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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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92/122

92、残されたものの強さ

 驚いているアイに、チカはどうすべきか考える。


「何かありましたか?」

「アイさん。あの……」

「なんとなく言いたいことはわかります。こう見えてもお姉ちゃんですから」


 久しぶりながらも自信満々にそう言葉にするアイに、チカは安心する。

 いつも通りなのだ。

 だったらチカがやるべきことは、中央都市へまずは戻ることだ。

 何故遠ざけたのか、理由はなんとなくわかっているものの、そんなことで引き下がるようでは、これまでのお節介も全てに意味がなくなってしまう気がしていた。


「帰ってきて早々申し訳ないのですが、行こうと思います」

「わかっています。ですが、少しだけ食べて行きませんか?」


 アイが言った視線の先には、数々の料理が並んでいる。

 外を確認すると、気づけば夕暮れになっていた。

 それだけ時間がたっていたということだろう。

 でも、だからこそチカは急がないといけないと考えたところで止まる。


「お父様」

「ああ、久しぶりだ」


 ガチャっと扉が開くとともに、入ってきたのは父親だった。

 だが父親はどういうわけか、少しくたびれた服装をしている。

 街を治める貴族として、いつも身だしなみから気をつけているはずなのにだ。


「ここに来た理由がわかるか?」

「わかりません」

「そうか、では言っておくと、ここにとどまらせておくように紙が来ている」

「それは……」


 誰が書いたものなのか、チカにはすぐ理解できる、アンノが書いたものだろう。

 何故チカはここに飛ばされたのか、わかっていないのにも関わらず、さらには足止めをされると思っていなかった。


「それでも行きたいといえば、どうされますか?」

「仕方がない」


 父親はそんな言葉とともに魔力を膨れ上がらせる。

 チカは理解する。

 倒さないと行かせてくれないということを……


「お父様、すみません。あたしはそれでも行きたいです」

「だったら倒してみろ」

「チカさん?」

「ごめんなさい。少し待っていてください」


 チカはそう言って、進もうとしたが体が動かない。

 動かそうとする体の位置に、魔法でできた箱のようなものがあることにチカは気付いた。


「チカさん。あなたは少し、ここでご飯を食べて体力を温存すること」

「ですが……」

「大丈夫。助けたい相手がいるときに、チカさんが疲れていれば助けられるものも助けられなくなることは、わかっていますよね」

「はい」

「だったら、お姉ちゃんに任せてください」


 アイはそう言うと魔法を解除して、チカの父親であるカイズと向き直る。


「親子のコミュニケーションを邪魔してしまってすみません」

「そうだな。だが、こちらも言われていることは守らないといけない」

「はい。ですからお姉ちゃんが相手をします」

「わかった」

「チカさん、ご飯を食べていてください」


 アイとカイズは二人で出て行く。

 チカもさすがに見るべきだとは思いながらも、ご飯を食べないとアイに怒られるだろう。

 そこを考えた結果、ご飯を持ちながら隠れて戦いを見守ることになった。

 日が暮れ、街には明かりが灯っているが、明かりが届く街外れで二人は向き合った。


「手加減をできるか、わからんぞ」

「こちらも同じことを言おうとしていました」


 詠唱もなく、カイズは水の球を一瞬で作りあげるとアイに向けて放つ。

 どれだけの魔法が使えるのかを知らないカイズは、小手調べとばかりに放ったものだ。

 普通の人物であれば、この魔法で倒すことができる。

 それだけの威力があるが、水の球は何かに当たったのか簡単に消えていく。


「ほお……」

「お姉ちゃんも家でゆっくりしているだけじゃないから、これくらいはできます」

「では、これならどうだ?」


 次にカイズが作り出したのは、水の雨だ。

 それもただの雨ではない。

 勢いよく降り注ぐ雨というのは、視界を遮り、霧を一瞬でも作るからだ。

 最初に会ったところから、カイズはアイがそこまで運動が得意ではないということを見抜いていた。

 よって、この雨で目隠しをし、いくつかの魔法を設置する。


 魔法というものは、普通であれば魔力を溜めて、詠唱し発動することになる。

 だが、それよりも効率よく魔法を使う手というものも存在する。

 それが、設置するというものだ。

 魔力で作った魔法をあらかじめ出したい場所に放っておく。

 こうすることによって、残った魔法の一部を使うことで魔法を素早く発動するというものだ。


 とはいえ、これを使うものというのは珍しい。

 それはそうだ。

 わざわざ設置しないと使えない魔法と、唱えれば使える魔法。

 どちらが簡単であり、さらにいえば有用なのかはわかると思う。

 でも、こうした戦いに関していえば別だった。

 あらゆる方向から、魔法を放つことができるというのは、一種のアドバンテージになるからだ。

 だからこそカイズは、水の球を正面から放つ。

 防がれる。

 それは予想通りだ。

 次の魔法を今度は時間差で放っていく。


「終わりだな」


 カイズは水の球が飛んでいくのを見てそうつぶやく。

 それほどまでに今回の魔法には全てがそろっていたが、全ての魔法というのは当たる前に弾かれる。


「何!」


 驚くカイズだったが、見ていたチカはむしろ当たり前だと考えていた。

 カイと同じ魔法が使えるアイは、サーチ。

 探索魔法が元から得意だった。

 よって、あんな設置型の魔法など、どこに何があるのか最初から全てわかってくださいと言っているようなものだ。

 そして、チカが動けなかったほどには強力な壁のようなものを作り出す魔法。

 これをサーチで把握した場所に全て設置していた。

 よって魔法というのは簡単に防いでしまった。


「動けない」

「はい。お姉ちゃんが動きを封じましたから」

「参った」


 そうして二人の戦いは終わったのを見たチカは慌てて家に戻ると、食事をさらに食べながら、アイを待つのだった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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