57、キキルの修行と成果
「はあ、はあ……」
「遅いのじゃ!」
「はあ、はあ……」
「手で振るでない!」
キキルは、ひたすらに剣を振っていた。
修行が始まって数日が過ぎたが、その間にやったことのほとんどは剣を振ることだけだった。
もっと剣術を具体的に教えてもらえると考えていたキキルにはかなりつらいものだった。
「なんで、こんなことばかり……」
「教えてほしいと言ってきおったり、しんどいと言ってきおったり、面倒なやつじゃの」
「だってそれは……」
こんなことばかりすると、考えていなかったからだ。
もっと修行とは、剣を互いに振りあって行うものであると考えていた。
でも、キキルが受けているのは、型と呼ばれるものをひたすらに繰り返すものだった。
単調な動きに、嫌気がさすのもしょうがないものだった。
「じゃったら、構えるのじゃ」
「え……」
不安や焦りがあるのを見抜いていたラスは、構えるように言う。
キキルは疲れがありながらも、言われた通りに構えをとる。
「打ち込んでくるのじゃ、そして、わらわの態勢が崩れれば、地味な修行は終わりでよいのじゃ」
「言ったわね。それくらい、簡単!」
キキルは、いつものように剣を振るう。
だが、それはラスに簡単に受けられてしまう。
(いつも簡単に受けて、あり得ない)
渾身の攻撃をしても、意味がないと思わせられることに、自分の無力さを感じてしまいそうになるが、すぐに切り替える。
(防がれるのは、当たり前。だったら、できることをやる!)
キキルは、防がれながらも剣を振る。
キンキンと、剣が当たる音が何度か響き渡る中で、キキルは自分に驚いていた。
(動く……)
あれだけ疲れていたはずなのに、体は思い通りに動いている。
これまでは疲れていれば、うまく剣を振れていなかったはずなのに、数日剣を振るった成果なのか、気づけば体が剣を振っている。
「ふむ、どうじゃ……」
「ふん、確かにいつもよりも剣は振りやすいけど」
「それならわかったじゃろ、剣を振る成果があったということじゃ、それがのお」
「そうだね。ちゃんとわかった。だけど、こうやって剣を交えたんだから、もっとやりたいんだけど」
「ふむ、じゃったら、来るのじゃ」
キキルの気持ちもわかるのか、ラスはしょうがないとばかりに構えをとる。
そこにキキルは再度剣を振るう。
だが、当たり前のように疲れた体では、ちゃんとした剣筋ができるのはいくつかしかない。
(ラスに教わったものじゃ、絶対に通用しないけど、これじゃないとちゃんと剣になってないせいで手がない)
「なんじゃ、もう手詰まりなのじゃな?」
「そんなことないけどね!」
「だったら、見せてみるのじゃ!」
ラスに言われたところで、キキルはどうすればいいのか正直わからない。
だけど、このままでは少しでもやり返すことが全くできない。
できれば、びっくりさせるくらいのことはさせたい。
キキルはそう考えると、自分に何ができるのかを思い出す。
(うちができることは……)
多くの剣技が使えるくらいだろう。
(やっぱり、あれをやりたい)
実は、キキルは剣の型を何度も振っていくうちに、試してみたいことがあった。
それは、剣技を組み合わせたものだ。
これまで、考えたことがなかったことだ。
というのも、剣技というのは、いわば奥義とされるものであり、使う武器の種類によって、使える技が決まっているからだ。
でも、本当にそうなのだろうか……
違う武器でも動きが再現することができれば同じように剣技が使えないだろうか?
キキルは何度かそう考えて、剣を振ったことはあったが、当時はうまくいくことはなかった。
でも、どこか今であれば可能ではないのかとキキルは思ってしまう。
「いくよ……」
「ほお……」
すぐに集中したキキルの剣に魔力が自然と宿るのを見て、ラスは感心する。
キキルがやろうとしていることというのは、実はラスが教えようとする最後の段階だったからだ。
普通であれば、型を覚え、それを体にしみこませるほどに剣を振るう。
次に使える剣技を繋げるように型を組み替える。
そして、流れの中で剣技を使えるようにしていくというのが、最後の段階だった。
だが、キキルはその段階へと近道をするようにたどり着いていた。
元々、多くの剣技を扱えるからこそ、たどり着いた答えだったのかもしれないが……
「ふう……はあ!」
「来るのじゃ!」
キキルは、剣技にはなっていないものの、先ほどよりも速い速度で剣を振り下ろす。
そう、魔物を斬るときに何度も何度も使ってきた剣技の一つだったからだ。
ギンと音が鳴りながらも、キキルの攻撃は受け止められて、さらに弾かれる。
でも、そんなことは今のキキルからすれば織り込み済みで、次の攻撃へと切り替える。
今度は切り上げだ。
これはあまり使ったことはなく、ラスには簡単に避けられるが、本命は次だ。
振り上げたところで、剣を腰に引き絞るように構える。
これも剣技が格好良くて、さらには魔物を斬るという点では、多く使った技でもある。
居合。
他の剣ではそう呼ばれるものだ。
「はあああああ!」
「なるほど、いい筋にいったのじゃ!」
その剣筋は、本当に先ほどまでとはくらべものにならなかった。
だからこそ、ラスもとうとういうべきか剣に魔力を宿らせると、キキルの剣を受け止めたのだった。
「やった!」
「ふむ、よくやったのじゃ!」
だが、褒められたと同時に、手にもっていた剣を弾き飛ばされたのはいうまでもなかったが……
「おーい、戻ったぞって、何かあったのか?」
「べっつに」
キキルの修行の間、やることがなかったマモルは、一人でいくつかのことをしていたため、留守にしていたのだが、戻ってくると機嫌が良いキキルを見て、思わず質問をしたのだが、キキルにはそう返されてしまう。
(ま、何かはあったんだろうな)
ここまで、少ししか一緒にいなかったとはいえ、キキルはわかりやすいことくらいは知っている。
だからこそ、隠しきれていないのだ。
だが、今は下手に質問をしてもちゃんとした答えは返ってこないだろう。
そう考えた、マモルはすぐに次のことを口にする。
「そういえば、見つけたぞ、迷宮」
「ふむ、そうじゃったか」
「ほんと」
そう、マモルが二人から離れて探していたものというのは、迷宮だった。
いくつかあるとされている迷宮の中でも、まだ見つかっていないものを探していたのだが、その一つの噂を耳にしていた。
「で、どうすんだ?」
「うむ、先ほどのことで、大丈夫だというのがわかったのじゃ」
「ってことは……」
「うむ、迷宮に行くのじゃ」
だが、修行がうまくいくまでは、迷宮に行くべきではないとラスが言っていたのだが、やはり何かがあったようで、ラスが許可を出す。
そして、次の三人が向かう場所が決まったのだった。
※
「よう」
「あたくしたちを待たせるな」
「そうは言っても、こっちだってやることがあるんでな」
フードを被った男女が、何かを話している。
それぞれ違う相手と一緒にいながらも、やるべきことは決まっている。
「首尾はどうですか?」
「もう少しって感じだな」
「あたくしたちのほうは、先にやる」
「ふ、だったら期待しようか」
「ええ、さっさとこんな世界は終わらせるに限りますから」
「ああ。そうだな」
男女はそう言葉にすると、声には出さないが口元を歪ませながら、笑いあうのだった。
読んでいただきありがとうございます。
よければ次もよろしくお願いします。




