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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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45/122

45、敵と力

 大剣を振るうシシルに対して、チカは避け続ける。

 剣技を発動するわけでもなく、シシルは緩急をつけているだけだ。

 まるでチカの強さを測っているかのように動きだ。


「ふーん、なかなかいい動きを見せるねえ」

「そうですか?満足したのであれば、引き上げてほしいのですが……」

「えー、やだやだやだ……まだ楽しんでないもんね」


 シシルは楽しそうに笑うと、大剣をチカに向ける。

 まだまだやる気のようだ。

 少しの手合わせだけで、チカもシシルもお互いにそれなりの実力があるということを理解した。

 チカは、実力がわかったのだから引き返してほしいと考える。

 まだ、モリリンと話がしたいからだ。

 それに対して、シシルはまだ強さに余裕があるチカともっと本気の殺し合いを行いたいと思っていた。

 自分自身の強さを見せつけるという意味でも、これまで裏で大人しくしていたときの鬱憤(うっぷん)を晴らすという意味でも戦うことをしたいのだ。


「お姉さんと、あたいは目的が同じじゃん?だから、目的のためなら戦う必要があると思うんだ」

「そうかもしれませんが……」

「いいよ。戦わないっていうのなら、あたいらがやることの妨害はしないでほしいなあ」

「わかりました」


 シシルの言葉によって、チカは覚悟を決めて構えをとる。


「そうこなくちゃ」


 シシルも嬉しそうに大剣を振り上げた。

 これによって、第二ラウンドが始まる。

 シシルの大剣には、最初と違って魔力が宿っているのがわかる。

 それに、どういう原理なのか、刀身が赤くなっている。


「すごいっしょ。あたいが生み出した、剣技とは違うもの」


 シシルはそう言葉にして、大剣を振ってくる。

 先ほどよりも速いとはいえ、何度も見ていることもあり、避けるのは簡単だったが、当たっていないというのに近くに刀身がきたというのだけで体に熱気が伝わる。

 すぐに、刀身が赤い理由がわかる。


「火ですか……」

「おー、すぐに気づいちゃうとはすごいね」

「魔法を剣に乗せているということですか?」

「うんうん、少し違うね。当ててよ。斬られる前に!」


 シシルはそう言葉にすると、さらに大剣を振るうスピードを速くする。

 しかも、チカの考えていることがわかっているかのように、変化を交えてくるのだ。

 さすがのチカも、攻撃のパターンを変えてくるとは思っていなかったため、少し戸惑う。


 いくつかの攻撃はどうしても腕で弾く形になってしまい、弾いた腕がジュッと音が鳴って火傷(やけど)になってしまう。


「どう?あっちっちになっちゃったね」

「ええ……かなり熱いですね」

「だったら、魔力を使って防いでみたら?」


 シシルはそんなことを楽しそうに言葉にする。

 とはいえ、チカからすれば無理なことだ。

 魔力がないのだから……

 実際には魔力を宿すことは可能ではあるのだが、チカはそのやり方がわからない以上、使えないのと同じだ。


「どう?引いてくれる?」

「嫌ですね」

「ええー、お姉さんは意外と強情だね」

「褒めてるのですか?」

「当たり前。あたいのお姉はさあ、全然そういうところが弱いからさあ……打たれ弱くて」


 シシルはそう言うと、肩をすくめる。

 チカはシシルがキキルの妹だということは知らないが、思わず言葉が口からでる。


「弱いのはいけないことではありません。打たれても、這い上がればいいだけですから……」

「ふーん……そういう解釈をする人なんだ」

「いけなかったですか?」

「ううん、お姉さんはいい人なんだね」


 うんうんと、わかったようにシシルは頷く。

 チカには、その意味がわからなかったが、違うことはなんとなくわかった。

 それは、話しながら少し考えていたこと……

 そう、大剣が赤くなっている理由だった。


 武技を扱うのに必要なことの一段階として、魔力を武器に宿すことというのがあるが……

 そこに火の魔力を込めているのが、やっていることなのだろうと考えた。

 よく見ると、髪には赤色が混じっているのだが、チカはそれが属性の魔力を持っていることを知らないが、魔力に火が宿っていることくらいはわかる。

 ということはだ……


「全ての魔力に火を纏わせているということですか?」


 チカがわかったと口にすると、シシルは嬉しそうに笑う。


「さっすが、お姉さん。初見で、あたいのこれをある程度理解するなんて、さすがだね」

「わかったところで、防ぎようがありませんが……」

「ええ?なんで、頑張ってよ。じゃないと殺しちゃうじゃん」


 大剣を再度振りかぶると、シシルは笑う。

 そして、次にはチカに一瞬で近づくと突きを放つ。

 完全に意表を突かれたチカは避けられない。

 なんとかして傷を最小限にしないといけないと考えて体をひねろうとするが、いつの間にかモリリンの近くに誘導されてしまっていたため、避けてしまうことで、大剣は真っ直ぐにモリリンに向かっていくだろう。

 どうするのが、正解なのか……


 考えてもわらかない。

 とはいえ、避けることはできない。

 であれば、受け止めるのが正解なのかと言われてしまえば、それも難しいだろう。

 なんとかしないといけないことはわかっているものの、できるとはいえないチカだった。

 どうしますか?どうするのがいいのですか?

 自問自答するが、わからない。

 迫る大剣に、為す術(なすすべ)がない。

 そう考えていたとき、シシルが嬉しそうに言葉にする。


「あー、お姉……あのキキルよりは強かったよ、お姉さん!」


 そして、大剣は避けられないチカを貫いて……いるはずだった。


「はあ?」


 だが、大剣はチカの手によって完全に握られていた。

(何?意味がわかんないんだけど、さっきまで、何にも感じなかったじゃん)

 シシルは戸惑う。

 わけがわからなかったからだ。

 殺せると確信したのに、目の前にいた女性から急に魔力が溢れ、火を纏って熱くなっている大剣を容易くつかんでいたからだ。


「意味わかんないんだけど」

「そうですか……」


 先ほどまでとは違い、チカは不機嫌だった。

 キキルの名前を聞いてしまったからだ。

 チカに湧き上がるのは怒りだった。

 キキルのことをバカにするシシルに対しての強い怒りだ。

 それによって、感情が揺さぶられたチカには、呼応するかのように魔力が溢れている。


「あー、もう面倒くさい!」


 だが、シシルも判断は速い。

 完全なイレギュラーの存在に、これ以上の戦闘は不要だと考えて、大剣から手を離してしまう。


「逃げるんですか?」

「うん。こう見えても、あたいは自分のことをよーくわかってるの……だから、今回はここまで!じゃあ、ドロン!」


 そして、ポケットから取り出した何か玉を地面にたたきつける。

 すると、辺りに煙が巻き上がると、シシルの気配が消える。

 チカは掴んでいた大剣をその場に下ろしたと同時に、自身も体から力が抜けていく。


「あれ……」


 気づけば、チカもゆっくりとその場に倒れてしまうのだった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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