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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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49、強者と弱者

 足が重い。

 全てが否定されたようだった。

 うまくいきすぎていた自分自身が、何もしていなかった……

 そもそも、何もなかった。


「おい……」

「うるさい、あんたは離れてよ!」

「お前なあ……」


 体を支えられているというのに、キキルが突き放すようなことを言って、思わずマモルはため息をつくが、離すことはしない。

 あれだけ心をえぐられてしまったからだ。

 マモル自身も、キキルが言っていることが全て強がりだということはわかっていた。

 強がっている理由はわかっていた。

 プライドがズタボロになってしまったからだろう。


 マモルは挫折をしまくっていただが、そのたびに立ち上がるといえばいいのかはわからないが、できることをやっていた。

 今でも、できないことのほうが多い。

 だけど、挑戦しなかったことはない。

 結局のところは心の持ちようだとわかっている。

 キキルがこんな状態になったとはいえ、マモルからすれば、かなり重要な戦力なのだ。

 だからこそ、見捨てるという選択はなかった。


「ねえ、うちってこれまで何をやってたんだろ」

「どうしたんだ、急に……」


 マモルはキキルが言いたいことがわかりながらも、そう言葉にする。

 キキルが何を言いたいのか、なんとなくわかってはいた。

 だけど、否定する気にはならなかった。

 確かに、キキルは強くなんでもできたのかもしれないし、努力というものを必要としなかったのかもしれない。

 だが、才能というものは、一つの自分自身がもっている価値でもある。

 それを否定することなどできない。

 とはいえ、何か気の利いたことを言えるわけでもなかったマモルは、口ごもるだけだったが、そんなタイミングで足音が聞こえてくる。


「誰だ!」

「うーん、誰だと言われてもわらわのことに言っておるのか?」


 そんな言葉とともに姿を現したのは、和服姿の人ではない誰かだった。

 何故人ではないのかがわかったのか、それは頭に角のようなものが生えていたからだ。

 だが、逆にいえば、人と違うのはそこだけであり、長く茶色の髪、服はこの世界では見たことがないものでありながらも、綺麗な柄が入っており、女性的な特徴が服を否が応でも押し上げており、美しい顔は切れ長の目と普通の人よりも大きな八重歯が印象的だった。


「面白そうなやつのことは昔から聞いていたからのお、見に来てやったのじゃが……」


 キキルを見た女性はため息をつく。


「もっと反骨精神(はんこつせいしん)があるやつじゃと思っておったのじゃが、仕方ないのかのお」

「なんですって!」

「おお、その威勢じゃな。あと、おぬしは?」

「俺ですか?」

「そうじゃ」

「俺は、マモルと言いますけど」

「ほほう、盾とは面白い武器をもっておるのお」


 女性は感心したように口にする。

 これまで、武器が盾と言えば、バカにされることしかなかったが、女性は違っていたようだ。

 興味深げに見ている。

 いつもとは違う視線に戸惑ってしまいながらも、横にいたキキルが何かを言うために前のめりになったのだが、言葉は続かない。

 そんなキキルに向けて、女性は落ちていた木の棒を向ける。


「おぬし、構えてみせよ」

「うちに言ってるわけ?」

「そうじゃ、先を向けているからわかるじゃろ?」


 確かに木の棒は、キキルに向いていた。

 そんなもので戦えるのかと……

 だが、女性は大きく笑う。


「わははは!なんじゃ、なんじゃ!おぬしはわらわはそんな弱くないのじゃがのお」


 女性はゆっくりと構えをとる。

 それを見ただけで、キキルはゴクンと唾を呑み込む。

 威圧感というべきなのか、口出しできないほどの迫力があった。

 キキルは装備していた剣に手をかける。


「やってやるわよ!」

「大丈夫かよ」

「当たり前でしょ」


 キキルはそう言葉にすると、マモルから距離をとって構える。

 マモルには、それが強がりだということはわかっている。

 それでもキキルには、あそこまで言われてしまえば引き下がるなんて選択肢はない。


「いくよ」

「来るのじゃ」


 刀を構えたキキルは女性と向き合う。

 そして、すぐに魔力を高めると剣技を放つ。


「剣技”一刀両断”」

「ふむ……」

「なんで……」

「これは強い攻撃なのじゃな?」


 キキルが放った剣技は、女性の木の棒で受け止められる。

 魔力を伴った斬撃を受け止めることは、同じく魔力を伴った斬撃だとキキルも見ていたマモルも思っていたが、女性は木の棒で、さらには魔力を伴っていないのに受け止めている。


「なんじゃ……普通のことを普通にやっているだけなのじゃがな」

「そんなこと、そんなこと……うちの剣技は!」

「剣技のお……」


 女性はそう言葉にすると、キキルの剣を弾く。

 体勢が崩れたとき、女性の木の棒は一瞬にして魔力を帯びる。

(死ぬ!)

 キキルは、すぐに自分が次に起こるであろうことに身構える。

 だが、女性が木の棒を使って放った剣技のようなものは、キキルの目の前で止まる。


「どうじゃ?」


 女性は簡単に言うが、今のは剣技と同じだ。

 武器を使うときに、魔力を流すというのは同じで、さらには速度はキキルのものと全く違う。

(ほんとに……)

 体から力が抜けて、キキルは尻もちをつく。


「なんで……そんなに強いの?」


 思わず愚痴が口から洩れる。


「うちは、うちは強いはずだったのに……なんで、簡単にもっと強いやつがいるのよ」

「なんじゃ、そんなにおぬしは強かったのじゃな?」

「それはだって、強い魔物も倒せて……頼りにされて、でも……」

「倒せない、通用しない相手が出てきたのじゃな。それで、おぬしはどうしたいのじゃ?」


 女性がそう言葉にする。

(どうしたいって……)

 通用しなくなってから、言われ続けている言葉だった。

 キキルがどうしたいのか?

 わからない、わからないと言葉にしそうになるが、そうしない。

 ほんの少し前であれば、何も言えないか口ごもっていたはずだが、圧倒的な力を前にして、キキルは言いたいことが決まった。


「うちは、強くなりたい。あんたを倒せるくらい!」

「ほほう、大きく出た!じゃな」


 言われた女性は嬉しそうに笑う。


「じゃが、わらわに着いてくるのは大変じゃぞ」

「望むところ!」

「ならば、わらわの名前はラスじゃ。覚えておけ、キキル」

「わかった」


 これからのことがどうなるのか、それを考えていたことで、キキルは違和感に気付いていたなかった。

 そして、急に話が進みすぎてしまったマモルも同じだった。


「行くわよ」

「お、おう」


 先ほどまでの肩を貸してもらっていた状況とは違う。

 キキルの歩きは軽快だった。

 才能が通用しなくなったが、進み始める。

 立ち止まることはもうないはずだ……

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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