77、眠る力
暗闇に捕らわれていた。
体は当たり前だけれど動くことはない。
そもそも石化の魔法を受ければ生きているなんてことあり得なくて、すでに死んでいるのかもしれないが……
「諦めるわけ?」
「あなたですか」
「あなた?あたしはあたし」
黒い影はいつものようにそう言う。
「それで、諦めるわけ?」
「それは、あり得ません」
「だったら、答えは決まってるはず」
答えは決まっている。
諦めるなんてことはあり得ない。
それくらいのことはチカ自身もわかっているが、こうなる前のことを考えると何かできるとはいえない。
もし石化の魔法を解けるとなれば、カイになるのだろうが、実際にできるのかどうかはわからない。
そして、同じく今のチカ自身も何ができるのかと言われてしまえば何かわからない。
「何をすればいいのですか?」
「それ?それはここ」
「え?」
黒い影が指さしたのは、胸の辺りだった。
何を言いたいのだろう。
「これがわかれば、あたしは……まあ、頑張って」
そして意味深な言葉を残して黒い影は消えていく。
残されたチカはすぐに指差してきた胸の辺りに手を置く。
手を置いたからとはいえ、何かがわかるというわけではない。
あの黒い影が自分自身の別の何かだということはわかっているからこそ、先ほどのことがヒントだということくらいはわかっているつもりだ。
「ここにあるものですか……胸?いえ、そんなことはありませんよね」
思わず自分で胸を触りながら、そんなことを考える。
実際に胸ではないはずである。
そんなバカなことを自分自身が言うはずがないだろうと思っている。
「では何が?あたしに力が宿ったときにあったのは、感情が高ぶったとき、そのことはわかっています」
では、他のことで考えられるのは感情なのだろうか?
正直わからないことが多すぎる。
実際に自分の力の使い方もわかっているようでわかっていない。
感情が高ぶることで、自分の中に秘められている力を使えるということはわかっている。
でも、それが本当にまともな力なのかと言われると、わからない。
「そもそも、あたしには力があるのですか?」
そして、そもそもの話を思い出す。
チカ自身、ここまで体を鍛えるということくらいしかしてこなかったというのに、眠っているとされる力が気づけば使えるようになっていた。
現在使うことができる黒い魔力だと思われるものは怒りなどの感情によって扱うことができてはいる。
あれが本当に正しい力なのかわからない。
「あたしには力がない。そう言われていましたよね。魔力もなく、家も継ぐということもできませんでした。それでも、冒険者になると決めてから走り始めて、仲間ができました」
キキル、カイ、スイ、マモル。
アイ、ギルドマスターなどなどのことを思い出す。
一人でどこまでいけるのか?
そんなことを考えていたはずなのに、最初からいろんな人の助けというものがあった。
「最初はあたしの力がどこまで通用するのかが気になって、この鍛えた体だけを頼りにやっていこうと思っていました。でも、今は違いますよね」
チカはそう言葉にして胸の辺りに手を置く。
「力がなくたって、どうなったって、みんなの隣に立ちたい。そして、あたしはみんなの役に立ちたい……」
そう、チカは考えていた。
もし、みんなと一緒にいるためには役に立たないといけないと、でも……
「そう、考えていました。でも、あたしにはその力がないです。わかっています。その力を望むということは、あの時のように怒りで力を手に入れてしまうということ。ですので、あたしに必要なものはそうではないはずです」
最初にチカが何かの力に目覚めたとき、その力というものは黒いものではなかった。
では、何故黒くなってしまったのか?
それは、他人というものに対して自分の力を使おうと考えてしまったからだ。
だが、チカにはそんなことはわからない。
とはいえ、心の中での答えというものは決まっていた。
これまで黒い何かが体に宿ったとき、主に誰かを助けるために自分に力があればと願った。
今は違う。
「あたしは、あたしの意志でやりたいことをやります。あたしはこの拳で鍛えた体でそれができるはずです。できない?前までは確かにそう考えていました。でも、あたしならできるはずです。これまでがそうでしたから……」
病弱で少し動けばすぐ休むことになってしまうだろう。
魔力がないから、魔物も倒せないだろう。
そんな全てを、チカは自分の力で乗り越えてきたのだから……
「あたしはあたしの我儘を通すために、この体を鍛えたのですから!」
そう言葉にした途端、チカの体には金色の魔力が宿っていたのだった。
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