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続 失踪の岬  作者: すみっこのラスカル
第8章 血脈に畏怖する
23/29

 夜明け前の薄光の中、都内の内閣官房地下機密フロアでは、国立理地学研究所、国立地震研究所および全国有数大学でその関連学講座を持つ教授など、十数名の関係者が無言のまま大型モニターを見つめていた。衛星回線を通じて送られてくるのは島の熱源分布、地殻変動、深層構造など。それともうひとつ、公開されていない最重要レイヤーである地殻共鳴波形だ。その周波数の揺らぎは明らかに人工物のそれだった。

「やはりこれは大原家の血統因子と一致していますよ」

国立理地学研究所の係官は気難しそうに眉根を寄せた。大原の血筋は国家成立前の古い氏族で、特異な感応性を保持し続けているとのことだ。大地震の前兆や火山活動、地殻の詰まりまで、局地的に高い確率で感知する能力が生まれつき備わっているらしいが、科学的には説明しきれてはいない。しかし、実務上は災害予測の裏ルートとして、戦後その直系大原明子とは、内々にその能力を利用させてもらってきた。現在残っている直系は中澤祥子と、その娘礼佳のみだ。

畿内にある大学教授のひとりがぼそっと呟いた。

「日本列島のプレート応力が臨界域に達するのは、まだ10年先のはずだった」

「ええ、そうなんですが、島の反応がそれを前倒しにしているんですよ。放置すれば列島スリップの確率は12倍に達します」

地震研究所の主任研究員が応えた。

「つまり…、首都圏が持たない…、全滅するということだな」

誰も頷かなかった。それはもう逃れられないと認めることになるからだった。机上には数年前からの首都移転計画の資料がある。それは国民向けの表向き理由である。地震リスクの分散、災害対策強化、人口・物流の最適化など、将来はデジタル・ガバメント(電子政府)が中心となり、AI議会の設立まで検討されていた。しかしそれらはまさに絵に描いた餅となり、全く何の役にも立たず、現実とは大きく異なっていた。

 島の核を封じるために、地殻共鳴の媒介として大原家の血が必要だった。そのために国家中枢は、密かに彼女たちを探し続け、戦後その記録は意図的に削除されていたことが判明していた。大原祥子はその血脈の存在を知らされないまま成長したが、祥子の生母明子が逝去の折り、明子本人や島の重鎮から、大原の血脈についての詳細を聞かされていることまでは分かっていた。

 島の異常が本格化し始めた今年、政府は中澤母娘二人を確保することを前提にして、首都移転計画の最終段階を模索し、その実現に向かって走らせざるを得なかったのだ。

「問題は祥子と礼佳の覚醒が我々の計算より早かったことです」

理地学研究所の主任係官が、集まっているメンバーに向かって鋭く目を向けた。

「もう感応性が島に引かれ始めています。彼女たちはこちらが迎える前に、向こうから島へ呼ばれている可能性が高い…。ひょっとしたらもう行っているかも知れません」

室内がざわついた。

「もしすでに島に入っていたら?」

「それは彼女たちが封印側ではなく、起動側に回る可能性があります」

「起動?」

「はい、島との共鳴を増幅して、プレートを解放する方向に働く可能性が高いということです」

誰も口には出さなかったが、頭の中で同じことを考えていた。あの島は自身を開放するために彼女たちを待っているんだと。



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