53、目覚めと強襲者
黒い影が目の前に立っている。
なんとか動こうとしても、鎖に繋がれていて動けていない、自分を見ている。
「動けないよねえ」
「だからなんですか?」
「特に何もないよ。楽しんでいるだけ」
黒い影はそう言葉にしながらも、自分のことをどう考えているのかわかる。
イラっとしているのだろう、自分自身に……
中途半端な自分に……
わかっている。
結局自分が何をできるのかを確認するために冒険者になったはずなのに、何もわかっていない。
この髪が白い理由もわかっていない。
魔力がないのも、使えるのもわかっていない。
これは、全て自分のことなのに……
力をもっていても、使い方がわかっていないのであれば、それは本当に持っているだけなのだ。
重要なときに使えず、前みたいに使っても暴走ばかりする。
「では、あたしのことをあなたは知っていますか?」
「どう思う?」
黒い影はそう答える。
もし、自分と同じであるのであれば、知ることはないだろう。
同じでありながらも違う存在。
これがなんなのか、うまく説明はできない。
「考えて、考えて、考えて……それは得意なことなのじゃないの?」
そう言われても、わからない。
とはいえ、悩んでいる場合でもなくなる。
「無理やりなんて、酷いって思わない?」
「何を……」
言っているのですか?
そう言葉にしたかったが、続く前に急激に引っ張られる感覚に陥る。
これは何だろうか?
考えても、引っ張られるのは変わらない。
そして、チカは目を覚ました。
どれくらい寝ていたのだろうか?
わからない。
わかることは、クロからもらった短剣が何故か熱く熱くなっていることだ。
「何ですか、これは……」
わからないながらも、短剣を取り出すと、まるで意志をもっているかのようにある方向を剣先が指し示す。
まるで、そちらへ行けというように……
何かがある。
それだけがわかったチカは、装いを少しだけ整えると指し示す方向に向かうことにした。
なんとなく方向で、どこに向かっているのかわかる。
帰らずの森だ。
そこへ向かうことになる。
考えられることは一つで、迷宮で何かが起こっているということだろう。
どうしてそれがわかるのか?
これは、先ほどの短剣が熱くなっていたことでの予想だ。
街を出ると、外は暗い。
時間はすでに夕方から夜になりかけていた。
そんな中、チカは帰らずの森へ向けて走っていく。
寝ていたせいなのか、魔力で身体を無理やり強化された感覚が残っているのか、走るスピードはこれまでよりもさらに速い。
ここまで本当に最速であったであろう速度だった。
迷宮の場所をわかっているチカは、すぐにそこへと向かっていく。
「着きました」
チカは、迷宮の扉の前に立つが、扉はどういうわけか開いている。
すでに何かが侵入しているということなのだろう。
「入るわけ?」
頭の中でそんな言葉が響く。
言っているのは黒い影だろう。
違う、自分自身だ。
それが間違っていたとしても、立ち止まるわけにはいかないことをわかっている。
※
「粘るー」
「だからといって、遊ぶのはよせ」
「えー、つまんないじゃん。一回はお預けをくらったんだし」
女性は男の言葉にそう返すと、大剣を振りかぶる。
確かに、男の言う通り時間はかかっているが、それは相手の抵抗が強いからだ。
それでも女性の敵ではない。
「薙ぎ払おっと……剣技”フレイムスラッシュ”」
大剣から炎が溢れ、振るった剣筋と合わさる。
そしてそれは、向かってきていた木の木偶を全て焼き払った。
「はい、終わりー」
「こういうところはさすがだな」
「教えてもらっておいてなんだけど、さすがでしょ」
女性は自慢気にそう答える。
だが、その炎の剣は自慢できるくらいには強力なものだった。
「次へ行くか」
「ようやく、本体と戦えるんだ」
「ああ」
男はアイのように隠されていた道を発見するのに魔法を使うまでもなく、真っ直ぐに隠されたものがある場所へと進む。
そして詠唱するまでもなく、何かを手に作りだすと、生い茂っていた草などを一撃で破壊する。
「さっすがー」
女性がそれを見て、嬉しそうにしている。
何事も簡単にこなす姿は、さすがというべきだろう。
そして、二人は封印された部屋へと入っていくと、中にいたのはモリリンだ。
「来たんだ」
「ここに来るための力は示したはずだからな」
「ボス、どうします?」
「作戦は最初から伝えていた通りだ」
「じゃあ、あたいは足止めをすればいいよね」
「ああ、よろしく頼む」
男はそう言葉にして、自分の役割であるゴーレムへと近づいていく。
そして、女性はモリリンに相対する。
「何をする?」
「こいつを奪い去るために来た」
「絶対に無理」
モリリンにだってできないことを男はできると言っているのだからだ。
あり得ない。
モリリンはそう言うが、男はゴーレムへと近づく。
だが、モリリンだって悠長なことはしていない。
立ちふさがろうとすると、男は言う。
「いいのか?無理やり殺して奪っても」
「どういう意味」
「この迷宮は昔の魔法使いが作った。確かに強いが、最強ではない。だから、殺すことは容易だ」
「どういう……」
「こういうことだ」
「が……」
一瞬にして姿が消えて現れる。
そして、握られていた拳がモリリンのお腹に入ると、膝をつく。
「は……速すぎ……る」
モリリンですらも見えない攻撃だ。
だが、女性からすれば当たり前の攻撃であり、不満そうに声をあげる。
「ちょっと、ボスがそんなことをやっちゃうと、あたいの出番がなくなるんだけど」
「力を示せと言われたからな」
「じゃあ、殺していい?」
「ダメだ。じっくりとあれを手懐けたいからな」
「しょうがないなあ」
「待つ……」
女性はそう言葉にするモリリンに大剣の柄を打ち付けると昏倒させた。
それを見届けた男は、ゴーレムに近寄ると右手を掲げたのだった。
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