36、わからない力
「ねえ、チカちゃんは何をこれからするの?」
「どうしてですか?」
「チカちゃんにだけは何も視えないから、気になってねー」
アンノにそう言われても、チカは正直わからなかった。
何をするかは、考えていませんでしたが、一つだけあるとすれば……
「もし、できることでしたら、物語の勇者になってみたいです」
「勇者?」
「はい」
アンノは、チカが言ったことに対して、思わず聞き返してしまう。
チカは考えていた。
笑われるかもしれないですよね、こんなこと……
だが、アンノは違うことを考えていた。
(勇者ねー……何も未来が視えないからこそ、チカちゃんだったら、なんでもできるかー……うん、若いっていいなあ)
「いいと思うよ!」
「そうですか?」
「うん、もちろん」
バカにされるわけでもなく、楽しそうに認められたことにチカは驚いた。
物語に出てくる勇者にこれから少しずつ近づくはずなのだから……
そう考えていたときだった。
「ちょっと、お姉様から離れなさいです」
「お、おい、勝手に行くなよ」
「何を言ってるです?お姉様が、知らない人と二人きりなどと考えただけでスイは、スイは……」
スイとカイの二人がやってくるが、驚いていたのはアンノだった。
「んー?見えているのかなあ?」
「何を言ってるです?見えているですよ」
「んー?」
アンノは魔法で見えなくなっているはずではあったが、どういうわけかスイたちには見えている。
これには、チカと一緒にいるからであったのだが、アンノは気づいていなかった。
仕方ないことではあった。
魔力を消せる存在に千年間一度も出会ったことがなかったからだ。
よって、アンノが視ていた未来も変わる。
それはよくないほうになのか、それともいいほうなのにか……
だけど、今回はよくないほうだったのかもしれなかった。
「おいおい!いるじゃねえか!」
今度はそんな声が聞こえる。
憎悪がこもったような、それはどこか聞き覚えがあるような気がしたが、チカには思い出すことはできなかった。
「おい!なんで、ポカンとしてんだ。忘れたとは言わせんぞ!俺様の屋敷を破壊しやがったのによ!」
だが、その言葉によってチカには男が誰なのかわかるが、男の周りにいたはずの部下たちがいない。
いるのは、フードを目深にかぶった女性と思われる姿をした人たちだけだった。
それを見て、一番の因縁があるカイが怒鳴る。
「どうして、ここに来やがった!」
「おいおい、雇い主様になんて言葉の聞き方だ?」
「お前の下で働いてことは、僕にとって汚点だ」
「おー、言うじゃないか言うじゃないかよお。まあ、死ぬまでの戯言だと受け取っておくよ」
「何を……」
一度負けている男の言い分としては、あまりにも自信満々な言いぐさにカイは何を言っているのかわからなかったが、アンノは見えているものが違うのかチカにだけ聞こえる声で言う。
「気を付けて、あの三人は強いよー……」
「はい」
魔力では相手の強さはわからないながらも、こういう状況で微動だにしない三人を見ていると、チカだって相手が強いのはわかる。
歩いていたときの動きから、武器は持っていませんね。
そうなると、魔法使いということですか……
「おい、任せたぞ」
「ええ、もちろん」
フードを被った女性たちが、前に来る。
三人のうち、真ん中の女性がチカたちに語り掛ける。
「すみません。これも仕事なので……これからあなた方をボコボコにさせますね?」
表情が見えないながらも、チカたちは警戒したタイミングで女たちは動きだす。
ゆっくりとした足取りながらも近づいてくると、手には氷の剣、青い炎の剣、雷の剣が握られる。
詠唱もなく、見たことがない魔法にチカたちは驚くよりも警戒をさらに強めた。
「驚いてくれませんね?」
「なんだ?本当の魔法を使えるとでも、言いたいのか?」
「これを知っているんで?」
「ああ……」
カイたちが知っているのは、大魔法使いと呼ばれたクロから、本当の魔法と呼ばれたこの存在を知っていたからだ。
とはいえ、女性たちはチカたちの見た目からすでに油断をしていない。
普通は見ることがない黒髪の少年と、澄み切ったような青の髪の少女と、これまで一度も見たことがない白い髪の少女と、同じく見たことがない髪の色をした少女だ。
魔法の適正と髪の色が連動していることは、わかっていたからだ。
だが、女たちはそれでも強さに自信を持っていたのだが、近づいていくと、手に持っていたそれぞれの剣が乱れる。
「なに?」
慌てて魔法を解除しつつも、距離をしっかりととる。
女たちは魔法に絶対の自信を持っているからこそ、普段とは違う事象が起こったことによって動揺した。
だが、それはカイたちも同じだった。
元々戦う魔法がないカイではあったが、他の魔法は使うことができる。
だからこそ、少しでも戦力になるべく気づかれないように魔法を使おうと用意していたのだが、それは無駄だった。
どういうわけか、魔法というよりも魔力がうまく扱えなかったからだ。
とはいえ、全員がこの状況を知らないというわけではなかった。
スイだけは、この状況を懐かしく思っていた。
(お姉様、さすがです)
いつかの魔法暴走を止めてくれた時に感じた、魔力を鎮めるような何かが辺りを満たしていたのを肌で感じていた。
「どうです?やりますか?」
スイは、自信満々に言ってのけるが、女たちは予想外の事態に舌打ちをする。
「いいや、ここは引く」
「そうです?」
「ああ、しつこい」
「お、おい!契約が違うぞ!」
この状況がわからない以上は、無理をしてはいけない。
よって、早々に引こうとしたのだが、それをよしとしなかったのが、ヘリクツだ。
大声をあげながらも、女たちを叱責する。
だが、女たちは止まらない。
無視をするようにして、踵を返して去っていく。
「お、おい!く、くそ」
さすがに一人でなんとかできるとは思っていなかったヘリクツは慌てて女たちを追いかけていく。
「何がしたかったんだ、あいつら……」
カイの口からは、そんな言葉が漏れると同時に緊張の糸が切れたと同時に、カイは魔力が元に戻っているのを感じる。
どういう理由で、魔力が消えたのかはわからないが、楽しみが余計に増えたアンノは口元に笑みを浮かべると、チカに言う。
「また、会おうねー」
「え?」
どういう意味ですか?
そんな言葉を振り向いて言おうとしたが、そこには誰もいなかった。
チカはそれに驚きながらもスイたちに合流するのだった。
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