47、力の引き出し方
「なんだよ、こいつ!」
「見たことありませんです。それに、そんなこよりも、お姉様がどこに行かれたのかを、今は探したいです」
「そんな悠長なことを言える相手なのかよ……」
カイは油断なくそう口にする。
それほどまでに、目の前にいる魔物が、強いことがわかっていたからだ。
「キキキ……」
魔物は気持ち悪く声を出す。
その見た目は、サソリというものを大きくしたものだったが……
凶悪なハサミと背中には、絶対に逃さないためなのか尻尾のようなところには、かなり大きな針がついている。
「どう考えても、あの針とハサミが凶悪だな」
「そんなことよりもお姉様はどこに……」
「いやいやいや、だから言ってるだろ!今はこいつに集中しろって!」
「あー、もううるさいです」
スイは、一度見渡していたのをやめて、目の前にいる魔物に目を向ける。
目を細めて、スッと構えをとる。
魔力を高めて、魔法を使おうとしたのだが、それよりも速くサソリが動く。
「キキキ!」
「速い」
「くそ、守りの壁”プロテクト”」
魔法使いである二人では、そのスピードにはなかなか対応が難しい。
よって、できることはカイが慌てて魔法による盾を作りだすことなのだが、サソリは壊すようにそのハサミで壁を破壊する。
「ちくしょ、時間稼ぎにもならねえ」
「大丈夫です。水魔法”ウォーターブレイド”」
とはいえ、少しの時間稼ぎさえすれば、スイからすれば魔法を使うのは簡単だった。
下から上へ、腕を振り上げるのと同時に魔法を発動することによって、水を高圧で射出した剣だ。
これによって、斬れないものでも斬ることができるというものであるが、今回のサソリは強さが違っていた。
スイの魔法が危険だと気づいたのだろうか、そのハサミを体を守るように構えると、そこにスイの魔法が当たる。
ドゴっという音とともに、サソリに魔法が当たる。
衝撃と、水魔法だからか煙が出てサソリが見えなくなる。
「どうなったです?」
「わからないな。でも、油断はできない」
「そうです?」
スイは自分の魔法が防がれるということは考えていない。
切り裂いたと考えていたが、カイは油断していない。
自分自身が攻撃できるような魔法を使えないからということもあるが、絶対というものを信じていないからだ。
姉が病気になったとき、それを治すときに嫌というほど、絶対などということがあり得ないことだと思い知らされた。
そして、その予感は当たっていた。
「キキキ……ギギギ……」
両手のハサミはなくなっているものの、倒せてはいない。
そして、魔物というのは、周りの魔力を取り込むことでコアを破壊しない限り再生することができる。
このサソリの魔物も例外ではない。
とはいえ、大きなサイズの魔物であればあるほど、体を作り直すほどの再生となれば相応の魔力が必要になる。
「おい」
「わかってるです」
再生される前に、畳みかけないといけない。
声をかけられたスイは、慌てて再度魔法を放つように魔力を溜める。
だが、サソリも先ほどのことで学習している。
自分自身がやられることがないようにと、今度は尻尾の針を向けてくる。
そして、そこからは勢いはなくとも何か液体噴出してくる。
集中しないといけないこともあって、あまりその場から動くことができないスイに対しての攻撃だった。
「守りの壁”プロテクト”」
とはいえ、カイがいる。
魔法によってできた壁で、防ごうとするが、液体は壁につくと簡単に溶かしてしまう。
「まじかよ」
「使えませんです」
壁が簡単に破られてしまった以上は、その場にとどまっていることはできない。
スイは素早く判断すると、魔法の発動をやめる。
(威力は低くなってしまいますが、仕方ないです)
スイは、溜めていた魔力で違う魔法を発動する。
「水魔法”ウォーターキャノン”」
あのときから、魔法の扱いがかなりうまくなっているスイは、昔は失敗した魔法であっても簡単に使うことが可能だ。
この魔法はあの時よりも威力も規模も高まっている。
ただ、一点集中のウォーターブレイドと違って威力としては低かった。
魔力で固めた水の塊は、サソリに当たったが、その巨体を吹き飛ばすことができる威力しかない。
「まじかよ……」
「わかっていたことです」
先ほどのウォーターブレイドでハサミしか吹き飛ばせなかったことから、なんとなくわかっていたが、予想よりもさらに外皮は硬いということなのだろう。
「おい、それ……」
「魔法を使うため、仕方ないことです」
カイは、スイの現状を見て、思わず口にする。
魔法を放つときには、少しでも暴走をしないようにするために集中する必要がある。
よって、何度も練習した魔法であっても発動するときには条件がある。
スイもそれは例外ではなく、止まって魔法を発動していた。
そのときに、サソリが出した液体に体が触れてしまったのだ。
服を着ているおかげで、被害はあまり大きくはないが、それでも手のひらなど、服がない場所には火傷のような傷痕ができてしまう。
「回復魔法”ヒール”」
近づいて、カイはすぐに回復魔法を唱える。
落ち着ける状態ではなく、戦闘中ということもあり、詠唱をしない本当の魔法を使いこなせていないため、カイは詠唱する必要があった。
ゆっくりとスイの体は治っていく。
だが、回復を悠長に待ってくれる相手ではない。
「ギギギ、ギャギャ、キキキ」
サソリの魔物は、その体から魔力を溢れさせる。
何が起ころうとしているのか?
