86、できること
スイとマジョ、二人は入った部屋ですぐに魔法を的に向かって放っていた。
「おらおら、そんなもんかー」
「いえ、まだです」
マジョに煽られるようにしてスイが行っているのは、魔法を狙った場所に飛ばすというものだ。
最初はどんな意味があるのかと疑問に思っていたスイだったが、作り出した魔法が全て狙った場所に当たっていないのを見ると、うまくいっていない。
「才能があってもなあ、使えなけりゃ、意味のねえものだぞ」
「わかってるです」
スイにだってわかっていた。
魔法が人よりもうまく扱える。
それは、才能ではあるものの使えなければ宝の持ち腐れだということを……
尊敬している姉、チカを知っているからこそ、スイは力をどうやって扱うのかが重要なことは理解しているつもりだった。
でも、実際には使えていない。
だからこそ、努力で強くなっていく姉に置いていかれていることは理解していた。
「強くなりてえってことなんだろ?」
「はいです」
「だったら、まずは魔法のコントロールだ。わかってんだろ?」
「はいです」
部屋に入り、的に対して魔法を当てる。
簡単なように思える、確かに狙ったところに当てる。
それはスイにだって容易くできる。
でも、マジョが求めているものはそれだけではない。
的には大きさとともに番号が書いてある。
スイであれば、水魔法をぶつけたときに、今は真ん中の三番。
ここに水が当たった瞬間、綺麗に円になり、ぶつからないといけないのだ。
ということはだ、やることは的の中心に確実に当て、さらには魔法の威力がどんなものになるのかを完全に計算しないといけない。
まさにできれば神業のようなものだったが、マジョは水、火、風の三種類で完璧にやってみせ、土にいたっては、魔法でここ中央都市を再現してみせた。
それを見せられては、神業ではなくできることと理解はしたが……
(簡単にはできないです)
スイはかなり苦戦していた。
当たり前だ、こんなことはこれまで一度としてやったことはなかった。
魔法を思い通りに発動させることはこれまでやってきた。
でも、確かにそれは魔法を自分の手足のように扱える程度ではない。
マジョは、そんなスイとは違い、魔法を手足のように使っている。
(く……できないです。どうすればいいです?)
やり方がわからない。
最初からの会話を思い出す、魔法を使えるようになれ、そう言ってからこの修行といっていいのかわからないものが始まった。
(魔法が使えていないと言いたいってことです)
マジョがスイに言いたいことはすでにわかっている。
何度でも放つが、大きかったり小さかったりする。
うまくいかないとき、スイは姉であるチカの言葉をよく思い出していた。
それはいつだったか、魔法が扱えるようになったスイに確かチカが何かを言った。
魔法が使えないからこそ、魔法のことを誰よりも勉強していたであろうチカに言われたこと。
(そうです。思い出したです)
スイはあれこれと考えるのを止めた。
「お?」
雰囲気が変わったのを見て、マジョは少し驚く声をあげる。
スイが見るのはただの的。
あれに当てることだけに意識を持つ。
魔力の制御はある程度でいい。
間違っていれば撃ちながら調整すればいい。
水の玉を的に向けて飛ばす。
この程度の魔法であれば、今のスイでも無詠唱で使える。
水の玉を目の前に作る。
大きさは的よりも少し大きいくらいだが問題ない。
その中からスイは水を抜き取るように玉を作る。
「ほお、おもしれえ」
それを見たマジョは楽しそうに笑い。
スイが作り出した魔法は、あるものからあるものを作り出すというものだった。
そして、作り出した水の玉の大きさを調整させながら的を完璧に捉えるのだった。
「お姉様のお言葉はやはり偉大です」
スイはそう言葉にした。
いつか言われた、魔法で魔法を作れれないかなという、チカの疑問のような言葉をスイは今実践することができた。
成功したスイの元へとマジョが嬉しそうに近寄る。
「やるじゃん」
「ありがとうです」
「変わったやり方だが、むしろそれは使える」
「どういうことです」
「見ろ」
マジョはそう言って水でできた人のようなものを作り出す。
そして、次には人の形は手から水を出しながら足から消えていく。
「すごいです」
「ま、あたしゃの得意分野だからな、魔法を変化させるのはなあ。だからこそ、わかるかあ?」
「何がです?」
「さっきおめえがやったことは、あたしゃできないんだ」
スイはマジョに言われて驚く。
確かにそうだ。
マジョがやったのは、魔法を作り変えることはできたが、実際には元の魔法と一体化して作り変えることしかできない。
スイのように魔法から新しい魔法を作りだすなんてことはできない。
これは、完全なスイの才能だ。
「だったら、強くなる方法がわかるだろ?」
「はいです」
マジョが言っていることでわかる。
スイが強くなる方法というのは、これだ。
魔法から魔法を作りだすというものだ。
元々、スイが得意としていた魔法も、自分がやりたいと思ったものを掛け合わせた結果、スイが自分で作ったものだ。
「スイにはできるです?」
「できるできないじゃなくて、やるんだよ」
「は、はいです」
マジョに強く言われながら、スイは新しい魔法を習得するために次の修行へと移るのだった。
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