55、力の使い方
どうしてあたしはこんなに弱いのですか?
自分自身にそう問いかけるが、怒りは止まることはない。
不甲斐ない自分に怒りが止まらないからだ。
「きゃはははは!」
チカは笑い声とともに、魔力が体から溢れ出す。
溢れだす魔力によって、両手と体は勝手に治りつつも動かすことができるようになった。
ゴーレムは地面を腕で殴る。
だが、チカも同じように地面を殴る。
互いに魔力を伴った攻撃が地面でぶつかりあう。
ガガガともの凄い音が鳴り響き、攻撃を相殺すると、チカはそこから加速する。
「すげえ戦いだな」
「凄まじいです。でも、これはです」
「怖いね……」
アイがそう言葉にするのは仕方ないことだった。
それほどまでにこれまでのチカとは違って好戦的な戦い方だ。
一度見ているカイとスイでさえも、好戦的に敵へと向かっていくのを見ると、いつもと違うチカに戸惑いと少しの恐怖を感じる。
「きゃはははは!」
「ゴオオオオオ!」
ゴーレムとチカがお互いの拳を打ち合う。
魔力を伴った二つの暴力は、ぶつかりあって轟音を巻き上げる。
二つの暴力の戦いを見て、カイはわかった。
ゴーレムの攻撃が最初は少なかった理由が……
ゴーレムは近接が得意であるのか、チカとの戦いは激しさが増している。
「いひひひひひ!」
「ゴオオオオオ!」
ドンドンと打ち合いが行われているが、本当にただの魔力を互いに打ち合うだけで、カイたちが割り込む隙すらない。
だが、それは力を振るっているチカ自身もだった。
止まらない。
意志とは関係なく、自分の怒りをぶつける相手に対して向かっていくからだ。
「止まらないね」
「わかってて言ってるんだよね」
「自分のことだから、わかってるね」
黒い影とチカが会話をする。
前のように怒りに完全に支配されているわけではないのか、黒い影と会話ができているものの、体は動くことはなく、黒い影に捕らわれている。
「ほら、すごいね」
「本当にね」
もの凄い勢いでゴーレムと戦う自分を見て、思わずそう言葉にする。
先ほどまでの自分では全く歯が立たなかった相手と互角に戦っているからだ。
それだけで、自分にはできないことをやっている自分自身を認めたくはないが、認めるしかない。
怒りに任せて、全く自分の意志と関係なく攻撃をしようとも、先ほどまでの自分ではどうしようもなかったのだから……
だけど、チカとゴーレムの戦いが激化すると、それが起こる。
ゴーレムとチカの拳が何度目かの交錯があり、さすがのゴーレムもこれだけ打ち合うことになるとは考えていなかったのか、とうとう拳が一部砕ける。
そして、その破片が後ろに勢いよく飛んでいく。
魔力を帯びているそれは、砕けた破片であっても強度はかなりのものであり、破片は後ろにいたカイたちの元へと飛んでいく。
「危ない!」
「そうね」
チカはそれを弾きたいが、思い通りに体が動くはずもなく、ゴーレムと戦うことをやめない。
飛んでいった破片は、カイとスイの二人の魔法によって防ぐことはできたが、これ以上戦うとさらに危険にさらすことは確実だ。
だというのに、怒りをぶつけるだけの攻撃を繰り返している。
「止まって!」
「どうして?戦わないと、力を見せつけないと!」
黒い影がそう言葉にして、同じようにチカは止まらない。
ダメだ。
こんな力に頼ってしまったのが……
制御ができない力で強くなっても、それは自分の努力で手に入れたものじゃない。
だけど、どうやってもチカにはそれを止めることができない。
そんなときだった……
「どうして、力に支配される?」
男の言葉が聞こえた。
人影は見えないが、カイではない誰かの声。
そして、その声はさらに聞こえる。
「冷静さを失い、誰のために、どうやって使うのかがわからない力など、意味はない」
どうして、これだけの戦闘中にチカにだけハッキリと声が聞こえたのかは、正直わからない。
だけど、ハッとする。
力の振るい方を間違っていることをわかったからだ。
「いいですか?」
「何?あたしに言いたいことがあるのですか?」
「はい。あたし自身に言いたいことはたくさんあります」
「だったら、その怒りも何もかも全て、ぶつけるのがいいですよ」
「そうなのかもしれないですね」
確かに、言われてしまえばその通りなのかもしれない。
怒りを力に変えることはチカ自身には可能だ。
でも、今はそれをしない。
だって、怒りは冷静さを失っている証拠だからだ。
本当にやりたいはずのことをできない。
それだけは絶対に嫌だった。
傷つけないために怒っていたはずなのに、結局は傷つけてしまう。
そんなものは力じゃない。
「そうですか、気づきましたか……」
