第6話「光と影」
遂に人生初のアイドルユニットを組んだ愛と柚月。二人はこのままでは大型ライブどころか学校内ですらライブ出来ない。まずは実力を上げる為に二人は練習する曲を決める。
「えっと愛って何処まで踊れる?」
「うーん…学校の体育のダンスが踊れるくらいかな…」
「…あ。この曲良いんじゃないかな。」
柚月はスマホで有名なバンドユニットである『インビシヴル/<コンフュージョン>』の曲を見つけた。タイトルは『ロストオナーシャイン』。暗そうに見えるが実は希望に溢れた曲で踊るのも歌うのもそこまで難しくない。
「いや、でも確かに希望は溢れていると思うけど…最初はもう少し明るい曲で行った方がいい気がする。」
だが、やはり愛にとってインビシヴル/<コンフュージョン>の曲は暗いイメージがあったので初ライブのカバー曲でこれは辞めようと言った。
「それなら他の人の曲である『ブライトライト』とかの明るい曲はどう?これだったら私達のユニットに会う気がするな。」
「お。良いね。愛。カバー曲が決まったんだったらオリジナル曲も作りたいよね。」
「確かに。殆どのアイドルがオリジナル曲を作っているからね。」
「あ、でも私はメロディーしか作れないな…作詞は出来ないかも…」
「私に関しては一応、中学の時に歌詞を試しに機械に歌わせていただけで…ちょっと綺麗な歌詞とは言いがたかったかな…」
だが、二人は大した作曲や作詞の知識を持っていなかった。まあ、一回作った事がある程度で実力はプロアイドルの半分にも満たなかった。
「ま、まあオリジナル曲は一旦後にしてカバー曲の練習をしようよ。」
「そうだね。愛。」
オリジナル曲については一旦、後回しにしカバー曲を練習するようになった二人。しかし、その時に二人のスマホの通知音が鳴った。
──(ピロン)
「あれ?私のスマホが鳴ってる。memorial Hopefulかな?」
「私も鳴ってる。愛と同じmemorial Hopefulだ。」
「更新されたのは…H*Lの中のエデュケーション♡⃛ファンズ?」
「莉衣ちゃんが所属しているアイドルユニットだね。略称はエデュ。」
「そうなんだ。えっと…なになに?」
しかし、そこで見たのは玖美がアイドルを引退する事と同じくらいに衝撃的なものだった。
「え!?世田谷さんがH*Lを引退!?さらにアイドルも辞める…!?」
「莉衣ちゃん…やっぱり…」
柚月が呟く。すると、愛が不思議そうな顔で質問した。
「やっぱり…って柚月は世田谷さんが引退するのって納得なの?」
「うん…正直に言えばそうかな…だって彼処の事務所のプロデューサーもマネージャーも何ならスタッフも厳し過ぎるから。」
「それってどんな感じなの?」
愛は好奇心で聞く。すると、その答えは想像を絶するものだった。
「莉衣ちゃんから聞いた話によると…」
「まず、基本的にはレッスンが朝の七時からある。」
「(…ちょっとこれは厳しいかも。少なくとも私にとっては。)」
「まあ、幸いな事に事務所に朝の七時に行けないと言えば遅れても怒られる事は無い。」
「と言うか、大体のアイドルが朝の七時には行けない為、スタッフ達などは来れない事を察している。」
「愛と私はこれだけでもキツいと思う。だけど、あの事務所はそれだけじゃない。」
「休憩がいつも十分しか無く、それでいてレッスンは夜の七時まである。」
「え…それってご飯食べる時間あるの?」
「少なくとも休憩時間に自分でコンビニまで行って買うには時間が掛かり過ぎるから、殆どの人は朝、事務所に行く前に買いに行くみたい。」
H*Lで用意される昼ご飯の大半はご飯と味噌汁と焼き魚。夜ご飯の場合はご飯かパンか麺かを選べる。朝に関してはパンとジャムしか無い為、足りなければ買って来たコンビニ飯を食べるしかない。ドリンクは事務所の自販機で買う事は可能である。
「そうなんだ…世田谷さんもそれが原因で辞めたのかな…」
「恐らくそうだと思うけど…って何これ?」
すると、柚月はニュースに乗っているエデュちゃんねるの動画を見つける。恐らく、莉衣が辞退した理由などが分かる動画だろう。
「え?何か見つけたの?」
「実は此処に『ーエデュちゃんねるー【重大発表】この度一人メンバーが辞退します。【ライブ配信】』ってあるんだけど…」
「確かに気になるね。見てみよう。」
それから数十分後…
「……やっぱり、理由は柚月が言っていた通りだったね。」
「莉衣ちゃん大丈夫かな…」
その頃、H*Lでは……
H*Lスタジオ前
「では莉衣さんは本当に此処を辞めるのですね。」
「はい。あたしは此処の事務所を辞めます。」
