51、迷宮に封印されたもの
ギギギと音が鳴りながらも、最深部の扉が開く。
ここまで迷うことなくやってきたことで三人とも体力にはかなり余裕がある。
「よ!……来たね」
感情をあまり感じない声音で話しかけてきたのは、この迷宮の大魔法使いとされているモリリンだった。
アイは初めて会うモリリンに戸惑う。
それはそうだ。
見た目が普通とは全く違うからだ。
髪の色は、黄色と青が混ざっているという変わった色をしているし、どこか興味がなさそうにカイたちを見ているのに、余裕があって年上に見えるからだ。
「ここの森って……」
「うん……直した……魔法は、それなりに……得意」
少し自慢気に胸を張りながら答える。
迷宮を作り出しているのなら、当たり前なのでは?
そんなことをカイは考えたが口にはしない。
余計なことを言ってはいけないことをわかっているからだ。
とはいえ、ここに来たことをちゃんと話しておかないといけないことはわかっている。
「なあ、ここに来いって言ってたよな」
「そう……言った」
「どうしてなんだ?」
「理由が……ある……たぶん、これは……クロは……言わない、こと……だから」
モリリンが言ったことに、カイは疑問に思う。
(あいつは、まだ何かを隠しているっていうのか?)
それくらい予想外のことだったからだ。
確かにクロは、これまで多くのことを教えてくれたし、それと同じように何かがあるとはカイも考えていたが、まだ裏があると言われてしまえば、それが一体何なのかが気になる。
そうしてモリリンは魔法を発動する。
すると、木が割れて、中から何かが出てくる。
「では……知らない……話を、します……ということで……この映像を……見て、ください」
モリリンがそう言葉にすると、何かは映像のようなものを映し出す。
流れているのは、クロが話しているところだろうか。
九人いる中で、見たことがある黒い仮面の男性が話している。
『わかっていると思うが、我らの世界は厳しいだろうな』
『今更でしょ、んなこと』
『だったら、我らがやることはわかっているな?』
『いっつも言ってたことでしょ、世界を変えるって』
『ま、失敗してるけどな』
『ちげえねえ』
『おいおい、あんまそういうことを言うなよ』
そんな言葉の後に全員の笑い声が響く。
『じゃあ、いつか封印された魔物を倒してくれる存在のために!』
『意識がなくなる前にな』
『ちげえねえ』
『大魔法使いである、我らが抑えるんだ。まあ、やれることはやるのが当たり前だろ?』
『恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言えるのは、さすがだな』
『ちげえねえ』
『おいおい、あんまいうなって』
再度同じような言葉が繰り返されて、九人は笑うながら映像は終わった。
「理解した?」
映像を流したモリリンはそう言葉にするが、カイたちには今一つピンとこなかった。
これには理由があった。
すでに迷宮の試練をこなしている場合。
冒険者としての真実である、迷宮主を倒すということが必要なことになっているからだ。
だが、今回の内容では真実は違う。
迷宮では、確かに迷宮主を倒すことは必要なのだが、その理由が裏にいる魔物と戦うためだと言っているのだ。
言ってしまえば挑戦権といえばいいのか……
でも、カイやスイ、アイなどは言われてもちゃんとわかるはずもなく、あまり理解はできていない。
(映像は結局、魔物がまだまだいるってことを伝えたかったのか?)
思いついたことというのも、どこか的外れな内容になってしまう。
チカがいれば、考えを巡らせて真実には近づけたはずだが、今はいない以上はここにいる三人で何かさらに情報を聞き出さないといけない。
そう考えていたカイはモリリンに話かける。
「何を伝えたかったんだ?」
「わからな……い、なら……い……い」
「なんて言ってるんだ?」
「だ、から……わから……」
何かを話そうとしていたはずの彼女は、言い終わることもなく動きを止める。
そのまま、まるでもともとがそれであったかのように、体は木へと姿を変えた。
「どういうことだ?」
「わからないです。でも、木に変わってしまったです」
「うん、なんだかわからないけどすごいことよね」
アイは、思わずという感じで、木になってしまったそれを触るが、当たり前ではあるが、先ほどのように人ではなく木としか思えなかった。
「ですが、一つこれで確信しましたよ、お姉ちゃんは」
「何がです?」
「行きましょう」
アイは先導して歩きだす。
何があるのだろうかと、スイたちは着いていくのだが、アイは迷いなく進んでいくと木が生い茂っている場所をかき分ける。
「すごいです」
「何がだ……そういうことかよ」
スイが気づいたことに、カイもすぐ納得する。
それほど、アイが進んでいる道というのは普通ではなかった。
木が生い茂っている場所をかき分けるようにして進んでいけば、かき分けた後の木が跳ね返るようにして肌などを傷つけることがある。
でも、ここではそれがなくかき分けると、木がまるで避けているかのように分けた後なかなか戻ることはない。
「扉がありますよ」
先行していたアイが何かを見つけて二人に知らせる。
「開けてくれ」
「そうです。狭くて動けないです」
だが、後ろの二人が入れ替わって前に行ければよかったのだが、徐々に戻りつつある木に圧迫されるせいで、悠長なことを言っている場合ではなかった。
「いくよー」
アイの掛け声とともに、ガチャと扉が開く音がしたタイミングでカイとスイがアイに向かって倒れる。
「きゃ」
「重いです」
「うお……すまない」
一番上になったカイがすぐに気づいて、三人は倒れたときについたゴミを払うと立ち上がる。
「すげえな」
「ええ……」
「すごいところです」
扉を開けて入った先にあったのは、木ではなく根っこが張り巡らされた空間だった。
真ん中には、大きな人造物であろう大きな何かがあった。
「これはなんです?」
「わからないけど、根っこで縛られていることはわかるな」
「すごいね」
思わずそう言ってしまうのは仕方ないことだった。
それほどまでに、圧巻だった。
まるで物語に出てくる世界樹と呼ばれるものではないのかと感じるほどだ。
凄すぎるからなのか、思わずアイがゆっくりと縛られているものに触れようとしたときだった。
「触らない!」
アイはその言葉でビクッとして手を引っ込める。
声がしたほうを見ると、見たことがある女性がその人造物の上に立っているのが見えた。
「モリリン?」
「そう、呼ばれてる」
二つの髪色をもつ彼女は、そう言葉にすると、ゆっくりと人造物の上からアイたちの前へと降り立つと、木の棒を振るうのだった。
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