54、人造物との戦い
迷宮に入って、チカはすぐに異変に気付く。
迷宮になっていた木たちが、ゆっくりと枯れ始めたのだ。
「これは……」
何かが起こっている。
それだけでわかっている。
何かが起こったのは、モリリンにだということを……
「短剣が熱くなったのは、これが原因ですね」
クロがこれを使って、知らせてくれたのだ。
クロが自分に何をしてほしいのかはわからない。
それでも、モリリンさんの元へ行かないといけませんね。
木が枯れた結果、最深部への扉が見えるが、何かがあることはすでに扉が開いていることからわかる。
チカは迷宮の最深部へ向かって進んでいく。
ちょうど中間の辺りだった。
異変を感じて、チカは最深部を注意深げに見たとき、それは起こる。
「ドガン!」
けたたましい音とともに、扉が壊れて何かが奥から現れる。
「なんですか、あれは……」
思わずそう口にしないといけないほどに、それは大きく異質な存在だった。
人の四倍は大きく、さらに言えば見た目も全く違う。
魔物に見えるが、魔物とはまたどこか違う感じがすることをチカはすぐに感じる。
「グオオオオオオオオ!」
ただ、出てきた魔物は咆哮を行うと、地面が枯れ、さらには柔らかい砂のようになる。
まずいと感じたときには、チカはすぐに距離をとった。
大きな魔物が歩いたところは、緑に包まれ、咆哮を浴びたところは枯れはて砂になる。
まるでそれは大地の生命と滅びを操っているような存在だった。
距離を取っても、近づくことは難しい。
それは、地面が砂になっているからだった。
粒子のような砂は、上にあるものすべてをのみこんでいくのが見える。
人も例外ではないだろう。
あれは、迷宮の外に出してはいけません、ですが……
対処をしたいものの、どうやったらいいのかわからない。
いや、正確には一つだけある。
あの溢れる魔力を自分から引き出すことができれば、あるいは……
でもそれは……
「怒りに身を任せるということですよね」
自分自身に、主に黒い影に言い聞かせるように口にする。
それでいいのかと……
どんな力なのかわからない。
何なのかもまだわからない、そんな力に頼っていいのだろうか?
そう考えていたときだった。
迷宮の入り口に足音が聞こえると、聞き覚えある声がチカを呼ぶ。
「お姉様、スイも助太刀するです」
「僕もだ」
「おねえちゃんも」
三人はチカに並ぶように前に来ようとするが、チカはそれを手を広げることで封じた。
「どうして、ここに来たの……」
絞りだすようにしてスイたちに言うが、すぐにスイからは怒りが聞こえる。
「お姉様が、一人で対処すると思ったからです」
「それはだって……」
ここに呼ばれたのは、自分だから……
でも、そんな言葉でスイたちは納得しない。
「だったら僕たちだって、ここに呼ばれてきた」
「おねえちゃんも」
簡単に屁理屈のような言葉を返してくることに、チカは思わず怒鳴る。
「そんなことをしなくていいんじゃないですか!」
完全に三人を否定するかのような言葉だった。
何を言っているのだろうか?
一人では絶対に倒せない敵を前にして……
そんな油断したタイミングで、魔物は口を開く。
「グオオオオオオオオ!」
「水魔法”ウォーターブレイド”」
「!」
スイがすぐさま水の剣で、咆哮を切り裂く。
凄まじい攻撃に、チカは思わず見とれた。
「お姉様!」
「ス、スイ……」
「しっかりしてくださいです。あれはゴーレムというものです」
「ゴーレム?」
「そうです。作られた魔物のような存在なのです」
そして、前に進んでくると、チカの隣に立ってあれがなんなのかを教えてくれる。
なんでスイは、あれを知っているのか?
