64、やる気の出させ方
馬車で街の中を駆け抜ける。
それだけでも注目をされるが、馬車を操縦しているのが冒険者だとわかると、さらに注目を浴びていた。
これまでいた街では、チカがすぐに冒険者ランクを上げたことによって、普通であれば冒険者が持っているはずがない馬車だって、特権によって使うことのほうが多かった。
それに馬車を操縦しているのが、明らかに若い男となれば、注目を浴びるのも仕方ないことだった。
「あっちね」
「わかりました」
街を知っているキキルに言われて、カイは馬車を走らせる。
そして、そのまま冒険者ギルドの前にたどり着いた五人は、馬車から降りると中に入った。
「だから、必要な……」
何かの話をしていたのだろう、ギルドの中央では眼鏡と呼ばれるものをつけた女性が大きな斧のようなものを持っている。
それも先頭に立っていることを考えれば、ここの冒険者ギルドのマスターということになるだろう。
だが、ここにいる人たちというのもこんなタイミングで急に入ってきた若すぎる冒険者たちに注目をしていた。
「おい、このタイミングでここに入ってくるとは何の用だ?」
「魔物たちの討伐をうちらも手伝おうと思ってきただけなんだけど」
「なに?子供たちの戯言を聞いている暇はないのはわかっているだろ?」
「子供の戯言って、あんたねえ……」
事情を説明しようとしたキキルだったが、返答はキキルたちをバカにしたようなものだった。
何かを言ったところで、チカたちは確かに若く、装備も盾だったり、何も持っていないものたちが三人もいたりと、実力がわからないのは確かだろう。
こういうときに必要なことといえば、そう考えたときにチカが思いついたのは、ギルドのランクがわかるものだ。
あれを見せれば、チカたちが普通ではなく試練をクリアしたものだということがわかるはずだからだ。
「あたしたちはランク九です。これで、強いことの証明になりませんか?」
冒険者であれば、憧れるとされるランクが上がったことが書かれている冒険者証というものは、中央都市でさえ、見せればざわつくようなものだ。
だというのに、この場では見せたところで何もざわつくことはなかった。
おかしいと、チカか考えていると女性が笑う。
「あひゃひゃひゃ!なんてものを出してるんだよ。そんなものを見せられたところで、何の意味もないよ」
「どういう意味ですか?」
「決まっているだろう?見せてやりな!」
女性がそう言葉にすると、周りの冒険者たちが一斉に冒険者証を掲げるのだが、そこに書かれていたのは全てランクが九以上というものだった。
それを見れば、なんとなく何をしたのかわかってしまう。
「ここにいる人たちは、迷宮のことを知っているのですか?」
「何?未だに、あんなに古い考えにこだわっているわけ?」
「でも、あれを知らないのは……」
「そんな決まりなんかを今の価値観にアップデートできないから、冒険者が増えないんじゃないですかあ?」
冒険者としてのことを言ったというのに、女性はそんなチカをバカにしたように言った。
そのタイミングで、チカは反射的に手を真横にやる。
姉のことをバカにされたということは、スイが黙っていないからだ。
だが、このタイミングでスイが魔法を使ったりしてしまうことになれば、この状況というものが、余計に面倒くさいことになるのは誰の目にも明らかだった。
そこを考えても、チカは止めるしかなかった。
とはいえ、今のままでは協力して魔物たちからこの街を守るということはできないだろう。
そこで思い出すのは、この世界の人たちが絶滅してしまうというところだ。
確かに、冒険者の人数が多いことはいいことだろう。
だが、その冒険者たちが使えないことには、意味がない。
今回でいえば、そのケースが当てはまる可能性が高い。
人が多く死ぬ。
そんなことになってほしくはない。
だからといって、チカたちができることも多くはない。
「仕方ありません。キキル」
「なに?」
「もう、あたしたちでやるしかありません」
「それもそうね。見た目で判断するようなやつらだもんね」
「はい。その通りです」
まるで煽るような言葉ではあったが、実際に思っていたことだ。
チカたちは、これまでの戦いによって強さというものを手に入れたからだ。
足手まといになるであろう人がいないほうがいいからだ。
でも、うまくはいかない。
「ちょっと待ちなさい!」
女性がそう言って引き留めてきたからだ。
「どうしてですか?」
「何をこっちを無視しようとしてるわけ!」
「使えない相手を切り捨てるのは、生きる上で重要なことだと、冒険者になるときに教わりましたから……」
「はあ?」
完全にバカにしたかのような言葉に、女性はさらに怒りを向ける。
「何を小娘の分際で!」
だが、チカは無視を決め込むと、冒険者ギルドから出るのだった。
「ねえ、チカ……」
「なんですか?」
「よかったの?」
「よかったですよ?」
キキルが何を言いたいのかを理解できなかったチカは不思議そうにそう返す。
チカ自身、魔力の発動には怒りなどの感情の高ぶりによって、狂化されるということを身をもって知っていたため、もし戦うのであれば、不安などではなくそういうもののエネルギーを力に変えてほしいと考えてのものだったが、これまでうまくそういうことをしたことがない以上、先ほどのことでうまくできたと考えてしまうのは仕方ないことだった。
とはいえ、他の人からすれば、普段のチカを知っているのだ。
ああやって人のことをバカにするようなことなど一度もなかったからこそ、全員が驚いていたのはいうまでもなかったが……
チカたちが出て行った後には、冒険者ギルドの中から大きな怒号のような号令が聞こえてきたため、結果よかったのかもしれない。
「行きますよ」
「あ、うん……」
思わず誰もがチカにただついて行くのだった。
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