莉衣とスタッフが話していた。このスタッフはH*Lの中では常識があり、皆からも頼られていた。実は莉衣も他のスタッフに言おうとしたが信じられずに拒否されてしまった。
「分かりました。私は貴方の意見を尊重します。少し短い間でしたがありがとうございました。」
「こちらこそあたし達を支えて下さり、ありがとうございました。」
莉衣は感謝の言葉の述べた後、H*Lの外に出て行った。
「事務所脱退したわね…」
「(でも、あたしにとってはあの環境はキツすぎた。だから、寧ろ辞退する事は良かったのかもしれない。)」
「………今日は大きな出来事がありすぎたわね…家に帰ってゆっくりしましょう。」
「あ、柚月と品川さんにもう夜である事も一応だけど伝えようかしら。彼処の学校は六時半くらいに学校出ないといけなかった筈だから…」
莉衣はとても悲しい訳でも無いがかといってとても喜んでいる訳でも無い何とも言えない表情で帰って行った。いつの間にか晴れていた空は──
雨が降っていた。
〜渋谷川学園〜
「あ、もうこんな時間になってる。私、家に帰るね。」
「うん。バイバイ。愛。」
二人は挨拶をして家に帰って行く。
最初は莉衣の事で戸惑ったものの、莉衣がメッセージを送ってくれて誤解が解けた。その後はカバー曲などの練習をし、悪くない腕に仕上がってきたみたいだ。「明日も楽しみだな…」二人は久しぶりにそう感じた。
〜羽田家 リビング〜
一方、羽田家では玖美が自分の母親に意見をぶつけていた。
「玖美。確かに辛い事があったのは分かるけど…その子は謝ってくれたのよね?それに…」
「その子は別に自分とアイドルをしろとは一つも言っていないじゃない。多分、ソロアイドルでも良いって事でしょ?」
「玖美はアイドルが好きで憧れだったのでしょう?そしてそれは今も残っているのでしょう?」
「だったら、ソロでも良い。もう一度、アイドルをしてみなさい。まだその想いはあるのだから。」
「大丈夫。もし無理だったら…すぐに辞めれば良いから。…だけれどやらないと始まらないと思…」
玖美の母親が言おうとした瞬間、玖美は突然、何処かに行ってしまった。
「え!?玖美!?」
〜玖美の部屋〜
「………逃げてしまった…」
母親との話を一方的に打ち切り自分の部屋に逃げて来た玖美。そんな彼女はアイドルをやる前の自分を思い出す。
それは数年前の事──。
〜中学校 廊下〜
「………ふう。これで課題終了。」
「おーい皆!港加々実って知ってる!?」
「うん!勿論!あの人凄いよね!」
港加々実とはあのTH!に所属している玖美の同級生。加々実とはこの時の玖美(以降は中学生玖美と呼ぶ)の数少ない理解者。そして友達。明るい性格で若干調子に乗りやすいが誰よりも優しい人物である。
「(加々実…あんなに有名になったんだね。)」
「わたしもいつかこうなりたいな。」
「よし。これからアイドルになる為の手順を調べよう。」
そして現在──。
〜玖美の部屋〜
「あの時は加々実に嫉妬すら渦巻いていたんだっけ。」
「だから負けてはいけないと感じてアイドルを目指した。それが全ての始まりだったかも。」
「あの子には負けたくない。そんな強い欲望のお陰かな。それなりのアイドルになれたのは。」
玖美はかつて、何一つ特徴が無かった自分自身をアイドルに導いてくれた加々実に向けていた感情を語る。嫉妬…憧れ…目標…玖美はその時、沢山の感情を感じた。
「でも…今、わたしは…」
「アイドルを辞めてしまって…」
「ありがとう!玖美!貴方もアイドルをやると決めてくれて!」
「……加々実、ごめんね」
「…玖美!アイドル、ずっと続けてね!約束だよ!」
「貴方との約束守れなかった。」
その声はたった一人の部屋に反射した──。
こんにちは。小山シホです。さて、今回は玖美の中学生時代が描かれましたね。これから物語はドンドン複雑になって行きます。最後くらいにはまとめも行いますのでご安心を。
今回、愛が柚月と楽しくアイドル活動をしている中、莉衣はエデュを辞めてしまいました。しかし、莉衣にとっては寧ろ良かったとすら感じており、少し複雑な心情のようです。
そして、玖美は自分の母との言い合いから逃げてしまいました。逃げた先の自分の部屋では自分はアイドルになりたいという気持ちにさせてくれた人物の存在、 港加々実について語ります。しかし、彼女は加々実の"約束"を守れなかった事を後悔しているようです。果たしてこの四人は一体、どうなるのでしょうか。
続編をお楽しみに!
次回予告
愛と柚月がユニットを組んでから一週間後、愛の担任どある加山先生から渋谷川学園の代表的な学校行事、渋谷川学園音楽祭があると伝えられる。愛と柚月は喜んでいたが、楽しい事ばかりじゃなくて…?