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7、迷宮

 迷宮。

 何もないと、ギルドマスターたちが言っていた通り、魔物なども出ることがない不思議な場所だった。

 それでも、ギルドマスターが言っていた言葉については、お互いに考えていた。


「チカ、どう思う?」

「そうですね。どういうものなのかはわかりませんが、ギルドマスターの話が本当であるのであれば、何かがあるということですね」

「うんうん、まあ、うちとチカの最強コンビなら、何があっても大丈夫だよ!」

「そうだといいのですが……」


 元気よく言うキキルを信用していないわけではなかったが、チカは、うまくいくのかどうか、不安だった。

 これまでがうまくいきすぎていたから、というのが一番の理由ではあったが、迷宮で起こると言われていることがうまく表現できないけれど、不安だったからだ。


 迷宮は一本道で何もない。

 ただ、チカたちが見てきたこれまでの世界とは異なる力で作られたというのが、よくわかるもので、見たこともないような素材で壁や通路はできている。


「このような場所が、どうして作られたのか、考えさせられますね」

「そうかなー、うちには特に気にすることじゃないと思うけど」


 キキルはそう言葉にしながらも、つまらなそうに歩いている。

 何もでてこないとなれば、キキルのように緊張しないというのは、理解できた。

 だけれど、実際にそうなのだろうか?

 話を聞いていたチカは、なんとなく予感していた。

 よくないことが起こるのではないかという予感を……


 そうこうしているうちに二人は、最深部についた。

 本当にここまで何もなく、キキルは完全に油断していた。

 最深部にだけは、これまでなかった扉があった。

 ただの部屋があるだけだと思っていたため、封印されるように閉まっていた扉があると、チカは何かがあるのではないのかと考えていた。

 だからこそ、キキルに声を掛けようとしたのだが、それは遅かった。

 キキルは勢いよく、扉を開いた。


 扉が開いた瞬間に予感というのが正しいことに気が付いた。

 何かがいる。

 チカは気づいたときには、前に走っていた。

 キキルを突き飛ばすように押しながらも、チカは両手で防御の姿勢をとったのと、激痛が走るのは同じタイミングだった。


「う、くうううう……」

「チカ!」

「だ、大丈夫です」


 チカはなんとかそう言葉を返すが、実際のところでいえば、そんなに大丈夫ではなかった。

 防御した両手からは血が流れている。


「でも、血が……」

「はい。そんなことよりも……」

「なんなの、あれ……」


 キキルもチカの声によって、奥を見る。

 そこにいたのは、赤く染まったスライムだった。


「何、あのスライム!」

「キキルも見たことありませんか?」

「当たり前だよ。そもそも、スライムの攻撃が体を貫くなんて……」


 あり得ないことだと、キキルは考えていた。

 もともとスライムというのは、周りの水が魔を取り込むことによってその形になる。

 もともとが水ということもあり、攻撃も強いものではなく。

 スライムの攻撃というのは、その体の水をうまく操って相手を抑え込んで、取り込んで窒息させてしまうというものだった。

 だからこそ、ただのスライムの攻撃では傷がつくなんてことはほぼあり得ないはずだった。

 そのはずなのに、赤いスライムの攻撃は、チカの体を傷つけるほどの威力がちゃんとあった。


「どういうこと?」

「わかりませんが、戦うしかありません」

「え、でも怪我が……」

「確かにあたしは怪我をしましたが、キキルもわからない魔物をここで野放しにできません」

「で、でも……」


 キキルは自分の不注意のせいでチカが傷ついたということをわかっている。

 確かに油断はしていた。

 それでも、普通であれば気配を感じるはずだった。

 それだけの戦いというのをこれまでやってきたはずだった。

 なのに、結果として横にいるチカに助けられていた。

 これにキキルは驚いていた。


(どうしてチカはさっきの攻撃でうちを庇ったわけ?うちはそんなことしたことないのに……)


