75、石化と土の暴力
チカたちが迷宮に入っている場所。
それは確かに入り口ではあったが、その迷宮主の遊び心であった。
というのも、本来であれば迷宮の近くに迷宮は存在しないからだ。
今回のように迷宮へと飛ばせるギミックのようなものがあればまた、別ではあるが、そうでなかった場合。
それなりの距離をとっている。
これは、お互いの魔力が干渉しないようにと考えられたものだ。
よって、距離は離れているのだが、それを遊び心といえばいいのか、それによって迷宮主が作り出したもの。
というのが今回チカたちが使ったものだ。
そして、普通の道筋で迷宮へと向かっていたものたちもいた。
「ちっ……動きだした」
「遅かったってこと?」
「いや、まだ間に合う可能性はある。急ぐぞ」
「えー、しんどいのは嫌なんだけど」
女はそう言うが、先行し始めた男を見て、さすがについて行かないわけにはいかない。
お節介。
目的を知っているものがいれば、確かにそう言うだろう。
そして、急ぐ男女の後ろに、もう一つ人の影があったが、距離が離れており、誰も気にすることはなかった。
※
戦いが始まる。
今回は何か石や砂でできた動物の見た目をした人造物だ。
スフィンクス。
そんな名前で全盛期は呼ばれていた。
「まずは俺が先行する」
「いえ、スイが魔法を先に放つです」
我先にと、スイが魔力をためると魔法を放つ。
「水魔法“ウォーターブレイド“」
水でできた剣は、スフィンクスへと向けて飛んでいく。
ザシュ。
そんな音が鳴り、スフィンクスは二つに切り裂かれる。
「スイ、すごいじゃない」
「スイ、すごい」
「ありがとうございますです、お姉様」
「ちょっと、うちだってちゃんと褒めたんだけど……」
「まあ、ありがとうです」
「この……」
「あはは……」
違うすぎる対応にチカは思わず笑ってしまう。
誰もが二つになったスフィンクスを見て倒せたと考えただろう。
でも、実際には違っている。
スフィンクスは、二つになった体をすぐに元通りにする。
「元に戻ったみたいなんだけど」
「本当ですね」
「なんです?こういうこともあるです」
スイはそう言ってそっぽを向く。
スフィンクスは元通りだ。
そして、スフィンクスはお返しとばかりに目から何かを発射する。
「何よ、あれ!」
「さすがの俺もあれは避けるぞ」
発射された何かというのは、石や砂に変える。
石化の魔法と呼ばれるそれは、土魔法の中でも最強とされるようなものだが、人造物であればそんな魔法すらも簡単に扱える。
それがわかるように、スフィンクスはさらに石化の魔法を放ってくる。
「連発!」
「あぶね」
「スイ!カイ!」
「任せろ!」
「やるじゃないかです」
石化の魔法は、当たり前だが全員へと向けて放たれており、一部のものがスイたちのほうへと向けられるが、それはカイの魔法によって防ぐことができる。
というのも、石化の魔法は名前の通りものを石化させるものだ。
魔法が当たれば、なんでも石化をさせてしまうものだ。
それは、生物であっても、ものであっても、そして魔法であっても例外ではない。
盾を作りだす魔法で、カイたちは身を守ったが、その魔法が石化してしまったのだ。
「すごいことになったな」
「です。でも、簡単に防げたです」
「だな」
何かに当たれば石化する。
絶対に防げない攻撃であるはずだが、絶対に防げる攻撃でもある。
何を言っているのかはわからないが、人にさえ当たらなければいいということだ。
人造物であるスフィンクスもそれがわかっているのか、避けられるのを見ると、石化の攻撃をやめる。
そして、スフィンクスはその体を変化させる。
先ほどまで動物かのように四本で地についていたのに、今は二本の足で立っている。
砂でできた体だからこそ、体系を変化させることができたということなのだろう。
「立った!」
「嫌な予感がします」
「来るぞ!」
前衛のチカ、キキル、マモルの三人はすぐに構えをとる。
後ろの二人は、先ほどの石化の魔法のせいで視界が遮られているせいで、前は見えない。
それはスフィンクスも同じではあるが、だからこそ前にいる三人に狙いを定めると、前足だった手を砂のように発射する。
「くそ!」
「チカ!」
「あたしは大丈夫です」
キキルはすぐに盾を構えたマモルの後ろに隠れるが、チカは避けるように動きまわる。
さすがというべきか、チカは完全に避けている。
そして、マモルもその盾で防ぐのだが、チカはすぐに焦りを感じて距離を取りながら避けることになる。
マモルも、盾を構えていても一歩も動けなくなってしまう。
それは、発射されている砂によるものだ。
砂は地面にたまると、足場はそれだけで動きにくくなる。
盾の前にも同じように砂はたまっていく。
砂は、重く、重く盾にのしかかっていく。
「やべえ、めちゃくちゃ重い」
「もうちょっと耐えなさいよ!」
「無茶いうな。こういう範囲系の攻撃でさらに何かが残るなんて思わないだろ!」
「じゃあどうすんのよ」
「なんとか下がるしかないだろ!」
「でも、止まんないじゃん!」
二人はそんな会話を繰り広げる。
さすがに砂という物理的なものでは対処も難しい。
チカはなんとか下がりきると、石化の魔法でできた壁の後ろから出られない二人のうち救うためにも鍵になるスイに声をかける。
「スイ!」
「お姉様、大丈夫です?」
「あたしは大丈夫。だけど、二人が……それに、このままだとあたしも近づくことができなくて」
「お姉様は、スイにあれを流してというです?」
「お願いできる?」
「当たり前です。スイは、お姉様の頼みであればできないことはないです」
「僕は何をすればいい?」
「カイ君には、あのときのように壁を空中に作れますか?」
「作れる」
「では、あのときと同じようにお願いします」
その言葉の後に、チカは走り出す。
石化の魔法の壁から出たことで、チカもまた砂に狙われるが、チカは飛びあがった。
どう考えても着地のタイミングで狙われるような、大胆な動きだ。
そして、人造物であるスフィンクスはそれを見逃すことはない。
砂は着地のチカに当たるはずだったが、チカは、空中に着地をした。
いつからか、体に魔力を取り込むようになったことで、魔力でできた壁をなんとなくわかるようになったチカは、作り出された壁をジャンプしていく。
「すげ……」
「関心してる暇ないんじゃないの」
「うっせ、わかってるっての」
トリッキーな動きでスフィンクスを翻弄するチカに、狙いを定めたのかスフィンクスは攻撃を繰り返す。
でも、先ほどからの攻撃からわかるように、チカは攻撃に当たることはない。
そのタイミングでスイの魔力が膨れ上がる。
魔力を感じたほうに今度は攻撃をする。
だが、そこではすでに盾を構えたマモルがいる。
攻撃は盾に防がれる。
「水魔法”ウォーターウェーブ”」
そして、魔法が唱えられる。
まるで津波のように水が押し寄せると、それは周りに落ちていた砂を流していく。
これで砂を流すことができれば、足場は元通りになる。
そこからは空中と地面の両方から攻めれば攻撃はできる。
誰もがそう考えていた。
でも、空中にいたチカにだけは見えていた。
石化の魔法が発動したのを……
水の津波に攻撃をされるわけにはいかない。
そう考えたチカは動いていた。
魔法に向けて、体を投げだしたのだった。
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