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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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72/122

72、二つの人格と

 いい匂いがした。

 眠っている間にそんな匂いがするなんてことは生まれて一度もなかったはずだ。

 だからこそ、彼女は起きた後すぐに警戒心とともに、弓矢を構えて反射的に匂いがするほうに向かって放った。

 だけど、魔力が暴走している影響からか、彼女が放った矢は当たらない。

 バキッと音が鳴ってそれた矢は壁にぶつかる。

 だがチカがそれを気にした様子はない。


「起きましたか?」


 チカは優しく彼女に声をかける。

 その態度に彼女はかなり驚いた。

(え?さっきの矢は見ていなかった?)

 思わずそう思ってしまう。


「すみません、急に知らない人が家にいれば驚きますよね」

「それは違くて……」


 どうして優しくするのか?

 そう言葉にしそうになったが、それよりも先にチカが動くとご飯を差し出した。

 チカ自身が少し食事をできる程度のものしか持っていなかったということもあり、豪華ではない。

 それを前にして彼女は動きを止める。


「苦手なものなどが入っていましたか?」


 動きが止まった彼女にチカは不安そうに口にする。

 だが、実際にはそうでなかった。

 急な出来事に驚いていたのだ。

 そもそも、こんなに優しくされるいわれなどないのだから……


「あ、毒とかは入ってないよ、ほら」


 もしかしてと考えたチカは、味見をする。

 即席のものをアレンジしたこともあって味に関しては全く問題はない。

 チカはそれを確かめてから彼女に渡すのだが、彼女の反応はさらに恐る恐る受け取るだけだった。

 彼女自身戸惑っていた。

(気づいているはず、どうして?)


「あの、あなたは……」

「あたし……あたしはチカっていいます」

「チカさん。えっと……」

「無理に言わなくていいですよ」

「違くて、名前……ない」

「どういうことですか?」

「私たちに名前はない」


 彼女はそう答える。

 チカ自身、何を言っているのかを理解できなかった。

 だって生まれれば、そのときには名前を両親から授かるはずだからだ。


「何故、名前がないのか聞いていいですか?」

「……」


 チカがそう質問するが彼女は無言のまま首を横に振るだけだった。

 それはそうですよね。仲良くもない相手に人の事情を話すことはできませんよね。

 納得したチカは、そう考えて何も言わないでいた。

 ゆっくりと彼女が食事を終えるとチカは少し気まずそうに言う。


「ごめんなさい。今日はこのままここに泊まってもいいですか?」

「……うん」

「ありがとうございます」


 そう、彼女が落ち着くのを待っていた間に、周りは暗くなっていた。

 さすがにこの時間から土地勘が全くない場所を歩くのはどうかと考えたからだ。

 そもそもの話、チカは迷ってここにやってきたのだから今は帰りたくないというのが正直な感想ではあったが……


 その後は、話をするまでもなく、彼女は少し警戒もしていたが、力を使ったせいなのか少しすれば眠ってしまった。

 チカはそんな彼女の頭を再度ゆっくりと撫でる。


「あちらは大丈夫ですかね?」


 そんな中でも、チカはキキルたちのことを考える。

 散歩していたら、まさかこんなことになるなんて、とは思いはしたが、ある意味よかったのかもしれない。

 そう考えていたとき、撫でていた手が弾かれる。


「え?」

「気安く触るな」


 先ほどの彼女と人が変わったような口調と態度にチカは驚く。


「えっと……」

「聞こえなかったか?自分に触れるな!」

「!」

「何を驚いている?触るなって言ってるだけだろ?」


 そう言葉にするのは、眠る前までの彼女とは全く違う存在だった。

 雰囲気から何もかもが、違っている。

 まるで二人いるみたいだった。


「ちっ、何を安心して寝てやがるんだ」


 そして彼女は、すぐにそんなことを言って自分の顔をつねる。

 どうして自分のことを傷つけているのだろう。

 普通はそう考えるが、チカはその手を握って止めてしまう。


「何をやってるんだよ」

「自分のことを傷つけるのはいいとは思いません」

「何を言ってるんだ?いつもはな、こっちが迷惑をかけられてるんだからな。少しくらいやってもいいだろう?」

「それでもですよ」

「あー?自分のことを自分で傷つけて、何が悪いんだよ!」

「ダメ。絶対にダメ」


 チカはそう言って止める。

 実際にチカは彼女が妹であるスイとダブってみえてしまったからこそ、止めたくなった。

 確かに自分勝手なことなのかもしれない。


「自分勝手でも、あたしは簡単に自分を傷つける人は絶対に許すことはできません」

「どうしてだ?ただの他人だろ?それに、傷がつくのはそっちじゃないんだぞ?」

「はい。そうであっても、あたしは止めることにしていますから」

「は!なんだそれは、傲慢だな」

「はい。傲慢ですよ、あたしは!」

「くははは!面白いな、あんた!」


 言いたいことを言ったことで面白かったのか、彼女は笑いだす。

 本当に楽しそうで、目には涙が浮かぶほどだった。


「楽しいなあ!いい気分だ」


 そういうと、腕の力が抜けるのがわかる。

 チカも握っていた手を取ると、本当に楽しそうにチカに笑いかける。


「なあ、自分がどうしてこうなのかを、聞きたいか?」

「それは、話しても大丈夫なことですか?」

「ああ、大丈夫だ。自分たちは二人で一つ。今のところはな」


 何か意味深な言葉を口にするが、すぐに彼女は話を開始するのだった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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