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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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35/122

35、名前

 狙われているなどということを全く知らないチカは、女性と二人で歩いていた。

 すでに二組がチカのことを狙っているのだが、二人は出会うことはない。

 これは、何もかもが見えているため可能だった。


「あの……」

「どうしたの?」

「これから、どこに向かおうとしていますか?」

「うーん?気になる?」

「それは、はい」

「だったら、教えてあげるよ。いいところだよ」


 女性は調子よさそうに答える。

 チカは、言われるがままについていくが、どういうわけか向かっていく先というのは、暗い路地だった。


「えっと……」

「うーん?チカちゃんは、こういうところは初めて?」

「もちろんです」

「そっか、そっか……でもねえ。経験をするのもいいと思うよ。お姉さんと経験してみよっか」


 女性がそう言葉にする先にあったのは、基本的に男女が楽しむようなホテルだった。

 女性同士でできるのだろうか?

 思わずチカは真剣に考えてしまっていると、それを見た女性は笑う。


「ふ、ふふふ……真剣に悩んでるって、なかなかに可愛いねえ」

「じょ、冗談だったんですか?」

「当たり前じゃん。私はね、そんなことをチカちゃんに期待しているわけじゃないんだから」

「では、どのようなことを?」

「反応を見たくなったじゃだめ?」


 女性は、可憐にそんなことを口にする。

 チカが男であれば、簡単に落ちてしまいそうな笑顔だった。

 笑顔を見たチカは、あることが気になる。


「あの……」

「なあに?」

「えっと、名前を聞いていなかったと思いまして……」

「うーん、名前か……憶えてないかな?」

「え?」


 女性が一瞬考えたのちに言った言葉は、チカには予想外だった。

 名前を憶えていないと言われるとは思っていなかったからだ。

 とはいえ、女性には名前を呼ばれたくない理由があった。

 それは、名前を呼んでくれた人たちというのは、いついなくなるのかわかっているからだ。


 最初のころは、知っているのであれば変えられるはずだと、視えていた未来をなんとかして変えようとした。

 いくつか確かに変えられたものはあった。

 でも、変えたところで綻びは出る。

 守ろうとしたはずなのに、気づけば全員が死んでいた。

 未来は変わることなどない。

 名前を呼ばれたところで、また自分よりも速く死ぬのを見届けるだけになってしまうというのは嫌だった。

 そう、これは言ってしまえば女性の我儘だったが、チカは考える。


 名前をつけると言われましても、何がいいのかわかりませんね。

 いい名前と言われたところで、チカはそんなことを考えたことがなく、何がいいのかわからない。

 変な名前をつけるわけにもいかず、考え込む。


「えー、そんなに真剣に考えてくれるなんて、嬉しいー!」

「はい。だって、これからずっと呼ぶ名前ですよ。絶対にいい名前にしたいです」

「え、ええ……」


 食い気味に言われて、女性は思わず引いてしまう。

 名前に対して、そこまで何か意味を見出したことがなかったからだ。

 だけど、女性はチカの姿を見て、何かを思い出しそうになる。

 それがなんなのかはわからなかったけれど、女性の口からは思わず言葉が漏れる。


「アンノ……」

「アンノ?」

「ううん、なんでも……ないって、思わないよね。名前を思い出したよー」

「そうなんだ。でしたら、アンノ。よろしくお願いします」

「うんー」


 アンノは、考える。

 思い出さないようにしていたはずの名前がいつの間にか口をついていたのはどうしてなのか、自分でもわからなかったからだ。

 変化?

 変わらないはずだと思っていた未来も、心もほんの少しずつ変わり始めることを、二人ともまだ知らないのだった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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