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藤吉の船で曳航されて港へ戻った〈かなた2号〉は、西条が行方不明になった状況報告とともに、地質調査班の班長山内直樹に引き渡された。救難班が艇内を確認したが、誰も乗っていないという報告が挙がってきた。
「記録装置が全部初期化されています」
「バッテリー系統にはなぜか逆に満充電されています」
「落下の衝撃データがありません」
物理法則がすべて否定されていた。落下したのに壊れず、沈んだのに浮かび、圧壊もなく、記録は消えている。しかも西条がいた痕跡もない。
「西条さん…。いったいどこへ…」
賢祐の呟きは誰にも届かなかった。ただ、現実を見てきた浦井操縦士だけが賢祐を見つめて頷いていた。海が応える。男とも女ともつかない声が潮風に紛れて一瞬だけ聞こえた。
「まだ…返さない…」
藤吉が顔を歪めて、目を細めてから海へ向けた。
「やっぱり島は外の者を嫌っとるな。血を持つ者は別じゃけど…」
引き上げられた調査艇の船体を前に、吉村は一言も発せず、指先で外板をなぞっていた。金属は乾ききっていて、ついさっきまで海上に放置されていたとは思えない。
「おかしい…」
その呟きに賢祐が顔を向ける。吉村は〈かなた2号〉の船体に規則的に刻まれた細かな筋を指差した。淡い擦過傷のようにも見えるが、方向が一定ではない。
「これって…、波の傷じゃないですね。これは押し返された跡ですよ」
「押し返された?」
賢祐が問い返すと同時に、吉村は軽く頷いた。
「しかも周期がありますよ。ほらここから、ここまで。30秒ごとぐらいかな?船体の外側から力が加わっています。」
賢祐は息を呑む。
「海流か?」
「海流なら乱れます。これは呼吸です。島が呼吸をして、艇を拒んだとしか思えない」
彼はコンソール内の記録データを解析しながら続けた。
「見てください。このノイズ。島の地下から一定周期で出ている低周波が、調査艇の共振周波数とぶつかっているんです。これ、自然現象じゃありませんよね?」
画面に映し出された波形は、まるで心電図のように脈打っていた。
「島が目覚めつつある…」
吉村は震える声でそう結論づけた。
「礼佳と祥子が感じている気配と一致するというのか?」
賢祐は吉村に向けて眉根を寄せた。
「もしこの波形が大きくなれば、島全体が危険な状態になるかもしれないです」
賢祐はその言葉に、遠く崖の方角を見た。以前、祥子と礼佳が消えたあの場所だ。




