95、わからないままで
少し前、迷宮から抜け出した迷宮主は男女と出会っていた。
「面倒なのに……」
「えー、それをあたいらに言う?逃げたからじゃないの?」
「逃げなければ自由はないし、余計面倒なことになっていたかもしれない」
「じゃあ、今の状況は面倒じゃないってわけ?」
「面倒。だからどっかに行ってほしい」
「ダメ。あたいらだって意味があって来てるわけ、わかるでしょ?」
女のほうであるシシルに言われても女性は面倒くさそうだ。
いや、だからこそ女性はここで捕まりたくない。
「どこまで知ってる?」
「あたいは、説明を少し受けただけ」
「……」
「男のほうは全てを知ってるか」
何も話さないことによって、男がこの世界の姿というものを知っていると迷宮主がわかった。
そして、迷宮主である自分を必要だという理由も……
「少し自由にしたい」
「それが終われば、こちらに来るか?」
「面倒ごとでもやらないといけないことはわかっているつもり」
「ならばいい」
「ええ、いいの?」
あっさりと引き下がった男に、シシルは驚く。
「どっちにしろ、守らなければ、またくればいい」
「それもそうなんだけど」
「何度も戦えるのは嬉しいことだと言っていなかったか?」
「言ったけどさあ、あたいだって、ずっと戦えるわけじゃないんだからさあ」
「そうなのか……」
「ま、あたいのやりたいことは知ってるでしょ、お父さん……って怖いから、その視線はやめてよ」
少しからかっただけだというのに、シシルは自分に向けられた視線にさすがにたじろぐ。
お互いのことを少し知っているからこそからかうことができる内容ではあったが、男の逆鱗に触れてしまったということだろう。
こうして迷宮主を逃がしたが、そんな中で一つの影が動き出していた。
「おい、どこだよ」
(わかりません。寝ていました……)
「だよな、くそ」
目が覚めた結果、どこかわからない場所にいる。
それに、おかしなことというのはすでに起きていた。
「どうして自分が表に出ているのに、お前が起きている?」
(え?本当だ)
体は一つでありながらも、二つの心は驚いていた。
これほど魔力が安定していることがこれまでなかったからだ。
理由はわかっていた。
あの女性、名前はチカだったか……に出会ったからだ。
「くそ、会えばこれが何かわかるのか?」
「(どうなんでしょうか……)」
「これも……いや、それよりもここはどこだ?」
「(わかりません、寝ていました)」
「そうか」
お互いに寝ていた?
そんなことがあり得るのか?
思わず言葉にしそうになるが、実際にここまでの記憶がない以上どうしようもない。
いつものように弓はない。
攻撃に使えるものがないということは、何かあったときに対処が難しいということだ。
「おい」
「(は、はい!)」
「弓はどんなものか知っているか?」
「(もちろんですけど)」
「だったら、作れるか?」
思わずそう言葉にするが、すぐに何を言っているのかと自問する。
言われたところで簡単に作れるものではないし、そもそも弓を作るというのであれば木なども必要だ。
ここにはそんなものが一つもない。
作れるはずがないものを要求してなんになるのか?
すぐにそれに気づいたからこそ、何か違うことを口にしようとしたときだった。
右手に魔法でできた弓が握られる。
「は?」
「(えっと、作れました……)」
「そうみたいだな」
これまでできることがなかったものに驚く。
右手に握られているのは確かに弓だ。
それも前まで使っていたものと形状が瓜二つだということで、手になじむ。
「(あの……)」
「どうした?」
「(出ますか)」
「ああ、ここがどこか確かめないといけないからな」
彼女はゆっくりとその場所から動き出す。
どうやら、ここは小さな一軒家のようだった。
外に出ると多くの人がいるのが見え、思わず声を出す。
「すげえ」
「(本当ですね)」
二人が見たことがない光景だった。
多くのものと人が行きかっている。
そして、活気づいていた。
これまで二人が見てきたものとは違う景色に動きが止まってしまう。
だって、これまで彼女たちが見ていたものというのは、必要になるものであった。
体のせいで魔物から襲われ、力を使うたびに体の魔力が暴走し、その暴走を止めるために魔力を蓄えることができるという魔石のような石に、暴走した魔力を吸いこませることによってなんとか今日まで何事もなく生きてこれた。
そんな日々には眩しすぎる光景が広がっている。
だからこそ、どうしていいのかわからなかった。
とはいえ、光の弓を持って困っている彼女は少しずつ注目されると、慌てて家の中に入る。
「起きたのか」
中に入ったタイミングで声が聞こえて、反射的に弓を放つ。
だが、声の主である男にはすり抜けるようにして当たらない。
「無駄だぞ、ここにいる我は幻影のようなものだからな」
「なんだと」
「おもしろいやつがいるって押し付けやがって、あいつ……」
「何か言ったのか?」
「いいや、何も言っていない」
仮面をつけた男は、何かをブツブツと言っていたようだが、それは彼女には聞こえていない。
彼女は考える。
そもそもこいつはなんなのかと……
仮面の男は、彼女に言う。
「今何が起こっているのか、全ては不思議だろう」
「だったら、なんだ?」
「それがなんなのか、我にもわからん」
「はあ?」
「でも、それを引き起こしたのが誰かぐらいは我でもわかる」
「何を言って……」
「ここで待て、であればわかるだろう?」
その直後だった。
ドンという音が響いたのは……
「さて、時間か……」
「おい!」
だが、彼女の静止などなかったかのように男は姿を消す。
その後には悲鳴のような声と、足音が聞こえた。
彼女は足音が収まるのを待つと外に出る。
「なんだよ、あれは!」
「(わかりませんが)」
自分たちにどこか似ていると考えてしまった化け物という存在が、いることを感じて思わず二人は言葉にする。
化け物がいるところに向かうべきか逃げるべきかと考えたところで、向かうことに決めた。
あのチカというものであれば、化け物の元へと向かうはずだということを……
だけど化け物を視界に捉えたとき、戦っているのはあのチカではなかったが、視界の先で殺されそうになっている人を見て救わないと考えることはできなかった彼女は、弓を放ち槍を弾いたのだった。
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