93、かませ犬とは
家に戻ってきたのは勝利したアイだけだった。
ご飯を食べ終え、お茶を飲んだところでアイはチカに質問する。
「少しは休めましたか?」
「はい」
「では、行きましょう」
アイは立ち上がると歩きだす。
チカは意味がわからないまま、アイについていく。
向かう方向から行先というのはすぐにわかった。
クロがいるであろう遺跡に向かっている。
「どうして、クロの場所へ?」
「最初から、こういう時があったら連れてくるようにと言われてました」
「アイさんは、クロと会ってたんですか?」
「はい。お姉ちゃんも強くなるために裏でこそこそとやっていたかいがありました」
アイは嬉しそうにそう言ったところで、視界が切り替わる。
「クロ」
「ふ、この大魔法使い様に助けてほしいと聞いてな」
「あたしはそんなことは言ってない」
「だが、我が飛ばしたほうが早く着くぞ」
「それはそうですが……」
クロに言われて、確かにと納得する。
魔法を使った転移で中央都市へと向かえば、確かに一瞬だ。
とはいえ、チカの今の身体能力であれば、一日あれば着くことは可能だろう。
「何にせよ、我の言葉を聞けばいいだけだ」
「言葉って何ですか?」
「そう警戒をするな。いつものように力を見せればいい」
「そうですか」
クロの言葉でチカは理解する。
どういうわけか、クロは新しく手にした力というものを知っている。
力を発動するためには集中するだけ……
チカは力を発動させる。
「おお、それがあれば……」
何か小さな声でクロは呟く。
チカにも聞こえないくらいの小さな声であったが、クロは満足した。
「いい力だ」
「ありがとうございます」
「この大魔法使いが満足したからな、中央都市へくらい送ってやるぞ」
「お願いします」
チカがそう言ったところで、隣にアイが並ぶ。
「お姉ちゃんも行きます」
「アイさん?」
「もう、足手まといではないですよ、お姉ちゃんも」
「そう、ですね」
あの戦いを見れば、確かにアイの言う通りだ。
だけど心配なこともある。
「体調は大丈夫ですか?」
「はい。お姉ちゃんも魔力が安定すれば、たいしたことはありませんよ」
「そうですか……」
チカはなんとか納得するが、それでも心配だ。
先ほどの戦いのように、相手が気絶させるという目的で攻撃を仕掛けてくるのに対して、今から行く場所というのは、言ってしまえば死ぬか生きるか、そんな化け物がいるであろう場所だからだ。
「クロ」
「は、心配するな。我が実力は見たからな」
そう言葉にすると、アイは短剣を取り出す。
確かにそれは、試練をクリアしたときに貰える短剣だ。
どんな試練なのかはわからないが、実力を見たということは、魔物を倒した可能性が高い。
そのことを考えると、カイズと戦ったときに見た強さというものも本物だということだろう。
クロに頷く。
これで転移させてくれるはずだ
そう考えていたが、チカは危険を察知してアイとともに横に飛ぶ。
「誰だ?」
攻撃を受けたチカではなく、見ていたクロが仕掛けてきた男に言葉をかける。
「避けられてしまいましたか」
攻撃をしてきた男は、残念そうにそう言葉にする。
チカは気配によって気づくことができたが、男の魔力はかなり少ないことに全員が驚く。
「ああ、驚きましたか?これは、特技でしてね。欺くための」
男はそう言葉にすると、魔力を今度は解放させる。
それだけで、体内の魔力を自在に操ることができることがわかる。
「驚きましたか?魔力操作は得意ですからね」
男は楽しそうだ。
まあ、このクロが作り出した空間に入ってこられるくらいなのだ、自信があるのは当たり前だろう。
男は持っていた剣を構える。
「本当はね、こんなことをする計画ではなかったのですが、あちらをなんとかするにはこちらを足止めしないといけません」
「あたしたちと戦うということですか?」
「はい。それで間違いありません。まあこちらは足止めしか目的はありませんが……」
男は自信満々に言葉にする。
先ほどのことができることから、男はかなりの強さがあるということは全員がわかる。
クロでさえ気づくことができなかったのだから、なおさらだろう。
でも、だからこそチカは前に出る。
「では、あたしが相手をさせていただいてもよろしいですか?」
「チカさん?」
「大丈夫です。あたしに少し考えがあって……」
「それでは、お任せします」
「はい」
アイに心配をされるが、チカは大丈夫だ。
言葉の節々から、男の攻略方法というものがわかっていたからだ。
「ほら、こい!」
男は先ほどと同様に自信がある。
当たり前だ。
(魔力の扱いをどれだけ練習したか……まあ、やることによって、いろいろ身について強くなったがな)
そう、男は魔力を扱うことを磨いた。
そうすることで手に入れた力は、微量であっても魔力を探知できるというものだ。
これにより、攻撃や防御で魔力が揺らいだ瞬間、男は行動を起こせる。
「ぶは!」
まあ、それは魔力がある相手に限る話だということを、気を失ったときに気付くことができたのだった。
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