5、魔物の存在
魔物と呼ばれる存在というのは、名前の通り、魔によって以上な進化を遂げた存在たちのことを示していた。
今回の依頼も、そんな存在たちを倒すというものだった。
「依頼の内容にある、スライムとはどんな存在なのでしょうか?」
「スライムはね。本来はすごくいい魔物なんだよ」
「そうなのですか?魔物といえば、悪いものというイメージがあったのですが……」
「うん、あながち間違ってないけどね。いい魔物も存在してるんだ。その中でもスライムは、いい魔物だよ」
いい魔物。
そう言われても、チカには想像できなかった。
魔物という存在を見たことがないせいということもあったけれど、チカは自分自身が読んだ物語の多くにおいて、魔物という存在は倒すべき存在として書かれていたからだった。
だから、いい魔物と言われても、どういった存在なのだろうと考えてしまった。
だけど、チカの戸惑いをキキルはわかっていたかのように言う。
「大丈夫。深く考えなくても、見ればわかるから」
「そうなんですね」
「うんうん。だから着いてきてね」
「はい」
そう返事を返しながらも、チカたちは現在山道を歩いていた。
どうして山道なのか?
それは、魔物がいる場所に関係していた。
今回の依頼であるスライムの討伐については、生息している場所というのが、川の上流にある滝にいると書かれていた。
スライムを討伐しないといけない理由。
それは、魔物として水を汚染しているからとなっている。
どういうことなのかというのは、スライムを見るとすぐにわかることだった。
「これは……」
「驚いた?」
「はい。これがスライムなんですね」
そこにいたのは、水でできているであろう動く何か生物だった。
「そうそう、あれがスライムだよ。色が違うのがわかる?」
キキルに言われて辺りを見渡すと、色が違うスライムがいるのがわかる。
そしてすぐに違いに気付く。
「はい。通常は水色のほうなのでしょうか?」
「お!なんとなくわかる感じ?」
「はい、見た目といいますか、違和感といいますか……」
「さすがは、うちが見込んだことがあるだけはあるね。だったら、言うけど。あの茶色になっているほうが今回の討伐対象ね」
キキルがそう言葉にするので、さらに注意深く二体のスライムを見比べる。
確かにキキルの言う通り、水色のスライムというのは、水の中に入ると、茶色く汚れた水を綺麗にして排出している。
そして、逆に茶色のスライムは綺麗な水を取り込むと、茶色く汚れた水を排出している。
スライムの数は茶色のほうが多い。
そのため、汚れた水の排出が多くなり、水色のスライムだけでは汚れが取り除くことができず、その汚れた水が川に流れていったというのが今回スライムを討伐するということにつながったということは状況を見ると簡単にわかった。
「では、茶色のスライムだけを討伐するということでいいのでしょうか?」
「そうだよ。今回はそれが、依頼だからね」
「それは、わかっているのですが……」
「どうかした?」
「あの、スライムは倒せるのでしょうか?」
「うん?簡単なことだよ。魔物を倒したことがないなら、やり方を知らないだけで、見ればチカならできると思うよ」
「そうなのでしょうか?」
「まあ見てて」
そう言葉にすると、キキルはカバンから剣を取り出しスライムに向かっていく。
スライムの見た目は、水でできているように見えて、剣で斬って効果があるのか気になる。
だけど、そんなチカの心配など関係なく、キキルはゆっくりと剣を構えた。
その雰囲気から、何かをするのであろうということがわかる。
すぐにキキルは動く。
「剣技”スクエア”」
その言葉とともに剣を振るう。
すぐにキキルが自身の魔力を使って、剣技を発動したというのがわかる。
魔力によって勢いを増した剣筋が、スライムを真っ二つにする。
だけど、スライムは予想通り体は水でできており、真っ二つになったところでどこか倒したように見えない。
そんなチカの予想が当たったように、スライムは体が半分になっても少し動いている。
「今のままじゃ、倒せてないの、わかる?」
「はい」
「じゃあ、今から倒すから見ててよね」
「はい」
「ほら、これ見える?」
キキルは何かを指さしながらそう言葉にする。
なんとかチカはそれが何なのかを確認しながら言葉にする。
「玉のようなものですか?」
「うん。これがね、コアって呼ばれてるもので、これを破壊するとね」
そう言うと、キキルは剣でコアと呼んでいたものを斬って破壊する。
