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6、冒険者ランクを上げるために

 チカとキキルは数日すれば、少し話題の新人冒険者となってた。

 理由については単純で、新人ではあったが、多くの依頼をこなしているからだった。


「注目されてるね」

「はい。ですがこれも、キキルのおかげですね」

「ええー、そんなことないよ。謙遜(けんそん)しないでいいよー」

「謙遜ではないのですが……」


 チカはそう言葉にしつつ、これまでの依頼について思い出していた。


 少し前までこなしていた依頼は全て二人で行ったが、そんな中でもキキルはすごかった。

 チカよりも多く、さらには確実に依頼の魔物を倒していた。

 チカが活躍したものでいえば、素材の回収などについての知識のみだった。

 依頼に行く前に確認を取って、それを実践するくらいのことでしか、あまり役に立てていなかった。


 だというのに、キキルはチカに対して、何故かよく懐いてくれている。

 こういうところは、実家にいたときの下の妹に似ているように思ってしまう。

 才能がある相手から、どうしてあ自分が選ばれているのか、チカ自身もわかっていない。

 何度かキキルには、他の冒険者から勧誘もあったようだけれど、そのたびにちょっと行ってくるとチカに声をかけて、何かをしてはダメだったと言って仲間が増えることはなかった。


「今更なのですが、いつも他の冒険者と何をしているのでしょうか?」

「うーん、気になる?」

「少し……」

「だったら、次は機会があれば、見せてあげるね」


 キキルは嬉しそうにそう答えたけれど、チカ自身、タイミングよくそんなことが起こるわけがないこともわかっていた。

 チカはそう思いながら、キキルが言う次というものに期待しつつも、ある人が来るのを待っていた。


「ごめんなさい、待たせて」


 すると、そんな言葉とともに、長い髪をなびかせながらも慌てた様子で女性がこちらに向かってくる。

 それに気づいたキキルがすぐに声を張り上げる。


「遅いよー」

「いえ、そこまで待っていませんよ」


 走ってきてくれたことを考えて、チカはそう答えたのだが、キキルはそれが気に食わなかったようで、チカの顔を不思議そうに見るとこういうときの対処ほうを教える。


「チカ?」

「なんでしょうか?」

「こういうときは、待ってたって言って、何かせがまないと」

「そういうものなのでしょうか?」


 キキルにそう言われると、思わず納得してしまう。

 それは、ここまで一緒にやってきた信頼関係からくるものだった。


「こーら、チカさんは純粋なんだから、余計なことを教えないの!」


 いらないことを言うなと、キキルは注意を受けるが、それでも止まらないのが彼女だ。

 さらに口をとがらせながら、不満を口にする。


「えー、いいじゃんね」

「は、はい。勉強になります」

「ほらー」


 キキルにそう言われて、困ったように笑う彼女は、冒険者ギルドの受付嬢である、サネさんだ。

 チカたちが冒険者として初めてやっていくときから、ずっと担当してくれている。

 ギルド内ではチカは魔力が少ないこともあり、他の人からの視線は歓迎されないものもあり、さらには陰口のようなものもあったが、彼女とギルドマスターだけは違っており、陰口を言われることも嫌な顔をされるということもない。