 実際にキキルはそう思っていた。

 キキル自身、チカが魔力がほとんどないということはわかっていたことであり、無意識に守るべき存在だと考えていた。

 そんなチカに庇われて、さらには負傷したことを考えても、キキルは動揺していた。

 チカはなんとなく、それがわかっていた。


「キキル」

「な、なに?」

「これが試練だと思います」

「それはわかってる」

「だったら、倒しましょう。大丈夫です、あたしのことは……」


 チカはそう言葉にすると、服を腕に巻いて止血する。

 防御をしたおかげで致命傷(ちめいしょう)ではない。

 痛みのせいで他の感覚は少し感じないが、拳を握ることで力が入ることをすでに確認していた。

 だけど、キキルはまだ迷っているのか、剣を構えてはいるがぎこちない。


 それを見透かすかのように、赤いスライムはキキルに向かって触手を飛ばしてくる。

 防ぐためにキキルは剣を構えようとしているが、どこかおぼつかない。

 ここは自分で少しでも時間を稼ぐなりをするしかない。

 そう考えたチカは、向かってくる触手に対して避けるよりも防ぐことを考えた。


 いつもの魔物とは違う攻撃で、これまでのように筋肉によってある程度をカバーできたのとは違い、難しいかもしれない。

 でも、チカ自身ここまでの戦いに関してはキキルに助けてもらってばかりだった。

 だったら、やるしかないということは自分でわかっていた。


 チカは、これまで一番近くでキキルの戦いを見てきた。

 魔物との戦いで多くのことを学んできたからこそ、できるはずだった。

 キキルの前に飛び出すと、両手を握る。


「チ、チカ?」


 キキルの剣捌(けんさば)きを思い出す。

 再現することはできなかったとしても、攻撃をいなすことくらいは可能なはずだ。

 キキルはいつものように剣に魔力を帯びさせているからこそ、できる。

 触手に剣先を当てる。

 キンという音が鳴り、触手を弾いたとはいえ、このままでは再度攻撃を仕掛けてくることはわかっていた。


 攻撃される前に動く。

 チカはそう考えると、キキルの手を離し、赤いスライムに向かっていく。

 正面から向かっていくことによって、赤いスライムの攻撃もチカを狙ってくると考えたからだ。


 案の定スライムはチカに向かって攻撃をしかけてくる。

 避ければ後ろにいるキキルに当たる。

 そのことがわかっていたチカは、向かってくる触手を腕ではじいていく。

 だが、魔力がないチカの腕は攻撃を完全に防ぐことができるわけもなく傷ついていく。


 大丈夫、届く!

 チカは距離を見て確信していた。

 確かに傷ついた腕は痛い。

 でも、この握りしめた拳は、この歩みが止まる前に相手に届く。


 そして、一歩全力で踏み込めばスライムに攻撃が届くタイミングだった。

 嫌な予感というのが、全身に走る。

 その嫌な予感というの払拭するべく、踏み込むのを一度やめ、その勢いでチカは近くにあった石を赤いスライムに蹴り飛ばす。


「やっぱりですか……」


 嫌な予感の通り、赤いスライムは全身から触手を棘のように出しており、それによって、チカが蹴り飛ばした石は貫かれている。

 あんな攻撃に巻き込まれてしまうようなことがあれば、致命傷を負っていたことは間違いなかった。

 遠くを攻撃するときには、触手のように伸ばして攻撃をしていたことから、そのスピードはしっかりと対処ができるものだった。

 だが近くの攻撃といえば、今のようにほとんどノータイムで行ってくることから、完全防御のように感じる。

 どっちにしても、チカは考えてしまう。


 自分だけでは無理だと……

 といっても、仕方ない。

 魔力がないのだから……

 もし、魔力があればあんな攻撃事全てを破壊することも可能だということをわかっていたからだ。

 そんなときだった。


「チカ……もう、大丈夫」

「本当ですか?」

「うん!」

「では、力を貸してください。あたし一人ではどうやら難しいようなので」

「わかってる」


 チカとキキルはお互いに頷きあうとスライムに向かっていくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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