「はい。ですが……」
「わかっていますね」
黒い影の口調がおとなしいものになっていく。
冷静さを取り戻しているからだ。
全身にめぐっていた魔力が弱まり、チカの体がゴーレムに吹き飛ばされると同時に、体の感覚が戻ってくる。
「お姉様!カイ!」
「わかってるっての」
魔力がなくなったときには、すでにスイが何かを察したように叫ぶ。
そして、いつでも発動できるようにと魔力を練っていたカイが、足場を作りだすと、チカは受け身を取りながらもバックステップをして距離をとると、三人の元へと戻る。
「ごめんなさい」
申し訳なさ過ぎて、チカは後ろを見ることもなく謝るが、すぐにスイに怒られる。
「謝るくらいなら、スイたちに頼ってほしいです!」
その言葉に、チカは当たり前に思い出す。
最初から一人で戦えないことは理解していたはずで、そのことを言葉にしていたのに、すぐに諦めてしまって可能性を一つも試さなかったのは自分自身だ。
だったら、次に口にする言葉は違う。
「あたしに力をもう一度貸して……」
「もちろんです」
「任せろ!」
「おねえちゃんも秘密兵器を使います」
三人の反応はそれぞれ違っていたが、チカのことを手伝ってくれるのにはかわらない。
「カイ君、足場の維持をお願い。スイ、あいつの攻撃を一度だけ防いでほしい」
「任せろ」
「わかりましたです」
「おねえちゃんは、お手伝いします」
アイは、すぐにそのとっておきを発動する。
「魔力が、溢れるです」
「すげえ……」
アイがしたことは自分の魔力を二人に与えるというものだった。
誰も扱うことができないような魔法であり、まさに最強のサポートだ。
「これで、どんな魔法でもお姉様を傷つけることはないです」
「僕だって、足場を崩すことはないよ」
頼もしい三人に、チカは何も言わないが心の中で思う。
ありがとうと……
そして、ゴーレムを破壊するための技を作り出すために集中する。
怒りによって、チカは魔力を得ることができた。
それによって、魔力がどこで生まれるのかを理解した。
心だ。
心の変化によって、ないはずの魔力を無理やり引き出している。
怒りに支配されているからこそ、チカの魔力はどす黒いのだろう。
大丈夫。
どうすればいいのかわかった。
怒りで魔力が生まれるのであれば、怒りをもてばいい。
でも、扱うためには冷静さを失ってはいけない。
カイを助けたときに、初めて魔力が体に宿った。
あのときには、確かに怒りはあった……
でも、それ以上に頭は冷静に対処をしようとしていて、うまくいっていた。
それを思い出す。
「使えることを何度も夢見て、やってきたはずです」
言い聞かせるようにして、口にする。
魔法を使うために、ない魔力で何度もやったことだ。
頭は冷静に、心は熱く。
これによって、魔法というものはより強く、精度が高いものが扱えるからだ。
もっともっと心を熱く!
心に熱を帯びるのがわかると、それを少しずつ高めていく。
でも、うまく形にならずに心の熱は、少し弱まる。
うまくいかない。
速く力を引き出さないといけないのに……
そう思って焦るほどに、魔力は扱うことができない。
「グオオオオオオオオ!」
うまくいかないチカよりも速く、ゴーレムは攻撃を繰り出す。
「水魔法”ウォーターブレイド”」
待っていたと言わんばかりに、スイが魔法を使って攻撃を防ぐ。
「お姉様。スイであれば大丈夫です。任せてくださいです。お姉様を信じているです」
「おねえちゃんも、信じていますよ」
二人は優しく声をかけてくる。
だが、カイだけは違った。
「僕にあれだけのことを言ったんだからな。やってくれよ、チカ!」
激励であり、後には引けない言葉だ。
心に熱さが強く宿っていくのを感じる。
一人じゃないからこそできることを忘れていた。
強く強く熱いものが心の中で満たされていくと、チカはその力を冷静に制御する。
魔力を宿らせるのは体の一部でいい。
全身に巡らせてしまうと、先ほどと同じように支配されてしまう可能性があるからだ。
右手が魔力によって黒くなる。
「はあ、はあ……ふう……」
後ろは絶対に大丈夫。
集中力を極限まで高めたチカは走り出すと魔力を込めた右手を引き絞る。
「お姉様、いけですー!」「おねえちゃんがついてるよ!」「いっけー!」
「はああああああ!」
「ゴオオオオオ!」
だが、合わせるようにして、ゴーレムも腕を振るう。
一瞬力が拮抗するが、本当に一瞬だけだった。
一点に集中した魔力の拳は、人造物であるゴーレムを粉砕したのだった。
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