パキンと音が鳴り、コアは砕け散る。
これによって、再度体を形作ろうとしたスライムは動きを止め、その形が崩れさった。
「どう?わかった?」
簡単でしょと言わんばかりにキキルは言う。
見ていれば、やりたいことというのは、なんとなく理解できたチカは質問する。
「コアを露出させて、コアを壊すということでいいのでしょうか?」
「お!そうそう、そういうことだよ。わかってるねえ」
「な、なんとなく、ですが……」
なんとなくすぐに理解できたのは、本に書かれていたからだった。
好きな本である勇者が戦う物語でいろいろなことが書かれており、その中にもスライムの倒し方というのも書かれていた。
まさか、書かれていた内容がそのまま討伐の仕方だとは思っていませんでしたけれど……
部屋の中で本を読んでいた時間も、しっかりと学びになっていたということだったと考えれば体が弱かったというのも必要なことだったかもしれなかった。
しっかりと頭の中でスライムを倒すシミュレーションを行うと、茶色のスライムに向かって行く。
スライムは弱いと聞いていたこともあり、実際に動きはゆっくりだ。
チカは簡単に攻撃が届く範囲に近づくと、ぐっと力を込めて拳を構えて振りぬく。
「ふっ!」
ビュンと音が鳴り、拳は茶色のスライムに当たると、その体を粉々にした。
普通であれば、コアが出てくるであろうと思っていたはずだったが、そうならないという状況にチカは濡れた拳を見ながら不思議に思う。
「えっと、どういうことでしょうか?」
「ふ、ふははは!本当に、面白いね、チカは」
急に笑い出したキキルにチカは驚く。
「どういうことでしょうか?」
「わかんないなら、次は違うものを殴るといいんじゃない?」
「わ、わかりました」
キキルの言葉に納得したチカは、先ほどと同じように、別の茶色のスライムに同じように拳を振るう。
茶色のスライムは、先ほどと同じようにして粉々になった。
コアを破壊しなければ、倒せないと聞いていたチカは、拳を振りぬいただけで粉々になってしまったことに驚いていた。
「倒せているということなのでしょうか?」
「うん、そうだよ。倒せてるよ。魔力を感じないでしょ?」
「魔力ですか?」
「うん、うん」
キキルにそう言われるが、チカにはわからなかった。
確かに、それまであった違和感のようなものを感じなくはなっていたが、それが倒したことによるものなのかは、チカには正直自信がなかったのだ。
「魔力の流れを感じるということをあたしには、わかりません」
「そうなの?その割には、ちゃんとコアがある場所をその拳で貫いてるよ?」
「それについては、なんとなく感覚でわかるのです」
そう、これまでの修行の成果なのか、魔力が少なすぎるせいなのか、どこか魔物の中に違和感というものをチカは感じていたのだ。
だからこそ、違和感を壊すような形で拳を振るっていたのだけれど、キキルはそれを聞いて嬉しそうだった。
「ふふふ……やっぱり、チカは面白い」
キキルはそう言葉にしながらも、いつの間にか近づいてきた茶色のスライムを剣で斬ると、その剣を楽しそうにくるくると扱う。
「楽しいものを見ちゃったし、うちもちょっと張り切るよ」
「張り切るって?」
「見てて!」
キキルはそう言葉にすると、前にゆっくりと歩いていく。
先ほどの攻撃によって、茶色のスライムたちは、さすがにこちらを敵と認識したようで、その茶色の体を触手のように伸ばしてくる。
いつのまにか、キキルは右手で剣を構えながらも、触手に関しては左手の剣によって弾いていた。
「すごい……」
思わず、チカの口からそんな声が出る。
片方ずつで違う動きを完璧にこなすということが、どれほどすごいことなのかをわかっていたからだった。
キキルはそのまま、魔力を高めるのが、チカは肌がピリピリするのを感じてわかる。
先ほどまでの比ではないほどの魔力の攻撃をするだろうということがわかったときにはキキルは、剣を振るっていた。
「剣技”スラッシュ”!」
魔力を伴った斬撃は、触手を伸ばして攻撃を仕掛けてきていた茶色のスライムたち複数体を真っ二つにする。
その攻撃力と、範囲にチカは驚く。
「素晴らしいですね」
「うーん、これくらいはね。一応トップ合格者だからね!じゃ、さっさとコアを破壊するよ!」
「はい」
キキルにそう言われて、チカは頷くと、茶色のスライムたちを倒すべく二人はコアを破壊していくのだった。
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