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平川宏太と吉村裕也は湯木藤吉の船で西の岬に来ている。港で見つけた西条のアイ・パッドにあった都市基盤軸や、そこから発せられた西条と思われる声のこともあって、内閣府の調査団にはあえて告げず、賢祐の部下、矢島達也の依頼として、行方知れずになっている賢祐の捜索のために、海へ引きずり込まれた観測塔辺りへ行くことで許可を得ている。岸壁の裂の黒い水は依然として不穏に波打っていた。
岸壁の舞台のような平たんな場所で吉村が双眼鏡を手に叫んだ。
「湯木さん!船が来ますっ!」
藤吉が振り返る。
「誰の船じゃ?」
「あれは中澤さんの奥さんと女の子ですよ!そうだ、礼佳ちゃんでしたよね?」
宏太が青ざめる。
「こんな時に?なんで来るんだよ!」
藤吉は逆に何かを悟ったような顔をした。
「来よったか…。やっぱり島があの子を呼ぶんじゃな…」
宏太が不思議そうな顔つきで問い掛けた。
「島が人を呼ぶって?それ、どういう意味なんです?」
藤吉は海を指差した。そこには黒い裂け目の呼吸が礼佳の船の到着に合わせるように波打っていた。
「見てみい。島があの子を核へ戻したがっとるんじゃ」
吉村が震えた声で訊ねた。
「それじゃあ、西条さんと同じですか?」
藤吉は首を横に振る。
「それは違う。あの人は拒まれたんじゃ。けど、礼佳は迎えられとるじゃ。島が自分の一部だと認めとるんじゃな」
宏太は驚いたように息を呑んだ。
「首都移転なんて進んだら…、この島の状態を知らずに工事を始めるってことかよ」
藤吉は重く答えた。
「知らんのじゃろう。島の下に何がおるのかも」
藤吉は宏太を叱ったように睨んで続けた。
「戦時中、ここが〈禁足地〉として地図から消された理由も。島の核は永久に冷えぬと云われてきた意味もな…」
向こうに見える海面がぐっと盛り上がった。祥子たちの船がほとんどエンジンの推力を無視して、岬の岩礁を削ったような平らな岩場に滑り込む。そこには藤吉の船が係留してあった。まるで潮が導くように道を開いているように見えた。藤吉が呟いた。
「来よった…。島が鍵を連れて来よったんじゃ」