チカは思わずそんなことを考えてしまったときだった。
「お姉様!」
「スイ……」
両手で顔を掴まれると、目線を合わせられる。
「いろいろとお姉様は考えすぎなのです。そこがお姉様の魅力ではあります。でも、お姉様の魅力はそれだけではないです。お姉様は、スイに言われたことを覚えているです?」
「覚えて……る」
「だったらです。わかっているはずです。お姉様は目の前のことに集中するです。そうでないと、何もできないです。一つもできないです。後悔するです。それをお姉様は知っているはずです!」
スイに真っ直ぐに言われて、チカは思い出す。
最初に言った言葉を……
あのときはまだ、スイはチカのことをお姉様とは呼んでいなかった。
だから、覚えているはずはないと考えていた言葉。
どうして、何もためにならないことをやっているのです。
疑問に思ったスイに、そう言われた。
チカがやっていることはスイには意味のないことに見えたのかもしれない。
でも、チカにとっては、それが自分のためになることだと考えて行っていたことだった。
だから、必要なことだからと答えた。
すると、スイからさらに言われる。
それでは、同じことばかりしているのは、どうしてですと……
それに対して、チカは答えた。
できていることを当たり前にできるようになるために、繰り返し繰り返し行って、確実性を高めるのだと……
「できることをやる……」
「お姉様ならできるです」
「僕たちも手伝うからな」
「おねえちゃんも、できることをやるからね」
だけど、砂になった地面でゴーレムにどう近づく?
チカはそう考えるがいい案はないが、止まるわけにはいかない。
一つやりたいことはあった。
「カイ君」
「なんだ?」
「地面にシールドのようなものを張れますか?」
「張れるが、まさか」
「はい。その上を走ります」
チカにシールドのようなものを張れるかと言われたときには、どこか予想はしていたことだったが、それをやるのかと思ってしまったが、今更驚くのも間違っているのかもしれない。
カイは両手を広げる。
普通のプロテクトでは、ここからチカがゴーレムまでたどり着くほどの足場を作ることはできない。
ゴーレムの攻撃が咆哮だけであるはずもないので、それも警戒すると余計に足場は大きさや強度が必要だ。
そうなると、魔法を作る必要がある。
(集中だ……いつも助けられているチカを助けるためにも!)
魔法を発動するためにも、魔力を練る。
だが、ゴーレムは先ほどの咆哮が破られたためか、今度は両手を地面に打ち付ける。
それによって今度は地面から木が生えてくる。
「まじかよ」
「いいから、集中するです。水魔法”ウォーターシールド”」
驚きの攻撃に対して、スイが水の壁を作り出す。
木が地面から生え、スイが作り出した水の壁を破壊しようとするが、距離も離れていることもあってか、破られることはない。
「カイ!」
「わかってる」
スイに呼び捨てにされたカイは、魔力を張り巡らせる。
そして、魔法を発動する。
「行けるぞ!」
「はい!」
チカはすぐに、地面を蹴って、カイが作りだした魔力の壁を走る。
ゴーレムはすぐには同じように木を生える魔法を使うことができないのか、そもそも動きが遅い。
「はあああああああ!」
チカは握っていた拳をゴーレムに最速で打ち付ける。
吹き飛ばし……
「くああああああ……」
ゴーレムを殴り飛ばすはずだった拳のほうが当たり前のように負けてしまい、チカは魔力の壁に弾き返される。
殴った右手からは血が出ており、力もうまく入らない。
それほどゴーレムは硬いということなのだろう。
でも、まだ左手がある。
そう考えて、左手を握りしめたときだった。
ゴーレムが勢いよくその腕をチカに振り回した。
スピードは予測よりも速く、避けるのが間に合わなかったチカは、左手でそれをガードするが、「メキメキ」そんな音が聞こえるほどの勢いで、左手の力がすぐに入らなくなることがわかる。
なんとか立ち上がるが、痛みからか足にもあまり力は入っていない。
カイたちの声も遠く聞こえる。
死んだ……
チカは迫りくるゴーレムを見てそう思った。
だが、そこで声が聞こえる。
「何故、魔力を解放しないわけ?」
黒い影がニヤリと笑うのがわかったが、チカは自分に対しての怒りから魔力を暴走させるのだった。
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