第4話「失ったもの」
「…………」
その時、玖美は屋上でも無く、図書室に居た。彼女はかつての自分を思い出す。
「こんにちは。皆さん。わたしは今日からアイドルグループ『Open up! Road and door!』に所属します、羽田玖美と申します。」
『Open up! Road and door!』とはアイドル事務所、『The heart to hold!』、略してTH!のアイドルグループである。『Open up! Road and door!』、略してルードア。TH!は大きな事務所では無いものの中々の実力がある。ルードアはその中でも実力者が中々に揃っている。
が、ルードアのプロデューサーが怠惰なのか優しいせいなのか実力者とそれ以外の人の実力差が激しい。因みに玖美はそれ以外の人ではあるが、その中ではまだ上手い方である。
「お!宜しくね!」
「…皆、次の仕事を羽田に教えてやれ。」
プロデューサーが言う。ルードアのメンバーは玖美に仕事の内容を教えた。
「えっと…三ヶ月後にItubeの配信があるんだ。その時、私達は新しいメンバーが入りましたって言うから羽田さんはそれまでに自己紹介を考えて来て欲しいな。」
それを聞いた瞬間、玖美は驚いた。何故なら、その配信の時はダンスや歌をしないとメンバーが言うからだ。
「えっと、その、ダンスや歌は何故しないんでしょう?」
困惑した玖美はメンバーに聞く。すると、メンバーは答えた。
「だってさ此処、ルードアだよ?それも下の方の。」
「つまり簡単に説明するとあの無能…じゃなくて!怠惰なプロデューサーのせいで羽田さんは下の方に分けられてしまったのよ。」
正直に言うならルードアのメンバーとプロデューサーとの仲は最悪だ。
プロデューサーが前に居ても怠惰だとか無能だとか言ったりする。だが、やはりそれは玖美には理解不能だった。
「え?怠惰…?プロデューサーは前に居ますけど…?聞こえていたらどうするんですか?」
玖美は心配しながら言う。するとメンバー達は全くもって心配などしていなさそうな顔で言った。
「大丈夫!大丈夫!聞こえても何も叱りもしないから!」
「それにあの人が私達に叱ろうが怒ろうが逃げてマネージャーの人に言えば全て解決するんだよね。」
「大丈夫じゃないでしょ…」玖美はそう思いかけたが、切り替えて自分の言う自己紹介の分を考えた。
「それじゃあ宜しくね!羽田さん!」
〜事務所 玖美の部屋〜
その後、特にやる事が無かったのでルードアのメンバー達はマネージャーに自主練をしろと言われていたので各自、自分の部屋に戻った。
玖美は自己紹介文の練習をしていた。
「此処は…こんな感じで…」
「よし、これで一旦通してみよう。」
『皆さんこんにちは。わたしはTH!のOpen up! Road and door!所属の羽根田…羽田玖美です。』
だが、玖美の練習は最初の文を読んだ所で辞めてしまった。自分の名前を間違えてしまったからだ。
「あ、此処はもう少しハキハキと言わないと。後で練習しよう。」
「えーと、『わたしは小さく頃からアイドルに憧れていました。今、こうやってアイドルになれている事自体が嬉しいです。』」
『皆さん、どうか初心者アイドルですが応援宜しくお願いします!』
「うん、此処らは良い感じ。最初の所だけ練習を増やそう。」
〜現在〜
そして今に戻る──。
「………懐かしいな。この時はとても楽しかった。」
「見つけたっ……!」
すると、聞き覚えある声が聞こえてくる。何とその声はかつての仲間、四谷ユカだった。
「…っ!何で!?」
驚いた玖美は読んでいた本を下に落とす。そしてユカはどうして此処に来たかを語る。
「世田谷さんとその友達が玖美ちゃんを探してって言ってたから…」
「ふ〜ん…そうなんだ?」
玖美はユカの事を疑う。すると、ユカは焦った顔をして言った。
「あ、いや!本当はわたしが玖美ちゃんに言いたい事があって来たの。」
「それだけの事で世田谷さん達を巻き込んだ。」
「勿論、世田谷さん達には申し訳無いと思っているよ。」
〜図書室の外にて〜
一方、図書室の外では愛と柚月と莉衣が見ていた。
「あの…私達、本当に此処に居て大丈夫かな…?」
「大丈夫だよ。品川さん。玖美さんと四谷さんはしっかりと話してくれる。私達は見守るだけ。」
だが、やはりと言っては何だろうが玖美とユカは何かあったのかかつてのアイドル時代の仲の良さが見えない。それに気付いた莉衣は二人に言う。
「ねえ、二人とも。」
「恐らく玖美と四谷さんはいつかギスギスしだすわ。だからもしそんな事が起きたら…」
「あたし達が二人を止めましょう。」
その意見に二人は賛成した。
場面は図書室の中に戻る。
「そうなんだ。で、話って何?」
その発言の後、ユカの顔が強ばる。
