第8話「例え、困難があっても」
〜翌日 放課後〜
〜屋上にて〜
「そっか…」
屋上に声が響く。ブライトライトの練習をしていた愛は驚いて柚月の方に向かった。
「ど、どうしたの?柚月。何かあったの?」
「……莉衣ちゃん、今日は練習に来れなくなっちゃったんだって…」
「………」
「(もしかして昨日の事が原因…?莉衣が志染先生と羽田玖美さんの言い争いを偶然、見てしまった事…)」
実はあの時の様子は莉衣も見ていたが愛も見ていた。ただ、誰からもバレぬようにこっそりと。最初は好奇心で見ていたものの、最後は見なければ良かったと愛自身は思ってしまった。
「(そりゃあそうなるよね…自分の友達が先生の話を一方的に遮っているし…それもあの羽田玖美さんがしているから…)」
「…何とか私達で解決出来ないのかな…」
「私もそうしたいよ。でも…それは莉衣ちゃんの問題。あまりに干渉すると却って逆効果な気がする。」
「うーん……」
二人は良い解決策が思いつかないまま、練習を始める事となった。二人の練習はいつもとは段違いの上手くなさで、明るい感じもせず、まるで初めてこの曲を踊ったようだった。
「ダメだ…全然上手くいかない。まるで最初踊った時みたいな…」
「うん。何でだろう…やっぱり、莉衣の事を思っているからかな?それで集中出来ていないかも。」
二人はこのままやっても上手く行かないと思い、休憩を始めた。
「…ごめん。愛。私、集中出来ていなかった。」
「それは私の台詞だよ。こっちこそごめん。」
「ねえ、愛。」
「愛はさ、中学校時代どうだった?」
柚月が聞く。すると、愛は困惑しながらも答えた。
「え?ま、まあ楽しかったかな。」
「でも何でいきなりこんな事を?」
「──それは私が中学校時代、虐めを受けていたから。」
「…そうなんだ…」
「私が愛の事をさん付けで読んでいた時ぐらいに玖美さんと昔話した事があるって言っていた事覚えている?」
「うん。」
「実は私が玖美さんと関わったのって渋谷川学園が初めてじゃ無いんだ。」
「え?じゃあ何処で知り合ったの?」
愛が聞く。すると、彼女にとっては衝撃的な答えが返って来た。
「渋谷区道玄坂中学校だよ。」
「えっ…!」
渋谷区道玄坂中学校とはその名の通り、渋谷区道玄坂にある区立の中学校。だが、学校内は結構荒れており、愚痴やいじりが絶えない。悪い意味で有名な学校だ。
「あの、虐めが多いと言われている…!?」
「うん。私は特に行きたい所も無かったから取り敢えず其処に行った。」
「でも、私は案の定虐められてしまったよ。」
柚月は虐められた内容を言う。具体的には「ただ単に悪口を言われる」、「苗字をいじられる」、「仲間はずれにされる」などだった。一つ一つは単純なものだがそれでも愛にとっては痛々しいものだった。
「…そっか…それは辛かったよね…」
「うん。でも、だからこそ、渋谷川学園で愛みたいな人と出会えて良かったと思っている。」
「ありがとう。柚月。そう言ってくれて。」
微笑ましい話をしていると通知が鳴った。
──ピロン
「あれ?私のタブレット?…え、莉衣!?」
「何だろう…」
『ごめんなさい。愛、柚月。…もしかしたらだけど──』
『玖美は音楽祭に楽しく鑑賞する事すら出来ないかもしれない。』
「えっ!?何で!?」
「ど、どうしたの?柚月。」
その声に反応した愛が柚月のタブレットを見る。
「…っ!」
『びっくりさせていたらごめんなさい。ちょっと志染先生に話を聞いて…』
『ああ、でも勘違いしないで。来年はきっと楽しく参加出来るから!』
「え、それって…」
莉衣のメッセージを見た二人は思わず顔を見合わせる。すると、その一秒後に莉衣からでは無く、教師からメッセージが届いた。
「…先生からメッセージ?こんな時に何故?」
「って、何これ……」
そこに書かれていた内容は衝撃的なものだった。
『高一の皆さんへ。今年の音楽祭は──』
『羽田さん抜きでやろうと思います。』
「え…せっかく玖美ちゃんと一緒に音楽祭を楽しめると思ったのに…」
『今回このようになった原因は羽田さんの意見によってです。』
『尚、この事は後日学年集会で伝えようと思います。』
「…………どうしよう…羽田玖美さん。見る事も出来ないなんて…」
当然、それは愛も混乱していた。二人はさらなる絶望感に押し潰される。
このメッセージは高一全員が見ていた。
〜高一 廊下〜
「ねえ、さっきのメッセージ見た?羽田さん、音楽祭を鑑賞すらしないらしいよ。」
「おいおい。嘘だろ?楽器を弾かないとかだったら分かるが、見すらしないってのは前代未聞だぞ?」
「原因は…羽田玖美さん本人が意見したからだって。」
「いやーそんな事ある?誰かに勘違いされているだけでしょ?」
「だよな。アイツだったらそれも有り得る。」
高一の生徒達が話していると……
「いや、本当だよ?」
「え?」
玖美が話しかけて来た。だが表情は明るくなかった。
「貴方達が話していたのは音楽祭の話でしょ?それは本当だよ。貴方達には信じて貰えないと思うけど。」
「え?どうして鑑賞すら──」
「貴方達といるとイベントも大した事無くなるからだよ。」
「っ!いくらなんでもその言い方は!」
「ああ。そうだね。貴方達にわたしの何かが分からなくても良いよ。」
その言葉の後、玖美の表情は一段と厳しいものになった。
