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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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48/122

48、暴走

 圧倒的な力だった。

 カイたちが全く対応できなかった力を前にして、チカは上回る圧倒的な力で、サソリの魔物を破壊したからだ。


「まじかよ……」


 それしか、言葉は出てこない。

 魔物を破壊しつくしたチカは、その場で止まっている。

(何もできなかったな)

 そう考えてはいるものの、今は助けてくれたチカに言葉をかけようと考え、止まっているチカに近づいていく。

 いつもであれば、近づいてくる人に対していつものチカであれば振り向いて優しく声をかけてくるだろう。

 だが、今のチカはいつも通りではなく反応を見せない。


「お姉様ー!」


 カイを追い抜かすようにして、スイがチカに向かっていくが、抱き着く前に動きを止める。


「お姉様?」


 近づいても反応がないチカにさすがに違和感を感じていた。


「きゃはははは!」


 そして、それはチカから聞こえる笑い声によって、確信のものへと変わる。

 聞いたこともない笑い声に、スイは再度声をかける。


「お姉様……」

「きゃはははは!」


 だが、返ってくるのは、まるで憑りつかれたような笑い声だ。

 そして、チカはスイたちのほうへ振り返ると、見たことがない表情だった。

 涙を流しながらも口は曲がっており、強制的に笑っているのかピクピクと動いている。

 チカを知らない人が見れば、まるで魔物のように見えてしまったかもしれない。


「何です……あれは何です……」

「わかるわけないだろ!」


 どうしてあんなことになっているのか、二人にはわからない。

 だが、あれがよくないものだということくらいは二人にはわかる。


「きゃはははは」


 笑いながらチカはゆっくりとカイたちに向かってくる。


「どうする!」

「お姉様!」


 どうするべきか悩むカイに対して、スイは我慢できないという感じでチカに向かっていく。

 そのまま、手を取ろうとしたとき、圧倒的な魔力を前にスイの手に傷が入ると、距離をとる。


「大丈夫かよ」

「スイは大丈夫です。でも、この魔力は危険です」

「わかってる、そんなことはな」


 体に魔力が纏わりついていて、まるで針のようだ。

 これだけの魔力ということは、チカにも影響があるだろう。

 何がどうなっているのかは、二人にもちゃんとわかっていない。

 それでも、何かはしないといけないことくらいはわかっているが、暴走したチカは止まることはなく、そのまま何かを発見したのか急に姿が消える。


「何です!」

「魔物だ」


 姿が見えなくなって、魔力を辿って場所を確認すると、そこにはチカがすでに魔物を破壊しているのが見えた。

 まるで怪物だ。

 見ていたチカとスイは息を吞む。

 それほどまでに圧倒的な破壊力だったからだ。


 魔物を殲滅(せんめつ)するためだけに、動いているのではないのか、そう考えてしまうほどだ。

 魔物はどこにいたのか、大量に溢れ出ている。

 まるで、これまで溜めていたものを吐き出すかのようだ。

 だが、その魔物はすぐにいなくなる。

 圧倒的な力を、チカは見せつけていた。


 ※


(あたしはどうなっているのですか?)

 黒い(もや)がかかった世界で、チカは目を覚ます。

 体には、その靄が纏わりついている。

(声は出ないですね)

 頭に考えて、必死に言葉を口にしようとするが、その口には同じように黒い靄がかかっていた。

 意識を取り戻したことを待っていたかのように、目の前には映像が映し出される。

(これが、あたしですか……)

 映像では、魔物を手、足、口の全てで破壊している。

(これでは、どちらが魔物なのか、わかりませんね)


 どうしてこうなったのか、チカにはわかっていた。

 自分自身が魔力を引き出すことができるのは、感情の高ぶりだった。

 それも強い強い怒りと憎しみの……

 普段は出すことがないからこそ、感情を引き出したときに力は制御を超えて暴走した。

(力を手にしようとすること自体が間違っていたのですね)

 カイが魔物に吹き飛ばされることで、魔力を引き出すために自分の中で制御しようとしていたが、無理になってしまった。

 自分自身のことだからこそ、わかってしまう。

(魔物を全て壊すまで止まらないのですね)


「くふ、わかっているんだ」


 そんなときに声が聞こえる。

 黒い人の影が喋っている。


「ふひ、何かをいわなくても、あなたが言いたいことはわかる。あれを止めたいってことだよね?」


 黒い人は、自分だということをすぐに理解する。

 口調は確かに違うが、わかってしまう。


「ねえねえ、どうして嘘をつくの?」

「……」

「ねえ!ねえ!」

「うるさい!」


 チカは感情を高ぶらせる。

 自分自身が一番言われて嫌なことを言葉にする。

 わかっていることだが、黒い靄を嚙みちぎり口から出た言葉は怒りだった。

 それに呼応するかのように、外でチカは暴れる。

 だが、タイミングが悪かった。


「あ、やりすぎちゃった」


 勢いよく叫び、さらに怒りを引き出したところで、意識が遠のいてしまったのだ。

 まるで耐えられないというように……


「今は、これくらいですね。今はまだね」


 もう一人のチカはそう言葉にする。


 ※


 圧倒的な力を見ていたクロは考える。

(これが、感じていた力か!これならば、我らは殺せるな)

 昔、自分たちがまだ魔法戦争をしていたころ、一度だけ会ったことがある理解できない存在。

 それとよく似ていた。

 だからこそ、クロは確信する。


「これなら、我らを全て殺せる」


 だが、その言葉はチカには聞こえない。

 新たに出現した魔物を破壊しつくすと、まるで力が抜けたようにパタンと倒れてしまったからだ。

 それでも、クロからすればようやく確信に変わったことに笑顔がこぼれるのだった。


読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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