38、駆け抜ける悩み
「それで、ここに来たのか」
「はい。ダメでしたか?」
「いや、いろいろと言いたいことはあるが、今後についての相談だな?」
「はい。簡単に言えばですが……」
チカは先ほどまでのことを話した。
本当はこれまでの悩みを考える時間にしようと思っていたはずなのに、気づけば考えていることが無駄であるかのように、物事が動いていた。
だが、チカも別に悩みがあるなどということは、言わないが……
「チカは、これからどうするんだ?」
「まだ、考えがまとまっていませんが、中央都市など他の場所へ行って、他の迷宮をあたってみようと考えています」
「どうしてだ?」
「あたしたちは、まだ迷宮のことを知らなすぎるということもありますが、迷宮を作り出している大魔法使いと話すことで、何かを得られないかと考えています」
「そうか……」
「はい」
アンノに出会うことで、深く考えるよりも行動するのが大事だということがわかったからだ。
そして、自分自身がどういう存在であるのかを知るためにも行動は必要だった。
「早速、明日には出発します」
「そうか、だったらあれもどうにかしないとな」
ギルドマスターはそう言葉にすると、部屋の扉を開ける。
すると、盗み聞きをしていた、カイとスイが倒れこむ。
「ちょっと、あなたがうるさいからです」
「いや、僕が悪いのか?」
二人はギルドマスターとの話が始まってすぐには扉に張り付いているのは、チカも当たり前のように気づいてはいたが、それはどうやらギルドマスターもだったらしい。
倒れた二人を呆れた表情で見る。
「お前らなあ……話し合いの同席を断ったのに盗み聞きするなよ」
そう、この話し合いについては、二人も同席をお願いされたのに、断ったのだ。
理由は、スイがお姉様が話しやすい状況にしたほうがいいのではと思ったからだ。
とはいえ、内容は気になるので、こうやって盗み聞きをしたという結果だったのだが、あまりいい行いではなかったが……
「心配されているということですね」
「ま、チカが気にしないならいいけどよ」
「そんなことで、あたしは気にしませんが、スイは屋敷に帰らなくて大丈夫ですか?」
「お姉様、そんな心配を!ですが、大丈夫です。スイはお姉様と行動を共にするようにと言われていますです」
「そうなんだ」
チカは聞いていなかったが、スイはすでにカイズから何かを聞いていたということなのだろう。
「えっと、カイは?」
「え?僕だって、さすがについていく。あいつとの決着もあるしな」
カイが言うのは、ヘリクツのことだろう。
確かに、男はチカのことを目の敵にしていたが、カイとすれば最後にあの顔を一撃も殴ることができなかったのは心残りだと考えていた。
チカと一緒にいれば、あいつと再会できる可能性はある。
「わかりました。それでは、一度戻りませんか?」
「ですです」
「そうだな」
時刻はすでに夜になっている。
三人は、アイが待つ家に帰るのだった。
次の日。
朝から準備を整える。
「よし、行きますよ」
「ああ、それは理解できるが……なんだ、そのでかいカバンは?」
「大きいですか?」
「ああ、だがチカが持てるなら軽いか……」
「持ってみますか?」
カイはチカが軽々と荷物を持っていることから、いつものように背負っている大きなカバンが軽いと考えて受け取ったのだが、持つことはかなわず、簡単に地面に落ちる。
「はあ?」
「どうかしましたか?」
「いや、重すぎるからな。これを簡単に持てるとか、おかしいだろ!」
「そうですか?」
「さすがです、お姉様」
カイでも、一応は持つことは可能であったがチカのように軽々とはいかない。
(本当に、どこからそんな力があるんだ?)
思わずそう思ってしまうくらいには、カイからすればチカの体が気になった。
だが、カイがジロジロと見ていたせいだろう、スイが邪魔をするようにして割って入る。
「お姉様、行きますです」
「う、うん」
グイグイと来るスイにチカは戸惑いながらも、再度カバンを軽々持ち上げると背負う。
ようやく出発である。
今回は、チカだけではなく三人で中央都市へと向かうため、馬車に乗ることが決まっているはずだが、チカがカバンを背負っているのには理由があった。
「本当にいいのか?」
「はい。体を鍛えるためですので」
「頑張ってくださいです、お姉様」
そう、馬車が進むのと同じようにチカもカバンを背負って隣を行けば、少しでも体を鍛えることができるのでは?と考えた結果だった。
思い立ったが吉日で、チカはそれを実行しようとしていた。
そして、三人での旅は始まるかと思ったが、実際には違った。
何が起こったのかを、カイはわからなかったが、スイは笑顔でそれを見ていた。
というのも、馬よりも速くチカは走っていったからだ。
ポカンとするカイだったが、一瞬にして去っていったチカに追いつくことは無理だった。
チカはチカで、いつもより体が動くことに驚いていた。
これは、どうしてですか?
自分の体の感覚が変わっている。
少しではあっても、走ることで、違いには気づいた。
これは、チカの体に魔力が一時的宿ったことによって、魔力で強化した体で動いたことによるものだった。
あのときにしていた、魔力によって強化した感覚が未だに体が覚えているからだ。
だが、チカにはどうしてなのかはわからないが、重要なことはあった。
これでまた一つ強くなれるというものだった。
こうして、チカはもし先に行けた場合の待ち合わせ場所である、帰らずの森近くに来ると、あるものを発見した。
「馬車ですか」
誰かがいるのか、馬車が置いてあった。
人は誰もいないということは、ここまで来た人というのは、帰らずの森へと入っていったということなのだろう。
「まだ、来るまでには時間がかかりますよね」
チカは、中に入るかどうかの考えをすぐに決めると、持ってきていた荷物から馬への食べ物を出すと与えるとカバンを置いて森の中に入るのだった。
修行開始と小さな声で呟いて……
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