 ギルドに来たというもそんなサネさんの呼び出しを受けていたからだった。

 内容としては、次々に依頼をこなしていくチカたちに次のステップへ向かうために必要なことを教えるという話だった。

 どうやら、その準備ができたようで、それを楽しみにしていたチカたちはギルドの後ろへと通される。

 奥にあるのはギルドマスターがいつもいる部屋で、中ではいつものようにギルドマスターが座っていた。


「おう、来たか」

「来たかじゃないよ。待たせすぎだからね」

「それについては謝っておく。すまない」


 素直にギルドマスターは頭を下げる。

 チカはそれを慌てて止める。


「あの、謝らなくても、忙しいことは知っていますから……」

「ダメだよ、チカ。ちゃんと謝らせておかないと、簡単に許しちゃうと、後でお願いできないよ」


 先ほどと同じように、キキルは文句を口にする。

 それに対してギルドマスターは、やれやれと思いながら言う。


「おいおい、こっちにだって事情があるんだぞ、キキル。チカを見習ってくれよ。偉いよな、そういうことも含めてわかってくれているんだからな」

「ちょっと、そういう言い方だとうちが何もわかっていないバカみたいじゃないの!」


 キキルが少し不機嫌に言葉を口にしたが、それについて誰も何も言わない。


「ちょっと、なんで誰も何も言わないのよ!」


 そう言葉にしてさらに怒るキキルだったが、その怒りをぶつけたところで話が前に進まないということもわかっている。

 キキルはむすっと椅子に深く座りなおす。

 なんとか、ギルドマスターの話を聞くことができるようになったところで、改めてギルドマスターは話を始める。


「じゃあ、話をするぞ」

「本当に、ここにいる全員嫌い」

「おいおい、そんなことを言うなよ」


 キキルはまだ根に持っているようで、そんなことを口にする。

 やれやれと頭を抱えるギルドマスターを見て、チカは考える。

 このタイミングでキキルの機嫌をとる方法はないだろうかと……

 そこで、一つ思いついたことがあった。


「キキル。その、今度お菓子を作りますから」


 チカがそう言葉にすると、途端にキキルは眼を輝かせる。


「え?いいの!」

「はい。もちろんです」

「いやったー!」


 喜んで、ソファの上で拳を上げるキキルを見て、ギルドマスターは小声でチカに話しかける。


「本当に、扱いがうまいな」

「そうでしょうか?」

「おう、じゃあ、話を進めてもいいか?」

「いいよ、今ならどんな依頼でもこなせる気がするもん」

「それならよかったな。ま、お前らにはいい話だと思うからな」


 ギルドマスターはそう言葉にすると、早速依頼書を机の上に置く。

 置かれた書類に書かれていた内容をチカたちは簡単に目を通していく。

 そこに書かれていたのは、冒険者ランクのアップについてだった。


 冒険者ランクについては、ギルドによって格付けされているというのは聞いていた。

 ランクは一から十の数字によってわけられており、一番上。

 トップと呼ばれる一に上がるために冒険者は依頼をこなしている。

 そして今日はその九へと上がるために必要なことを知ることになった。


「前に話してたと思うが、お前たちのランクを上げるための試練が用意できた」

「試練ですか?」

「そうだ。これまでの依頼のように誰かのものではなく、ギルドからの依頼をこなしてもらうことになる」

「ギルドからの依頼ですか?」


 どういう意味かわかっておらず、聞き返す。


「そうだ。迷宮は知っているか?」

「はい。少しくらいでしたら」

「だったら、話は速いな。今回は、その迷宮に行ってもらう」

「迷宮へですか」

「ああ、どんな場所なのか、わかっているか?」


 ギルドマスターにそう言われたチカとキキルは顔を見合わせる。

 お互いにどんな場所なのか、わかっているのかと言われれば、正直なところ、わかっていなかったからだ。

 知っていることといえば、迷宮というものはギルドが管理しているものであり、さらにはいつできたのかというのも定かではないものだということだ。

 ギルドマスターも、二人の雰囲気で察したのだろう、話を進める。


「その様子じゃ、ほとんどわかっていないな」

「はい」

「だったら、説明をしておく。迷宮というのは、言ってしまえば、ほとんど何もない場所だ」

「何もないですか?」

「いや、正確には人によるだな」

「どういうことでしょうか?」

「冒険者が少ない理由を知っているか?」


 ギルドマスターがそう口にするが、二人はよくわからなかった。

 だって、すでにチカたちと同じように、冒険者になりたいと集まった人たちがいたことを覚えているからだった。


「その顔じゃ、あんまり冒険者ギルドの中もちゃんと見ていないな?」

「そうかもしれません」


 二人はこれまで依頼ばかりをこなし、冒険者としてランクアップを最短で目指していたこともあり、それ以外のことはあまり気にしていなかったからだ。


「だったら、教えておくけどよ。お前らみたいに、冒険者として実績をすぐに残せるやつらは珍しい。それに、冒険者としてランクを上げるのに必要なことをちゃんとわかってないやつも多いからな」

「ランクを上げるのに必要なことですか?」

「ああ、さっきも言っただろ?それが、難しいから途中で冒険者を諦めるってな」


 二人にギルドマスターはあることを語る。

 内容は二人にも予想外のことだったこともあり、聞き返す。


「選ばれなければいけないという意味でしょうか?」

「決してそういうことじゃない。だが、アイテムを取ってこられるのかというのは、運次第ということに変わりはないな」

「ま、いいじゃないの、チカ」

「キキル……」

「行ってみて、考えれば!」

「ふふ、確かにそうね」


 キキルのこういう前向きなところに、チカは思わず笑顔になる。

 二人の行先は決まった。

 迷宮への地図をもらった二人は、迷宮に向かっていくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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