34、狙う者たち
同時刻、別の場所である男が金の街へとやってきていた。
名はヘリクツと言う。
屋敷の地下室に閉じ込めていたはずの、ガキの姿もやってきた呪われた女も含めて全てが自慢の屋敷から消えており、さらには自らの護衛について役に立つものがいなかったこともあり解雇した。
金をもっと使って、今度こそは自分自身の無敵な牙城を作り出すためにすぐに動いた。
そんなときに出会ったのが、三人の女だった。
真ん中はガキにしか見えなかったが、そのガキの両隣にいた女は、見たこともないほどに綺麗だった。
どういうわけか、長い白のローブを身に纏った女たちは、二種類以上の髪の色をしていた。
「なんだ、お前らは?」
「先ほどお金を出すと言われていませんでしたか?」
「そうだ。俺様にはやりたいことがあるからな!そのためなら大金になろうが関係ないんだよ」
「なるほど、なるほど……それでは、あたくしたちに任せてみませんか?」
「は?」
何を言ってるんだとヘリクツは考える。
元々必要なのは、戦える……そう、あの呪われた女もろともボコボコにできる存在なのだ。
ローブで完全に顔が見えないとはいえ、体付きから妖艶な感じなのはわかった。
(俺様が屈辱を味あわせたい相手は、金で媚びる女じゃねえ!)
思わず心の中で毒づくと、無視して離れようとする。
だが、どういうわけかヘリクツの足は動かない。
よく見ると靴が凍っており地面についていた。
「なんだ、これは!」
「気づきませんでしたか?あたくしたちの魔法ですよ」
「なんだと!」
詠唱もしていないのに、何を言ってるのか疑問だった。
魔法というのは、詠唱しないと発動しないことくらい、魔法をほとんど使えないようなものですら周知の事実だったからだ。
「どうですか?契約してもらえますか?」
「あ、ああ……」
あり得ない出来事を見て、思わずヘリクツは頷くと、すぐに後ろに控えていた女の一人が前に出ると、そのまま手に炎をまとった。
何をするのかと思えば、女は手の炎をヘリクツの凍った足に近づけると、凍った足は解け始める。
何も詠唱することもなく、なんなく魔法を使っていることを見たヘリクツは、こいつらは使えると考えた。
そして、契約金をしっかりと払うと、女たち三人を連れて情報を集めた。
これについては魔法ではなく、もっているお金を使うことで、簡単に情報は手に入った。
ヘリクツがこれまで築いていたものを壊した、あの女のことは絶対に許すことはできない……
こうして、男は金の街へとたどり着いた。
道中でも、契約した女たちは役に立った。
詠唱を必要としない魔法を使うため、魔物が出てこようとしても、慌てることもなく簡単に処理する。
これまでいたやつらとは全く違うのだということが……
「じゃあ、いいか?」
「道中にも聞きましたから、あたくしたちに任せなさい」
女たちにはすでに、あの女の特徴を伝えている。
これで、復讐はできるとヘリクツはほくそ笑むのだった。
※
また別の場所では、キンゲン家から追い出されたレイが、どうするべきかわからずに止まっていた。
これまではうまくいっていた。
当主である父、カイズが求める通りに結果を残してきた。
落ちこぼれである姉と才能はあるが、そんな落ちこぼれと一緒にいる妹となれば、そんな二人よりも確実に次の当主になるために頑張らないといけないと考え、実行してきたはずだった……
「ありえません、わたくしがなんで……」
そう言葉にしても、家から追い出されたときの状況を思い出すだけで、カイズの突き放す視線。
興味がない妹と、何故か心配そうな姉の目線が、余計に自分を惨めな思いにさせた。
「わたくしは絶対に間違っていないはずなのに!」
言い聞かせるようにして言葉にするが、カイズに家を追い出された以上は負け犬の遠吠えにすぎなかった。
そもそも、おかしかった。
母と、レイは年に一度の母の実家に帰るタイミングで、ちょうどチカが誕生日だった。
元々、落ちこぼれなチカのことを、母親も毛嫌いしていた。
嫁ぐこともできれば、なんとかなったのかもしれないが、魔力がないことと変わった見た目から呪われているなどと言われ始めた結果、本当に何もできない存在になってしまった。
だから、家にいなければ、祝うことなどしなくてもいいのだと、いつものようにチカの誕生日に実家に帰っただけだった。
そこからが怒涛の展開ではあった。
見越したかのように、チカが追放されたというニュースと、母も同じく追放されるというものも実家へと書面で届いた。
書類を見たときは嘘だろうと慌てて母に確認をしたが、いつもであれば自信満々なはずなのに今回はどこかしどろもどろだった。
追放についての書面を母は見せてくれたが、理由について書かれたものについては、見せてもらえることはなかった。
そこからだった。
家へ帰りたくない母を置いて、レイは戻ることを決意する。
どうしてかを、全て確かめるためだ。
「書面に書いてある通りだ」
「それは……」
「わかったなら、これからどうするのかを考えるといい」
父に会うと、すぐにそれだけの返答だった。
これからどうするのか?レイにはそう言われたところで今一つ理解できなかった。
これまでは、父や母の言う通りにしていれば、自分というものができていたからだ。
だというのに、今は自分で考えろなどと言葉にする。
わからない。
わからないからこそ、レイはこれまで通りに動くことにした。
まずは秘密に付き合っていた護衛の一人と密会をして、彼とも話をした。
これまで通りで大丈夫だろうと、お互いに語り合った。
だから、これ以上は自分の周りを破壊してほしくなくて、姉の悪い噂をさらに流すことにしたが、それはすぐに父であるカイズの耳に入った。
「今、何を……」
「だから、何度も言わせるな。レイ。お前は、この家には相応しくない」
「はあ?ええ?」
状況を理解できないでいたレイではあったが、カイズも余計なことはそれ以上言うこともない。
だが、レイは粘った。
家から出れば、本当にどうしていいかわからなかったからだ。
追い出されるそのときまで粘ったが、結局何かがあるわけではなく、むしろ余計に惨めになるような形で追い出されることになってしまった。
「なんで……」
そんな言葉が口をついたとき、下を向いた視線の先に影がさす。
レイが思わず頭をあげると、目線の先には、先ほどまでスイの護衛を務めていた男が立っていた。
「レイ」
「トラレ、どうしてここに?」
「決まっているだろ、心配してきたんだ」
トラレとレイに呼ばれ、護衛をした最後にはチカたちのことを睨んでいた男というのは、言葉からわかる通りレイの恋人であった。
護衛と貴族令嬢の恋というのは名前的には、物語であるようないいものではあるが、二人の関係は少しねじれている。
それは、護衛の対象がレイではなくスイであることだ。
どうして、こんなことになっているのか?
それは、男がキンゲン家の情報を盗むために入ったスパイだからなのだが、誰もそれをわかっていない。
これには、扱いやすいレイという存在をうまく使えたからだった。
計画的には、この後もスイの護衛を行うはずだったが、迷宮から試練をクリアして帰ったことを聞いた後に、護衛であるトラレたちはスイたちの護衛の任を解かれたからだ。
普通であれば、屋敷の護衛に戻るはずであったが、それでは自分の計画を実行できないと考えたトラレは、使えるかはわからないとは思わないがレイを利用することに決めた。
心配したようにトラレはレイを抱きしめる。
だが、その顔は酷くゆがんでいるのだった。
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