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続 失踪の岬  作者: すみっこのラスカル
第6章 島が怯えている
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「おお、航平っ、ご苦労じゃったな。途中の海は問題なかったか?」

藤吉が手を振って笑顔を見せた。

「湯木のおやっさん、ご無沙汰してます。ま、問題ないと云えばそうなんですが、ほんとは港へ行こうとしたんですけど、ここへ無理やり引っ張り込まれたんですわ」

航平はちょっと困ったような顔を向けた。

「えっ?そうなんか?」

藤吉も同じような顔つきになって腕を組んだ。

「やっぱり、呼ばれとるな…」

藤吉は独り言をいうように呟いてから続けた。

「まあいい…。それより航平っ。海が凪いでるうちに戻ってくれ。こいつら全員、ワシが連れて帰るから心配せんでええ」

片手に大きなボストンバッグを提げ、もう一方の腕で少女を抱えて船を降りてきた祥子は3人に笑顔を向けた。

「みなさん、お元気そうで何よりです」

最初に宏太が困ったような顔で応えた。

「祥子さん…、なんでまたこんな時に…」

「中澤さん…、戻ってきたんですか…」

吉村も宏太と同じような顔しながら頭を下げる。しかし、藤吉だけが異様な潮の動きに目を奪われていた。礼佳はその潮を見ながら藤吉を見た。

「おじいちゃんじゃないけど…。でも島の声、知ってる人だね」

藤吉は思わず背筋を正して呟く。

「この子は巫女の血筋に触れてるな…」

「ママ、下で、動いてるよ…。おじいちゃんの船の音じゃないけど…。動いてる。もっと深いところで、息の音がする…」

風が止まり、海面が静かに反転するように盛り上がった。藤吉は祥子へ向き直り、低く告げた。

「あんたらの血筋が、また島を目覚めさせとるんじゃ。島は外の人間に触れられるのを嫌っておる」

祥子は息を呑む。

「外の人って?政府の調査班のことですか?」

「そうじゃ。賢祐と同じ班で動いていた男、あの技術顧問の西条とかいうやつ…。あやつはもう、島の懐に呑まれたかもしれんな」

祥子の顔が強張った。

「賢祐さん?賢祐さんはどこなの?」

藤吉はそれには応えず、海へ視線を向ける。海面の奥から低い鼓動音が響いた。

〈ドォゥン…ドォゥン…〉

地震の音ではない。巨大な臓器の拍動のような音だ。その鼓動に合わせて、祥子の胸に経験したことがない痛みが走った。礼佳がその腕を掴んだ。

「ママっ、もうすぐ上がってくるよ。島のなかにいる人たちが…」

「えっ?島のなかって?礼佳?それって…?」

祥子は礼佳の肩を抱いた。

「賢祐さん?」

礼佳は目の前の海を見ながら頷いた。藤吉は岸壁の岩肌を掌で叩きながら呟く。

「おる。島の内側じゃ。そのままじゃ戻れん」

藤吉は両手を広げて岬の頂上を見上げた。

「外の連中が仕掛けた首都移転とやらの証明を邪魔しようとしとる。この島が沈まん理由が暴かれれば…。島は潰される」

祥子が礼佳を抱きしめたまま、頭を上げて訊ねた。

「だから呼んでるって云うの?島が?あたしたちを?」

「そうじゃ。血脈というのは面倒なもんじゃな。島はあんたら、巫女の声なら聞くはず…」

祥子は自分の胸に手を当てた。母、明子の声がまだ胸の奥で囁いている。

「戻るの…。迎えに来て…」

岬の真上の空が稲光のように白く光った。海面がゆっくり割れ、地の底から一筋の泡の柱が立ち上がる。礼佳が両手を上げて前へ突き出しながら目を見開いた。

「来るよ。帰ってくるよ。パパとだれか、もうひとり…」

祥子の全身に冷たく長い戦慄が走った。


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