52、背負う
木が生えてくるのを、アイたちは見る。
生きているように動きだした木は、目の前にいるモリリンと同じ姿だ。
「面倒。魔力がちょとぶれると、うまくいかない」
そんなことを独り言のように言った後、彼女の分身が動くと根っこに埋もれていく。
作り出した本人は、うまく作れたと満足気だが、そんなモリリンにカイは話しかける。
「ここはなんなんだ?」
「封印の間」
「封印の間?」
「そこにある、ゴーレムの」
「ゴーレム」
「聞いてばかりじゃなくて、考えて」
わからないことだらけで、モリリンが言った言葉を思わず繰り返すようにカイは言ってしまうが、それをモリリンは窘める。
言われてみれば、こういうところで相手のことを考え、先読みして答えを出すということも、ほとんどチカがやっていたことだと思う。
確かにチカは、万能だ。
カイたちは知らないが、チカは自分が魔法を使えないことによって、体だけではなく、多くの勉強もしてきた。
何か一つでも自分にできることがないのかというのを追求した結果だった。
だが、カイは勉強などというものは全くしたことがなく、やっていたことの多くはどうすればいかに金を効率よく稼げるかだった。
どうしても、こういうときには戦力になりえない。
とはいえ、ここにいるのはそういう人だけではない。
「少し聞いたことを話すです」
スイがそう前置きすると話し出す。
「ゴーレムに限らずです。魔法生物を扱ったものたちがいるですと、お姉様に教えてもらったことがあるですが、それがモリリンです?」
「そう。自分たちで作ったから、生物じゃなくて人工物」
「でも、それが封印されているということはです。暴走しているです?」
「ええ……魔法戦争の過程で、この人工物を使って戦いをした。それが九魔道。クロは大魔法使いと名乗ってるらしいけど。結局。戦争で使ったこれを人工物でなくした」
「それはどうしてです?」
「もっと、効率を求めた結果」
どこか寂しそうに、だが憎そうに言葉を口にする。
それはたぶん後悔しているからだろうか?
聞いていたカイたちも思わずそんなことを思う。
だが、そこでカイはあることを考える。
「それと、大魔法使いを殺すことと、どう関係があるんだ?」
「決まってる。人工物と魔力をリンクしているから、殺すことで迷宮もこれもなくなる」
「じゃあ、今殺せるのか?」
「無理。自分たちは魔力が強すぎる。死ぬまでに体の魔力を使って、こいつらが暴れる」
モリリンはそう言葉にして、ゴーレムを指さす。
動いていない状況ですらも、これが動くことでどれくらいの被害がでるのか想像できない。
昨日戦ったサソリの魔物ですらもかなり強かったのに、それを超えるであろう強さをもっているはずだからだ。
考えただけで、カイは思わず唾を吞み込む。
だが、昨日のサソリを知らないアイはというと、不思議そうにゴーレムを見ている。
「これは、そんなに怖い存在なの?」
「うん、それなりに」
「そうなんだね。触るのは?」
「ダメですね。魔力によって、起動しますので」
そう言われてアイは少し残念そうだ。
病気が治ってから、何か気になることをなんでもやりたくなっているようだ。
だが、それによって世界を滅亡させるようなことになってしまうのは、よくない。
とはいえ、少し緊張で張りつめていたような空気はなくなる。
「じゃあ、どうして僕たちはここに来たんだ?」
「来たのは、手違い。でも、来たのなら、これを見るべきだと思って見せた」
「そうなのか?」
「もちろん。迷宮のこと、知らないとお願いできない。殺すこと」
モリリンははっきりとそう言葉にするが、先ほどの会話から意味がわからなかった。
「殺すって、そんなことをすれば、動き出すんじゃないのか?」
「わかってる。だから、一撃で全てを破壊する人を探してた」
「それが、チカだっていうのか?」
「そう」
だが、それだとチカにだけ、重荷を背負わせすぎることになるだろう……
思わず、そう言葉にしようとしたが、続かない。
それを言ったところで、どうしようもないことをわかっているからだ。
でも、声にできなかったのはカイだけだった。
「お姉様だけに、そんなことはさせないです。スイだって、それだけの力を身に着けます」
「お姉ちゃんだって、そんなことはさせない方法を編み出してみせます」
二人はすぐにそう言葉にする。
スイはともかくとして、アイも同じように言葉にするとは、カイも考えていなかった。
「では、それを楽しみにします」
モリリンはそう言葉にすると、木の棒を振るう。
すると根っこが盛り上がってきて、三人を掴む。
「なんだ!」
「外に出すだけ、次は殺せるときに来て」
掴まれたカイは焦ってそう言葉にするが、モリリンはすぐに説明する。
そもそも動いても外れそうにない根っこに、三人は吸い込まれていくのだった。
「まじかよ」
「迷宮の入り口です」
「本当ね」
入口に戻ってきた三人はそれぞれ口にすると、迷宮から出て、街へと帰るのだった。
※
それから一時間後。
迷宮の最深部に男と女の二人がいた。
「ねー、ここでいいの?」
「いい。目的地はこの先だからな」
「侵入者?」
「なんか出てきたんだけど」
「殺せばいい」
「いいの?」
「ああ、どうせ影武者みたいなものだ、これは」
「あー、なるほど」
男の言葉に、女は納得すると持っていた武器を振りかぶる。
「厄介……でも、倒す」
それに対して、モリリンが作り出した木の分身がそれらを排除するべく動きだす。
すぐに、魔法によって、さらに多くの木の分身を作りだす。
そこから戦いが始まった。
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