59、悩みをのせて
チカは急のことで、驚いた。
それは光る少し前に、クロが叫ぶように言う。
「面倒ごとを我に押し付けるな!」
「どうかしましたか?」
「いや、大魔法使いをパシリにしやがる悪い奴がいやがるんだ。知り合いにな」
「そうなんですか?」
便利な魔法を使えると、面倒ごとを頼まれてしまう。
それは、黒髪が持つ特別な魔法のせいか……
チカにはわからなかったが、クロは頭をかくと魔法を発動する。
すると、近くに光の球体が現れた。
そして、どこからか光がやってくると光の球体へと集まっていく。
光の球体から光が消えていくタイミングで、それは人の形になった。
これが、あたしたちをいつも転移させているもの。
魔法を見て、それがどういうものなのかをすぐに理解したチカは、驚いたが、転移してきた人を見るとさらに驚いた。
「キキル!」
思わず転移させられた人の名前を叫んでしまう。
だが、言われたほうであるキキルはというと、チカのことを見ることはあったが、すぐに気まずいのか視線を逸らす。
そんなキキルの近くには、見たことがある男性が一人と、見たことがない女性が一人いた。
男性はともかくとして、女性の見た目はチカと同じように変わったものだ。
頭からは角のようなものが生えていたからだ。
「ふむ、なるほどじゃ。このタイミングとは予想外ではあったのじゃが、なんじゃ、うまくいっておるということじゃったのかものお」
何かをわかっているのか、女性はそう言葉にしながら、懐から酒瓶を取り出す。
「おぬし」
「おぬしって、我か?」
「そうじゃ。こいつを受け取るがいいのじゃ」
女性。
ラスはそう言葉にすると、クロに向かって酒瓶を投げる。
クロは飛んできたそれをなんなくキャッチすると、中身を観察する。
「ほお、大魔法使いである我に与える酒としては、最低ラインというところだな」
「ふむ、聞いておった通りの回答じゃな」
「なにい?」
クロを見ながらラスはしみじみとそう言ったのだが、周りからすれば、何のことかはさっぱりだったが、ラスからすれば、それよりも気になることがあった。
キキルと、チカの距離間だ。
知り合いのようだが、ぎこちない。
となれば、ラスが考えることは一つだった。
「ふむ、おぬしら、少し戦ってみせよ」
「は、なんで!」
「何に対して悩んでおるのかは、わらわにはわからぬ。だからこそ、戦うことで見えてくるものがあるとおもうのじゃ」
「では、キキル、お願いします」
「な、なんで……」
ラスの言葉に、すぐにチカは納得して構えをとるが、キキルは納得しない。
「うちは絶対に嫌だ」
「どうしてなのじゃ?ぶつからないとわからないと言っておるじゃろ?」
「わかってるの?うちは強くない。チカに相手してもらえるほどの人じゃない!」
「なんじゃ、おぬしは面倒なことばかりを言うのじゃな」
「めんどくさいって、うちはそんなんじゃ……」
ないとキキルは口にしようとしたが、やめる。
確かに今のキキルはらしくないからだ。
(うちだって、わかってる。でも、でも……)
これまで失敗や、挫折を一度もしたことがなかったからこそ、ひねくれてしまっていた。
「キキル!」
「チカ……」
「戦いますよ」
二度目の戦う言葉に、キキルは再度考える。
どうすればいいのかと……
(また、いろいろと余計なことを考えて……考えても答えなんかでないのに……悩むよりも動くしかないじゃない)
キキルはそこまで考えるとチカにゆっくりと近づいていく。
「……うん、わかった、やろう!」
「はい」
こうして、三度目の戦いが行われることになった。
お互いに戦闘スタイルはあれから特に変わってはいない。
武器はお互いに剣と拳だ。
そこは前と変わらない。
お互いに見合うと、駆けていくと二つの武器が交錯する。
とはいえ、力の差?は歴然だった。
チカの拳が、キキルの剣を簡単に弾いていたからだ。
「キキル」
「なに……」
「何を迷っているのですか?」
「迷ってなんかいない!」
キキルはそう言葉にしながら剣を振るうが、チカが最初に出会ったとき、そして離れ離れになったときとは違って、迷いが剣に現れていた。
確かに、剣筋はそのときよりもよくなっていたが、チカも同じように強くなっているのだから、最低でも同等。
別れたときのことを考えれば、修行をすればキキルのほうが強いだろう。
でも、キキルの剣にはかなりの迷いがある。
そのせいで、チカのほうが押していた。
周りで見ていた人も同じように思っていただろうが、何かを言ったり介入したりはしない。
そんな中で、二人の戦いは少しずつお互いの悩みをうつしだしていくのだった。
読んでいただきありがとうございます。
よければ次もよろしくお願いします。




