表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続 失踪の岬  作者: すみっこのラスカル
第5章 岬の瞳が見つめる
14/29

2

 午前2時。住宅街の窓はほとんどが眠りに沈んでいたが、祥子の部屋だけは小さく灯りがついていた。礼佳はベッドの端に座り、じっと両手を見つめている。手のひらは濡れているように光っているが、水滴はひとつも付いていない。

「聞こえるの?」

祥子は礼佳の横で、覗き込むようにして問いかけた。

「ううん、聞こえるっていうより、向こうから触れてくる感じ…」

礼佳は祥子の顔を上目づかいで見ながら首を左右に振った。

向こう…。その言葉はまるで島が固有名詞であるかのように響いた。祥子はバッグの中に必要最低限のものを詰め込み、財布とスマホの確認を終えると、礼佳の前で膝をついた。

「礼佳。行くって決めたら、途中で戻れないよ。いい?」

祥子は礼佳の両肩を抱いた。

「また前みたいに、怖いものを見るかもしれないし…」

礼佳は少しだけ口をつぐんでから、正面を向き、祥子の目を見つめた。

「パ、パパが…、呼んでたよ」

祥子は息を止めた。

「え? パパが?」

「そう…、声で呼んだわけじゃないけど。すごく苦しそうで、暗いところにいて…」

礼佳は苦しそうに胸元を押さえる。

「島のなかが揺れてるの。息してるみたい…。パパのいるところと、そこは繋がってるんだよ」

その言葉はまるで何かの内部構造を見ているようだった。祥子は、娘の背中を抱き寄せた。

「わ、わかったわ。これは呼び戻されてるんだね」

礼佳は祥子の肩に顔を寄せて小さく囁いた。

「ママだけじゃなくて、あたしも…。あたしも呼ばれてるみたい…。だって、ママの子供だもん…」

玄関ドアに風が吹いたような音がした。窓はすべて閉まっているのに、潮の匂いが流れ込む。祥子は背筋を伸ばして呟いた。

「ああ…、この匂い…」

島に帰る前の夜に必ず吹く呼び返しの風だ。礼佳が玄関を見つめた。

「ママ。船、来てるよ」

「えっ?」

「ほら、この音。おじいちゃんの船じゃないよ。もっと古い音」

祥子には聞こえていないが、礼佳は確信している表情で懇願した。

「ママ、行こうよ。待ってるよ」

待ってる?誰が?賢祐さん?それとも島?いや、母かも知れない…。それとも、まだ姿を見せていない第3の何かが待ってるのかもしれない…。

 迷っている場合ではなかった。胸の奥…。心臓ではないもっと深いところで、不規則に震えている。島が揺れている。また誰かを求めているのか…。祥子は意を決してドアを開けた。夜風がまるで潮の中から吹いたように湿っていて、遠くの空で低いうねりが響いた。礼佳が小さく呟いた。

「はじまるよ、ママ…」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