それは、すぐにわかった。
サソリは脱皮するように真ん中が割れると、中から先ほどよりも小さくはなったが、同じ魔物が出来上がる。
「何です?」
「わからない。嫌な感じはするけどな」
すぐによくない気がして、二人は警戒していたのだが、次の瞬間にはカイの体が宙を舞っていた。
※
「なんで、ですか!」
「力を引き出せないのなら、あれに挑むのは無茶だからだと考えているからな。この大魔法使い様はな」
チカは、二人がサソリ型の魔物と戦い始めたときには、クロによって見えない壁に捕らえられていた。
詠唱を必要としないから、気づいていなかった。
戦っているのだから、加勢しないといけないことはわかる。
だが、チカには壁を破壊するようなことはできない。
力を引き出す方法……
チカには心当たりは確かにあった。
ほんの少し前、シシルと戦ったときにチカは自分にはないはずの魔力があふれ出すのを感じた。
なんで魔力が高まったのか……
わっているはずです。
ですが、抑えられるのですか、あたしに……
集中する。
感情を引き出す。
憤りを頭に浮かべていく。
少しずつ体がポカポカと温まっていくのがわかる。
どうして、あたしはいいタイミングで何もできないでいるのだろう。
何も救えてなどいない。
中途半端であり、さらにいえば、みんなが期待しているようなこともできるのかわからない。
何もない存在。
それでいいの?いいわけない!
自分自身に対して怒りが湧く、抑えようのない怒りが……
そのタイミングでチカの耳に焦ったような声が聞こえた。
「おいおい、なんだこの魔力は!」
クロは驚き、そして嬉しそうに言葉にする。
だが、チカにはそんな声は入ってきていない。
すぐに壁を圧倒的な魔力で破壊すると、駆けだした。
サソリの魔物が、カイを吹き飛ばし、それを空中でなんなくキャッチする。
「いてえ……すまない、チカ……」
「……」
いつの間にか助けてくれたチカに、カイは礼を口にするが、言葉が返ってくることはない。
思わずカイはチカを見ると、そこには見たこともなく怖い表情をしているチカがいた。
息を吞むカイをチカは地面に下ろすと、サソリの魔物へと近づいていく。
脱皮したおかげか、先ほどよりも動きが速い。
相手に対応するかのようだ。
だが、チカは気にすることがないように近づいていく。
「あぶねえ!」
カイは思わず口にするほどの勢いで、サソリはチカへとそのハサミをアームハンマーのごとく振り下ろしたのだが、片手で受け止めた。
そして、受け止めていないほうの腕でハサミを殴る。
ドンという衝撃とともに、サソリの体はチカが握っていたハサミを残して吹き飛ぶ。
「まじかよ……」
「さすがはお姉様」
二人の驚きの声は当たり前の反応だ。
とはいえ、チカが止まることはない。
吹き飛んでいったサソリに素早く近づくと、さらに攻撃を仕掛けようとする。
だが、サソリもわかっているのか、液体をチカが通る場所を予測して発射するのだが、それは持っていたハサミによって防がれ、今度は捕らえるためにハサミを広げて攻撃をするが、今のチカには悪手だった。
「ギャギギギ……」
「あはははは!」
チカから楽しそうな声とともに、ハサミは閉じられることなく、逆に広げられて破壊されてしまう。
「きゃははは!」
破壊したことによって、チカはさらに魔力を高めるとサソリの体を殴っていく。
何度も何度も……
サソリが壊れてしまうまで……
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