「何で玖美ちゃんはアイドルを辞めたの…?」
「え…?」
思いもよらぬ問いに玖美は戸惑いを覚える。そして答える事すら許さないようなスピードでユカは聞く。
「だって…!"あの出来事"があって間もない頃に玖美ちゃん、すぐにアイドルを辞めたじゃない!」
「………あの出来事?」
「覚えていないんだ…わたしが歌えなくなってアイドルのパフォーマンスが低下して…」
「『Open up! Road and door!』のメンバーからは『開かれなかった道事件』再来と言われている事件…」
「──『永遠に届かぬ希望夢事件』を。」
開かれなかった道事件とは五年前に起きたTH!の中でも大きい事件である。
ある一人のアイドルが突然、スランプを起こしてTH!のユニットのメンバー達に迷惑を掛けた。
にも関わらず、全く謝りもせずにメンバー達に当たった。その事に苛立ったあるメンバーの一人がマネージャーのパソコンを借りて、マネージャーのアカウントでその事件の事を書き込んだ。
マネージャーのアカウントはそれなりに有名だったのでそのスランプを起こしたメンバーは炎上。スランプを起こしたメンバーのアカウントは辛辣なコメントが沢山送られた。
…というのが主な概要だ。
まとめると『スランプを起こしたメンバーが逆ギレし、それに苛立った他のメンバーがマネージャーのパソコンを勝手に借り、そのアカウントでその事を書いた結果、スランプを起こしたメンバーが炎上して辛辣コメントばかり送られて来た。』と言った感じだろうか。
まあ、『永遠に届かぬ夢事件』は開かれなかった道事件の…スランプを起こしたメンバーが他のメンバーに当たったものの、他のメンバーがイライラせず、マネージャーのアカウントでは晒さなかったバージョンと言っても良いだろう。
「…!」
"それ"の再来を思い出した玖美は喋る事すら出来なかった。
「私が必要以上に練習して…皆に迷惑を掛けた…」
「その後、玖美ちゃんが心配して病院に来てくれた…」
「なのに……」
ユカは『永遠に届かぬ希望夢事件』の事を語り始める。起きた原因、その後、起こした人…その事、全て話し始めた。
〜過去 病院にて〜
「ふざけないで!!わたしの未来を奪ったのは玖美ちゃんなんだよ!!!」
「これ以上、話しかけて来ないで!」
「──皆のアイドルの未来を…消さないでよっ…………!!!!」
「あっ……」
〜現在〜
「わたしは酷い事言ってしまって…そのせいで玖美ちゃんはアイドル辞めちゃったし…」
ユカは泣きながら言う。見ている三人はユカが罪悪感を持っている事に無理も無いと思ったと同時に莉衣はそれが玖美がアイドルを辞めた原因では無いかと考察した。
だが、玖美は意外な事を言った。
「────え?そんな事で辞めないよ。」
「わたしはただ、親に『貴方はアイドルの資格が無いから辞めろ』と言われたから。」
「それは違う。」三人は小さい声で言った。前提に玖美はルードアでアイドルをやっている。そんな事で親がそんな事を言う筈が無い。 玖美の親は誰が見ても良い親だからである。
「…違うでしょ!?わたしのせいで玖美ちゃんは辞める羽目になった!」
「いいや、わたしは学業に集中したかったから。」
「え?でも、玖美ちゃん、元々頭良かっ…」
ユカは言いかけるが玖美はそれを遮った。
「いや、わたしは平凡的。だからアイドルを一旦辞めたの。」
「そんなに重い理由は無いから気にしないで。」
「じゃあね。ユカ。わたしは忙しいから。」
結局、大した進展が無いまま、話は終わってしまった。見ていた三人はユカへの同情と玖美の行動の疑問視があった。
「…品川さん。莉衣ちゃん。彼女を追おう。」
「分かった。じゃあ、私は羽田さんの教室に行くね。」
「…あたしは玖美が良く行く所に行くわ。」
話し合いをしているとユカが戻って来た。
「あ、四谷さん。この顔だと上手く行かなかったようね…」
「そうなんです…でもこのままでは嫌なんです…」
「じゃあ、四谷さんは…どうする?」
「わたしは玖美ちゃんを探したいです…!だって嘘をついている玖美ちゃんのままなんて嫌だし…」
「…えっと、わたしは世田谷さんが探す所以外に玖美ちゃんがよく行く所があるからそこに行きます。」
「分かったわ。行きましょう。」
果たして玖美を見つけて話をし、本当の引退した理由を聞き出せるのか──。
こんにちは。小山シホです!はい、とても複雑になってしまいました(笑)とは言っても今回は玖美の過去やユカの過去を主に書いたのですがね。因みに、玖美の過去はまたいつか描写しようと思うのでお楽しみに!もしかしたら莉衣とかの過去も書くかも?
次回予告
ユカから逃げてしまった玖美。そんな中、また莉衣達は追ってくる追い返そうとするが勢いに負け引退した理由を正直に言う。その後、ユカが自分の決意を口にする──────。