーカーの音が流れた。確かにそれは声だった。男のような、女のような、複数の声が重なり合っている。

「鎮めよ…。血を継げ…」

テント内にいる全員の背筋が凍りついた。機器のランプが次々に赤に変わり、画面が一瞬白く光った。停電かと思った瞬間、テントの外から誰かが駆け込んできた。

「中澤主任、西の岬の方角で光が上がりました!」

報告に来たのは測量助手の矢島だ。

「まるで海の底から閃いたみたいに!」

賢祐は反射的にテントの外へ飛び出した。空はすでに群青。西の岬の先端に淡い光がゆらゆらと揺れている。その形は人影のようだった。

「あ、あれは…。何ですかっ?」

矢島は賢祐に問い掛ける。

賢祐は応えられなかった。それは祥子のようにも、明子のようにも見えたからだ。

 賢祐はその日も本土のホテルには戻らず、大原家で宿泊することにした。ホテルと違って、何となく祥子のイメージも残っている気がして、自分の家で寛ぐ気分が味わえるのだ。賢祐は居間の座卓を脇によけて、無理やり敷いた布団のうえで、うたた寝をしていた。微睡みのなかで波の音が近づいてくる。柔らかな声が耳もとで囁いた。

「呼んでいるのは、地でも海でもないの…。大原の血の中に眠っている記憶…」

賢祐ははっと目を覚ました。部屋は静まり返っている。ただ、床の下から微かな振動が伝わってきた。それはまるで心臓の鼓動のようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