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続 失踪の岬  作者: すみっこのラスカル
第6章 島が怯えている
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 祥子はフェリーの出発時間まで待てず、夜明けとともに家を出た。夏の繁忙期などに帰省する際、希望時間のフェリー予約が取れない場合がある。そんな折に乗せてもらっている馴染みの漁師石川航平に頼んで、島へ渡してもらっている。

「なんか知らないけど、国だか政府だか、訳の分かんない連中がいっぱい来てさあ、島から出るなとか、誰も入れるなとか云って、フェリーも今日から運休なんだよ」

石川は不満そうな顔をして苦笑いを浮かべた。

「えっ?そうなんですか」

祥子は少し驚きながら石川を見た。

「うん、そうなんだよ。だからちょうどよかった」

「よかったって…。それ、大丈夫なんですか?捕まったりしない?」

「あははは、大丈夫ですよ、そんなの。あんな連中には捕まらないって」

石川はわざと大げさに笑って見せた。

祥子はほっとしながら、礼佳を抱くようにして胸元へ寄せた。曳き波を切り裂いて進む渡船のエンジン音が急に弱まった。操舵していた石川が眉をひそめる。

「ん?おかしいな。今朝から潮がぶつかってるな。普通この時間はすんなり港に入れるはずなんだがなあ…」

祥子が抱き寄せている礼佳の顔を見て、安心させるように微笑むと、礼佳は黙って微笑み返すものの、その眼は周りの海すら見ていなかった。もっと深い場所…。海面のずっと下のほうを見ているようだった。

「引っぱられているよ…」

礼佳が小声で囁く。

「えっ?礼佳?」

祥子が顔を近づける。

「ほら、ママ…。この船、怖いほうへ行くよ。

海の穴があるほうへ…。穴があっちにあるのに…」

石川が慌てて舵を戻そうとした。

「いやいや、そんなはずは…、ん?これは?だ、だめだっ!」

石川は操舵輪を掴んだまま叫んだ。その操舵輪は逆方向に動いて、両手で抑えてはいるが、反対方向へ回ろうとしている。まるで見えない手が舵を握っているかのように…。祥子の背筋に冷たいものが走る。

(賢祐さん…これはあなたがいたあの夢の中と同じなの?)

いままで吹いていた風が突然止み、礼佳が祥子の腕の中で顔を上げて呟いた。 

「おばあちゃんが呼んでる…」

祥子は息を呑む。

「礼佳、それ?どういうこと?」

礼佳は海の先を指差した。その方角にある断崖の上の林が揺れていた。いや、揺れているのではなかった。それは島が呼吸しているように見えた。風向きとは逆向きに木々が膨らんだり、萎んだりしている。祥子は恐怖を覚えながらも、それを理解したかのようにも思えた。

〈島全体が生きている。だから、礼佳が反応するんだ〉

「ママ…。島は…、怒ってるんじゃないよ」

礼佳は大人のような静かな声で続けた。

「怖がっているんだよ。だから、人を呼ぶの…。ここにいてほしいって云ってる」

祥子は礼佳を抱きしめながら叫ぶ。

「石川さんっ!港に向かって!無理でも、回してください!」

航平はフルスロットルで舵を戻そうとしたが、潮流に逆らうどころか、祥子の願いを無視したように、船はますます西の岬へ向けて流されていった。礼佳を島の心臓部に連れて行けと命じられているように…。


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