ミッション1 縁孤家の家政婦
「お坊ちゃま、お坊ちゃま朝でございますよ~」
「ん…ん………え今何時?」
「今、8時3分でございます」
「え?まじ?やべありがとう古槌!」
ガチャッ
ふー、危なかったですわ。危うく真護お坊ちゃまが遅刻するところでした。この縁孤家に仕えて一年、家政婦としてはまだまだですわね。さあ、私も食卓へ参りましょう。縁孤家の慌ただしい一日が…始まりますわ!
「おはよう古槌」
「おはようございます!奥様!」
こちらは佐代美様。さすがは元女優。お美しいわ…
「おはようございます!ご主人様!」
「ん、おはよう」
そしてこちらが、私のご主人様、縁孤武和様。由緒正しき縁孤家の第12代当主で、大手企業縁孤商事の総取締役です。
さて、厨房のお手伝いをしなくちゃね。
「皆様、おはようございます」
「おーう古槌!こっち手伝ってくれや!」
「はーい」
こちらは八剱先輩。とってもお強くて、素晴らしい包丁さばきですわね!
「どうされましたか?」
「いや~、この肉、どうやっても包丁の刃が通んなくてな…お前腕力えげつねえだろ。この包丁ぶったたいてみてくれ」
「えぇ?いいんですか?そんなことしたら刃が折れるんじゃ…」
「これは私の師匠が作った包丁だ。おめえには折れねえよ」
「そうでしたか!では遠慮なく!」
ズドオオオオオオオオオオン!
「うぇーい!ナイスパンチ!」
「ありがとうございます。ちなみにこの肉は…」
「ん?これは獣谷さんが捕ってきた猪。あの人すげーぞ!昨日美鶴お坊ちゃまが突然、
『猪肉が食べたい~』
ってわがまま言い始めてな。みんな困ってたんだが、あの人昨日の夜いきなりいなくなってな。今朝厨房にコイツ持って現れたんだよ」
さすがは獣谷さんですね。あ、美鶴お坊ちゃまは真護お坊ちゃまの弟で、ご主人様のご子息の一人です。
「そういや獣谷さんがおめえのこと呼んでたぜ」
「あら、了解致しました!ええっと、獣谷さんは…」
「あー、暫暫の小屋にいるぞ~」
「獣谷さ~ん、古槌です~」
「お~、古槌ちゃ~んありがと~」
「暫暫、おはよう」
「ほら暫暫、古槌ちゃんだぞー」
かわいいいいいい!私、パンダって好きなんですよね~
「ところで用事って…」
「おお、これを文藏君に届けてくれる?」
「文藏く~ん、古槌です」
「どうぞ!」
「あら美鶴お坊ちゃまおはようございます。」
「おはよ~!ねえねえ古槌姉ちゃん、文藏のお話すごいんだよ!まるで魔法みたい!」
「うふふそうですか」
文藏君は私の後輩で、屋敷の会計や文書のやり取りを担当している家政婦ですが…
いや男ですわよね?あれ?某男装系家政婦、いや家政夫ミタ○ノさん的な感じ?
「これ、獣谷さんから…」
「あ、ありがとうございます。ところで古槌海龍寺様がお呼びですよ」
「え、海龍寺様が?」
海龍寺様は、このお屋敷に古くから使える私たち使用人のリーダーです。お優しいお方ですが、怒らせるとメチャクチャ怖いとか。呼び出されるなんて、なんだかハラハラしますわ。
「海龍寺様、古槌です」
「入ってちょうだい」
「失礼いたします…ん?」
あれは私と同期で親友の波瀬宮?
「ちょっとフルツッチ遅いよ!私この地獄の空気の中待ってたんだよ?」
彼女が小声でつぶやく。
「ごめん!マジでごめん!」
さてと…なんで呼ばれたんだ?私、怒られるようなことしたかしら…
ドサッ
びくッ!
「これが今回のあなたたちの、ターゲットです」
「…?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ターゲットは見つけたか?」
「ああ、バッチリ確認したぜ。一人とは好都合だ。」
今回のターゲット、縁孤商事社長、縁孤武和の一人息子である縁孤真護。くそ、金持ってんだろうな。癪だぜ。
「おい、集中しろ!」
「カリカリすんなって。伝説のスナイパーの俺様にまかせろ!」
さて、照準を合わせて…
「あら、伝説のスナイパーと名高い割には随分と分かりやすい場所にいらっしゃいますわね」
「⁉」
女?どこに隠れてやがった!てか手に持ってるのなんだ?爆弾?え?なに?
「縁孤家に近づくゴミは…デリートですわ!」
ボフッ
「…く…煙で前が全く見えない…」
コ゛ン゛ッ
「ぐへあ…」
死んだ…かしら…
「ナイッス!フルツッチ!」
「ふー、波瀬宮は怪我無いかしら?」
「誰を心配してんのよ!」
「それもそうね」
波瀬宮は火薬の達人ですものね…
「おい!お前らなにもんだ!」
「あら、残党?」
「そうみたい。ま、蹴散らしましょ!!」
改めまして皆様、よろしくお願いいたします。
わたくし古槌姫里、家政婦兼―――――殺し屋です!