60、隣り合う
チカとキキルの戦いは、互いの技の激しさよりも感情の動きがより激しいものとなっていた。
キキルは自分が弱いことの怒りなどが体の動きをどうしても鈍くさせている。
そして、チカはというと戦っていくうちに自分の中で膨らんでいく力と感情をなんとかコントロールするのが難しかった。
怒りという感情が、自分の中にある魔力を高めるトリガーだということに気付くことができたが、自覚したことによって、体の中には魔力が気づけば溢れるようになってしまった。
それは、言ってしまえば気づかないうちに、前のように感情に飲み込まれてしまう可能性があるということだ。
「何?手加減してるの?」
「そいうわけではありません。あたしにだって、キキルとはちがいますが、力の使い方に悩んでいることはありますから」
「なんで、そんなことを言うわけ?」
「それはだって、キキルの剣は鈍っていますから……」
チカに言われて、キキルは攻撃を止めてしまう。
「そんなこと、うちが一番よくわかってるって!」
「では、キキル……攻撃をしてきてください」
「うっさいわね。わかったわよ!」
キキルはそう叫ぶように言ってから、剣を振る。
先ほどよりも剣の速度が速い。
剣を振っているうちに、キキルは少しずつラスと少しだけではあったが、剣の修行をしたことが体に出始める。
型が自然と体を動かしていく。
それはチカも同じだった。
体を動かせば動かすほど、戦い以外のことを考えている余裕がなくなっていき鋭さが増していく。
二人の攻撃は気づけば激しさが増していた。
そんなタイミングで、カイたちが目を覚ましたのだが、チカとキキルの戦いというのは止まることはなく、口を挟むことも難しい。
「チカ、ちょっと動く鈍くなってない?」
「そんなことはないです。キキルの動きが少しだけ速くなっただけではないですか?」
「ふーん、言ってくれるじゃん」
だんだんと調子を上げてきたキキルは、その言葉遣いも前に戻っている。
いや、全て前よりもよくなっている。
「キキル。あたしだってまだ本気は出していません」
「はあ?」
チカはこれまでの魔力によって、無理やりに強化された体が持つ力を使っていく。
「速すぎ……」
「そうですか?」
「魔力も感じないのに、どうやってんだか」
「わかりませんが、体は動きますから」
人の限界を超えるような動きで移動していれば、キキルもそう言葉にするのも無理はない。
だが、チカだってこの動きがずっとできるわけでもない。
「はあはあ……」
「息上がってるわね、ふう、ふう……」
「キキルこそ、息上がってないですか?」
「そんなことない」
そうして、二人は戦っているうちにだんだんと息が上がっていた。
チカが限界を出すのと、その動きに対応するために、キキルもさらに体に魔力を流すようにしていたのだが、チカは先ほどの戦いのせいもあって疲れているのに対して、キキルはまだ慣れていない体の動きによって疲れてしまっているのだ。
だが、二人は軽口をたたきあっているのは強がりからか……
「ねえ、チカ」
「なんですか?」
「どうしてこれだけ強くなったわけ?」
「チカに負けて置いていかれたからです。それに、あたしは強くなったわけではありません。なぜか体がうまく使えるようになっただけです」
「そんなこと……」
ないだろとキキルは言いたかったが、チカがそんな嘘を口にしているはずがないことはわかっている。
ということは、本当にチカは気づかないうちに強くなっていたのだと……
そうなると、キキルには思うこともあった。
「どうして、それだけうちに執着するわけ?」
「初めて、あたしのことを必要としてくれたからです」
チカは、そう言葉にする。
これは本音だった。
確かにスイなどといった、チカのことを慕ってくれるような人はいたけれど、対等に話をできるような相手というのは、これまでチカの周りにいなかった。
だからこそ、対等よりもむしろ引っ張ってもらったような存在である、キキルに追いつこうと考えるのは自然なことだったのだ。
「そんなことって、うちが言っちゃうのは失礼だよね」
「いいえ、ですが……」
「わかってるって、この一撃で終わり!」
「はい」
そして二人は互いに再度構えをとる。
「行きます」
「うちだって!」
「はあああああ」「やあああああ」
二人の声と剣と拳が交錯する前にとまる。
そして、お互いに口元が笑ってしまうと、二人ともが後ろにゆっくりと倒れるのだったが、その時に大きな音がどこからか響いたのだった。
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