「────だけど貴方達のせいで渋谷川学園の評価が下がったのは事実だし、わたしの性格がこんな陰湿なものになったのも貴方達のせい。」
「それは理解している?」
「それじゃあわたしは此処で。さよなら。」
玖美はさよならとしか言わずに去っていった。
「はぁ〜何か羽田さんアイドルの時と違くね?」
「何だか当たりが強かったよね。私達に。」
「結局、かつての羽田さんはアイドルとしてだったのか…」
「ていうかウチらそんな渋谷川学園の評価下げた?」
「まあ、一応そうじゃない?だって羽田さんをかつて虐めたし…」
実はこの仲が良さそうな四人は渋谷区道玄坂中学校で中学生の時の玖美を虐めた奴らである。悪口、無視、差別、暴力…等をした。今は多少は反省している。
一方、その頃…屋上では…
「ねえ、愛。」
「どうしたの?柚月。」
「莉衣ちゃんが参加できないかもしれないって言うのはショックだけど…」
「二人でも頑張ろう。愛。」
二人でお互いを励ましあっていた。
「…うん!」
「よし。そうなればやる気が上がって来た気がする!」
「まず、ブライトライトをやって次は新しいカバー曲をやろう!」
「オッケー!」
「じゃあ初めから!1、2、3…」
〜練習後〜
「ふう〜お疲れ様!」
「新しいカバー曲難しいね。明日も練習する必要があるかも。」
新しいカバー曲とはブライトライトを作った人と同じ人が作った曲である。曲名は『Shineline』。ブライトライトよりBPMが早く難しい。曲の雰囲気も少し違う。
「でも、何だかんだブライトライトは人に見せられるレベルになってきたんじゃない?」
「そうだね。キリも良いし今日は終わりにしよう。」
「うん。私、家に帰ったら自主練するよ。」
「あ、それだったら私も自主練しようっと。それじゃあね。また明日。」
二人は家に向かっていった。一方、渋谷川学園の校門前では──
「すみません!先輩!玖美居ますか!」
莉衣が玖美を探す為に先輩達に聞きに回っていた。
「玖美?もしかして羽田玖美って奴の事か?」
「いや、此処には居ないな。まあ、屋上とかに行ったって俺の先輩は言ってたけどな。」
だが、高二の生徒に聞いても此処には居ないと言われてしまう。しかし、何処に行ったかを聞く事は出来た。
「ありがとうございます。屋上に行ってきます。」
莉衣はお礼を言って屋上に向かった。
〜屋上〜
「もう、嫌だ。」
其処には楽しみを失った玖美が居た。
「(わたしの友達は何故かわたしの事異常に心配されるし…)」
「(学校内ではわたしの噂ばかり流れているし…)」
「(皆が心配しなくなって、噂を流し過ぎなければ幸せになるのかな…わたしも。)」
玖美が心の中で嘆いていると、玖美によってはある意味で"最悪の存在"に出会ってしまった。
「玖美!ちょっと何で此処に居るの!もう下校時間よ!」
「………なんで?どう……して…?」
「どうして此処に来たの!!!!」
「わたしの心配だったらどうでも良い!それとも何!?わたしを馬鹿にしたいの!?」
自暴自棄になる玖美。莉衣はそんな玖美を落ち着かせるように言った。
「違うわ。玖美。落ち着いて。」
「今日はあたしと一緒に帰りましょう。今、貴方が感じている事を教えて欲しいの。」
莉衣が言うと玖美は泣きながら言った。
「…教えたくないよ!」
「だってそんな事知ったら莉衣まで嫌な気持ちになるし…」
「あたしはそんな事で嫌な気持ちんなんかならない!」
「だからお願い!一緒に帰りながら貴方にあった事を教えて!」
莉衣の強い言葉に玖美は崩れたらしく、一緒に帰る事を決意した。
「分かったよ。」
「…!ありがとう!」
〜帰り道〜
「それでね、わたしがスランプを起こしたユカに『大丈夫だよ。きっと治る。わたし達は練習に行ってくるね。』って言ったの。」
「でも、逆効果だったみたいで…」
「それで、四谷さんに厳しい言葉を言われてしまったと。」
「…玖美。貴方はあたしが思ったより大変な想いをしていたのね…」
「気付かなくてごめんなさい。」
『大丈夫だよ』といった顔をしながら玖美は言う。すると、莉衣は渋谷川学園のイベントの事を言う事にした。
「あ、実は渋谷川学園音楽祭、愛と柚月がやるの。」
「だから、絶対に見に来て!確か日にちは5月30日だった筈だから!」
「え?でもわたしは…もう先生に…」
「大丈夫!その事については色々な先生が話し合った結果、絶対に鑑賞はしなければいけない事になったの。だから玖美は音楽祭を鑑賞出来るわよ。」
その言葉に玖美は『自分の事を大切にしてくれる人がまだいたんだ』と思い、涙を流した。
「ありがとう…!わたしの為に…!」
「良いのよ。玖美。これを見て貴方の気持ちが良いものになればあたしはそれで良いわ。」
「それじゃあ、玖美。また明日。」
「うん。」
二人は別の道に別れ各自の家に帰って行く。まだ、玖美はアイドルをやると言っていないものの、鑑賞はしてくれる事が決定し、状況が良くなったようだ──!
皆さんこんにちは。小山シホです。さて、小説が長くなってきましたね。これからはこのくらい長くなりますので複雑になって行きますが、付いてきて下さいね。いつかは解説を挟むので安心を。
さて本編に戻りますと、この話は音楽祭に向けての話です。次回は音楽祭当日の話ですのでお楽しみに。
次回予告
数日後、遂に音楽祭の開演の時がやって来た。初めて舞台に立つBright Shining Lightはライブを成功する事が出来るのか──!




