56、脱出
「あー、終わっちゃったんだけど」
「あんな予想外な相手では仕方ない」
「うっそー。絶対にわかっててやったでしょ」
「どうだかな」
「まあ、いいけど。それで、大魔法使い様はどうするわけ?」
「連れていく」
「なるほど、了解ー」
男女はそう会話をすると、女性は軽々とモリリンを担ぐ。
それに対して、男は何かの魔法をモリリンへとかけると、その場を去っていくのだった。
※
ゴーレムを倒したチカは、その場で崩れ落ちる。
「お姉様!」
「大丈夫かよ」
「慌てないように!」
三人が慌ててチカに近寄ってくるが、ゆっくりとしている暇はなかった。
バキッと一度音がなった後に、続けて音が聞こえる。
何が起こっているのかと、全員が周りを見渡したときに、音が鳴った理由がわかる。
「まじかよ……」
カイが呆然と口を開くが、それもそのはずだ。
迷宮が崩れ始めていたからだ。
「やべえぞ!」
「お姉様!」
「に、逃げないと!」
すぐにこのままではまずいと、倒れて動かないチカに三人は叫ぶが、立ち上がることはない。
かなりの力を消耗してしまったチカには、それすらも難しいようで、動けていない。
「カイ!」
「言われなくても」
「お姉ちゃんも回復魔法をします」
三人はすぐに役割を決めると、チカのもとへと集まった。
迷宮が崩れてしまう前にここから出るためには、三人で力を合わせないといけないことをすぐに理解したからだ。
「いくぞ」
「わかってるです」
近くにくることでわかったが、どうやらチカは力を使い果たし、気絶していたようだった。
すぐにカイとスイで両肩を貸して、立ち上がらせる。
(間に合うのか?)
迷宮の最深部ではないとはいえ、この迷宮は広いため、入口まではそれなりに距離がある。
「我慢はできるです?」
「お前、何をやろうとしてるんだ?」
スイも間に合わないと考えたのだろう、絶対に何かよくないことをやろうとしているのがわかるが、他に手がないのも確かだ。
どうするべきかを考えても、いい案がないときは……
「スイちゃん。おねえちゃんは、覚悟できてます」
アイがそんなことを口にする。
何をしようとも、ここから全員が生き残るためには、なんでもするという覚悟をすぐにするのはさすがというべきだろう。
カイっも少し迷っていたものの、スイを見ると頷く。
「では、いくです」
スイが集中するのが見えた。
そして、魔法を唱える。
「水魔法”ウ……!」
「なんだ!」
「眩しい」
だが、魔法を唱えるよりも速く、視界が光に飲み込まれる。
それがなんなのかを理解したのは、スイだった。
(これは、転移させる魔法です)
そして、光が収まると、周りに見えたのは、見覚えがある草原だった。
「いや、悪かったな、すぐに助けられなくて」
クロはすぐにそう謝ってくる。
何が起きたのかは分かったのだろう。
「おい、いろいろあったんだからな!」
「それくらいはわかっている。大魔法使い様にかかればな」
「だったら、もっとあれ?」
やり方があっただろうと言いたかったが、言葉にすることはなかった。
クロがいつの間にか発動していた、相手を眠らせるというものが効いたからだ。
「まあ、今は休んでいろ」
アドレナリンが出て、興奮状態では、建設的な話し合いができないことをわかっているからだ。
「やってくれたことだけは、喜ばしいことだがな」
クロはそう言葉にすると、チカたちに回復魔法を使うのだった。
※
「あれが正解でしたか?」
「どうだろうね」
いつものように、黒い影に話しかける。
これまでのように体を押さえつけられるようなことはないことから、使い方は間違いではなかったはずではあった。
「ねえ、聞いていい?」
「あたしは、あたしだぞ?お前がわからないことがあたしにわかるとは思えないぞ」
「大丈夫。答えがほしいわけではないから」
「だったらいいじゃない、言ってみたら」
「そうだね。どうして、黒いんですか?」
「ふは!なんだ、そんなことか?それはなあ……」
黒い影は笑いながら何かを言う。
だが、チカにはそれが聞こえることがなかった。
体が温かい光に包まれたと感じるとともに、意識が覚醒したからだ。
「おう、起きたか」
「クロさん」
「皆さんは……」
「大丈夫だ、寝てるだけだろう。我が直々に回復させておいたからな。少し休めば目を覚ますだろう」
実際にはクロが眠らせたのだが、いちいち面倒になるであろうことを言うのは違うだろう。
チカも、ゴーレムを殴り飛ばしたところまでの記憶しかなく、その後に何が起こったのかはわからなかった。
「ゴーレムは倒せたんだな」
「はい。そうだと思います」
ゴーレムが砕けたところは見ていた。
そして、クロはさらに迷宮が崩れていくのを知っている。
よって、ゴーレムの暴走したのは、モリリンが死んだことによるものなのだろうと、どこか確信した。
一つの迷宮が消えた。
いつかはくるであろうと考えていた未来。
そして、願っていたことだったが、クロにはどこかそれが悲しいことに思えてしまうのだった。
だが、仮面をつけていることもありチカに気取られることはない。
「ふ……まあ、結果オーライだ。次は我とあいつの両方を滅ぼしてもらおうか!」
だからこそ、自信満々にクロは言葉にするのだった。
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