41、お互いの距離
「キキル、大丈夫ですか?」
「大丈夫だって、ちょっと背中はじんじんするけど」
「でも、血がついてますよ」
チカはキキルの背中から血が出ているのを見て、心配する。
だが、キキルとすれば、先ほどの力の差を見てしまえば、心配されていることがどこか恥ずかしいことだと感じてしまっていた。
「う、ゔゔ……」
「大丈夫ですか?」
うめき声によって、もう一人倒れていることに気づいたチカは、慌てて声をかける。
キキルを助けることに集中していたこともあって、マモルの存在を忘れていたのだが、こちらはキキルよりもさらに血が流れていた。
どうするべきなのかを、チカは考えた。
怪我を治せるようなものといえば、唯一カイの回復魔法だと考えていた。
回復薬というものもあるのは、チカも聞いていたが、多くのそれは怪我を回復させるものというよりも体力を回復させるというもので、味も美味しくないと聞いていた。
ここから最短で迷宮から抜けることができれば、カイの元へなんとかいけるかもしれないが、間に合うかはわからない。
キキルは逆にここまでの傷であれば、治ることはないと、諦めた様子でマモルを見ていた。
そんなとき、急に音が聞こえて、チカとキキルは警戒するが、それが誰かの足音だということに気づいてチカは先に声をかける。
「誰かいますか?」
声が届いたのか、歩いていた誰かはガサッと音が鳴ると慌てて出てきたのは、少女だった。
「あの、その……すみません……」
少女は謝ると、持っていた木の棒を振るう。
すると、魔法だろうか、地面から木が生えてくると、何か実をつけた。
クロたちが使ったのと同じの、詠唱をしない魔法ですね。
それを見たチカはすぐになんなのかを理解するが、キキルは初めて見るそれに、驚く。
「な、何なの、これ?」
とはいえ、警戒は余計に強めて生み出された何かを指さすと、少女は震えながら何かを口にする。
だが、キキルには聞こえないほど小さな声だった。
「えっと、何?」
再度聞き直すと、少女は体をビクッと震わせてから聞こえる声で言う。
「あの……その……これは、魔果実と……いうもの……で……あの、これを食べ……れば、簡単な……傷くらいは……治る、から……」
途切れ途切れではあったが、そういうことらしい。
とはいえ、キキルとすれば、急に魔法で作り出した果物を食べろと言ってきたのを理解できなかった。
「そんな危険なもの、食べられるわけないでしょ!」
すぐにキキルは怒鳴りつけるが、チカは逆にその木に近づくとなっていた実をもぎ取ると、口に含む。
「チカ!?」
「大丈夫ですよ」
もぐもぐと口を動かしながら、実を食べるチカを、キキルは大丈夫なのかという目で見るが、問答無用でゴクンと飲み込む。
味はあまりしないが、毒がある感じもしない。
「毒もないですよ」
「食べてから言わないでよ……まあ、食べさせて見るけど」
急すぎることで、さすがに呆れながらキキルはなっていた実を一つマモルに食べさせる。
痛いのか、目を開けることもなく呻いていたのだが、実を口に持っていかれると、会話は聞こえていたのか口に含むとゆっくりと咀嚼する。
すると、かなりの変化が起こる。
食べるごとに、マモルの体は少し光っているように感じる。
これがなんなのか、チカもキキルも理解する。
魔力だ。
実を食べることで、魔力が体にめぐっている。
そして、魔力がめぐることによって体も活性化したのか、傷が治ったようで、マモルの息も落ち着いてくる。
「もう、大丈夫だ」
先ほどまで呻いていたのにも関わらず、食べれば、その効果は絶大だった。
「すげえな、これ……」
それには、食べたマモルも思わず口にするほどだ。
とはいえ、これを作りだした少女というのは、まだびくびくと怯えているが、すぐにチカが声をかける。
「ありがとうございます」
「あ、その……いいえ、こちらが……その……迷惑を……かけちゃったので……」
喋り方はゆっくりではあるものの、先ほどとは違って言っていることはわかる。
だが、聞きにくいのは確かなので、キキルが少女に声をかける。
「結局、どういう状況なの、これって」
「あの……その……」
どう説明していいのか、うまく考えがまとまらないのだろうか、少女が口ごもるが、冷静に状況を見ていたチカは、なんとなく状況を察して口を開く。
「たぶんなのですが、あなたは迷宮を作りだした、大魔法使いと呼ばれる存在ではありませんか?」
「だ、大魔法使い?だ、だれが……言っていたの?」
「クロさんと言う方が……」
「そ、そう……だったら……わかると思うけど……同じであってる……」
「そうですか……」
少女の言葉を聞いて、チカはすぐに納得する。
だが、キキルとマモルは理解できるはずもなく、ツッコミをいれる。
「ちょちょちょっと、チカがわかってもうちにはわからないんだけど」
「そうなんですね。では、教えなくてもいいですね」
「ちょっと、なんで!」
「それは、キキルがわかっていますよね?」
「!」
チカに言われて、キキルはバツが悪そうに表情を歪める。
思い出すのは、最初の街でキキルを決闘で倒して仲間から外れさせたことだろう。
だから、チカに言われてしまえば、それ以上何かを言う資格がないことをキキル自身わかっていた。
いつの間にかできてしまった差に、キキルはどうしようもできなくて、持っていた刀をチカに向ける。
「何ですか?」
「チカ……決闘して!」
「あたしにメリットはありませんよ」
「チカが勝ったら、うちのことを好きにしていいから!」
「お、おい」
「マモルは、黙ってて!」
マモルが何かを言おうとしたが、キキルがそれを止める。
焦って、自分でも間違ったことを言っているのはわかっていた。
それでも、ここでチカに近づくためにはやらないといけないことだと考えたからだ。
「そうですか……」
チカは戦うことになったことで、少し残念そうに言葉にすると距離をあける。
余裕そうな態度に、キキルは少し苛立ちながらも、同じく距離をあける。
お互いに向かいあったところで、構える。
「あのときと同じでいい?」
「あたしは構いません」
あのときと同じように、コインが投げられる。
そして、勝負は一瞬でついた。
「かは……」
一撃をもらって膝をついたのだった。
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