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礼佳は祥子の腕のなかでしばらく意識を失っていた。島を鎮める行為の媒介となることが大きな負担になったらしい。数分経ってから目を覚ました礼佳は、頭を起こしてきょろきょろと周りを見渡してからにっこり微笑んだ。
「終わったの…?」
周囲は静かで、生き返ったような潮の匂いが淡く漂っている。藤吉がそっと隣に座り、保温水筒に入れた熱い茶をカップに入れて差し出す。
「よくやったのう」
口ぶりには祖父徳治の代理人としての誇りと、島を守った礼佳への敬意が入り混じっていた。
祥子は礼佳を抱きしめ、賢祐はそっと頭を撫でた。賢祐の手には落とし物のように小さな金属片が残っていた。西条のものか、島のものか判然としないが、その欠片を胸に当て目を閉じる。
「計画は止まったようですね。でも、島がこれでずっと安全とは限らないですよね?」
藤吉が頷きながら応えた。
「外は変わる。上がまた手を伸ばすかもしれん。じゃが、血脈の者がおる限り、ここは守られる」
「僕たちがこの島に残るという選択肢もあるのかな…。祥子と礼佳が望むなら…」
祥子は頷きながら微笑んだ。その微笑みのなかには希望が見えたが、少しだけ悲しみが紛れ込んでいるようにも思えた。
「あたしたちは帰るべき場所を取り戻しただけよ。ここがこのままなら、それでいいと思うわ…」
礼佳は小さく首を振った。
「礼佳、ずっとここにいたい。パパとママも一緒に」
賢祐の目に、決意の光が灯る。測量技術者としての知識を使い、この島の人たちと協力して、島の安全を守っていこうと決めた。政府は表向きに撤退したが、今後の監視や交流は避けられない。いまのところ、小さな共同体が島と共に生きるための最初の約束は交わされている。




